十番隊の四季 〜夏〜

 最高気温が40度を越しただの、一週間続けて35度を越す真夏日だの、現世のとんでもない暑さに比べたら可愛げがあるにしろ、尸魂界だって、夏は暑いものと決まっている。特に今年は、例年以上に暑さが厳しい。気温は今日も鰻登りだ。
「あちぃ」
 この暑さには冬獅郎もすっかりやる気が削がれ、机でぼーっとだらけていた。元々、氷雪系の斬魄刀の主だけに、寒い分には北極の白熊や南極のペンギンと真っ向勝負出来るくらいの耐性があるのだが、暑さには弱い。ぐったりと椅子に寄り掛かっていたところ、中庭を横切る隊員の姿が目に入った。修練場からの戻りらしく、髪がびっしょりと汗に濡れている。
「みんな、あっちいのに頑張っているよなぁ」
「ですねぇ」
 乱菊もぐったりとだらけているが、彼女の場合、いつものサボリなのか、暑さに参ってぐったりとしているのか、判断はなかなかに難しい。
 しばらく、中庭を行き交う隊員たちを冬獅郎は眺めていた。この暑さにめげずに頑張っている隊員たちを見るにつけ、隊主たる者がだらけていてはいけないと己を叱咤する気持ちが湧き起こって来た。とりあえず、冬獅郎は姿勢を正した。背を伸ばした後も、彼は隊員たちを観察していた。やがて、何事かを思い付いたらしい。おもむろに筆を取ると、彼は紙に何事か書き付け始めた。書き終えると紙片を畳み、見回りに出ようかとしている通りがかりの隊員を窓越しに呼び止めた。どうやら、何か使いを頼んでいるようだ。先ほどの紙片に加えて、財布から取り出した紙幣も預けている。
「隊長、何を頼まれたんです?」
 だらけきった姿勢のまま、緩い口調で問うた乱菊に、
「あいつが戻ってからのお楽しみだ」
と冬獅郎は珍しく、悪戯を思い付いた少年のような笑みを見せた。

「生き返るよな」
「美味いなぁ」
 隊員たちの笑顔が溢れている。
 冬獅郎が隊員に言い付けて買ってこさせたのは、氷蜜だった。他に練乳や茹で小豆、抹茶の粉なども用意されている。きれいに洗った大きな金盥には、冬獅郎が作り出した氷が山盛りになっていた。彼は初めからかき氷状に結晶した氷を、盥に盛ったのだ。隊員たちはめいめいにその氷を皿に取って、好みの蜜で食べている。
 隊員を労う隊主の大盤振る舞いである。暑さにぐったりとしていた隊員たちは大喜びでひんやりとした氷菓を楽しんでいた。
 その時、隊員たちの笑顔の輪の中に、ばびゅんと飛び込んできたものがある。ピンクと黒のその塊は、十一番隊副隊長の草鹿やちるだった。
「あー、かき氷!?」
 目の前に氷の山を認めるや、遮二無二に、やちるは突進しようとした。そんな彼女を寸前で、乱菊が止めた。
「やちる、食べるのは構わないけど、これは隊長が暑さにめげずに頑張っている隊員にって出してくれたのよ。いつもみたいに一人で全部、バクバクと食べるんじゃないわよ」
 その注意に、
「わかった」
とやちるが頷いたので、乱菊は皿を渡してやった。やちるは大胆にも皿を氷に突っ込み、がばっと大盛に取り出すと氷蜜をかぱかぱかけて、ほぼ一息に飲み込んでしまった。唖然とする一般隊員たちを尻目に同じことを三度繰り返し、
「おごちそうさま!」
 告げるなり、来た時と同様にばびゅんと勢いよく去って行った。
「相変わらず、傍若無人な奴だな」
 冬獅郎は呆れた。やちるをよく知る彼だ。もちろん、怒っている訳ではない。それでもやっぱり、隊員たち同様に唖然となるのを禁じ得なかった。
「あの娘にしちゃ、遠慮した方だと思いますよ」
と乱菊が苦笑混じりに執り成した。
 やちるに遠慮して氷を取るのを控えていた隊員たちが、再び、氷に手を伸ばし初めた。氷が減る都度、冬獅郎は補充を行い、もうそろそろ隊員たちは一通り氷を食べ終えたかという頃だ。突然、どやどやと十一番隊の隊員たちが乱入して来た。
 何事だと冬獅郎を含め、十番隊の者たちが身構える中、
「ちーっす」
 先頭に立っている禿頭が冬獅郎に頭を下げた。一見、ぞんざいな挨拶だが、この男としては精一杯の敬意が籠められている。
「こんな大勢で何の用だ?」
 冬獅郎の問いに、
「氷、頂きに来ました」
と一角は答えた。
「はぁ!?」
「暑さにめげずに頑張っている隊員に、日番谷隊長が氷を振る舞ってくれるって聞いたもんッスから、皆でご馳になりに来ました」
「...」
 確かに乱菊はやちるにそう説明した。そして、その際に「十番隊の隊員たち」という限定はつけていない。乱菊にしてみれば自明だったからだ。だが、やちるはそうは受け止めなかったのだ。
「ひっつーがね、頑張ってるみんなにかき氷、食べさしてくれるって」
 自隊に戻ったやちるは、きっと無邪気にそう報告したのだろう。おろおろと冬獅郎を見やる乱菊を一瞥し、冬獅郎は軽く息を吐いた。
「仕方ねぇな。言っとくが、うちの隊員が優先だからな。それをわきまえて食え」
と告げる。
「うっス」
 返事をするなり、一目散に氷に群がる十一番隊隊員たち。冬獅郎は再び溜息を零すと氷を追加した。
 まだ氷を食べていなかった十番隊隊員に十一番隊隊員も加わり、入り乱れて氷をむさぼる。遠慮のない十一番隊隊員たちがどか食いするので、冬獅郎の氷の追加も自然、ハイペースになる。そうやっていると、新たに乱入して来るどやどやとした足音が聞こえた。嫌な予感がして、冬獅郎と乱菊が恐る恐ると足音の方に視線を向けると、予想通りに69の刺青の男を先頭にした九番隊がいた。
「あのー」
 修兵が言い出すよりも早く、
「氷を食いに来たんだろう?」
と冬獅郎は確認した。
「ええ、あの、いいんですか?」
 流石に、修兵は十一番隊に比べると遠慮がちだ。
「うちの隊員が優先だ。わきまえて食え」
と同じことを告げて冬獅郎は許可した。十一番隊に食べさせて、九番隊は駄目だとは言えないからだ。
 作る側から氷はあっという間に消えてゆく。隊を上げてやって来たのは、両隣だけだったのはまだしもだったが、冬獅郎は矢継ぎ早の氷の追加を余儀なくされた。

 副隊長舎の縁側に腰を下ろして、冬獅郎はぼんやりしていた。十番隊隊員だけに振る舞うつもりだったのに、両隣の乱入があった。それ以外の隊からもぱらぱらと訪れた者があったし、良識を弁えた十番隊や九番隊と異なり、十一番隊の隊員たちときたら、遠慮会釈もなしにどか食いするしで、結局、冬獅郎は予定の五倍近い氷を作り出す羽目になった。元々、彼自身が暑さには弱いだけに、霊力の消耗も半端ではなく、彼はぐったりと疲れ切っていた。
 この屋の主である乱菊は、台所で夕食作りの真っ最中だ。お疲れの隊主に精を付けて貰うんだと、彼女は彼女で張り切って台所に消えていった。
 縁側にぽつねんと座り込んで、冬獅郎は夕焼け空を見るともなしに眺めていた。日が傾いたせいか、いくらか暑さはやわらいでいる。
「たいちょ」
 不意に柔らかな呼び掛けが降って来た。乱菊が縁側にやってきたのだ。
「飯の支度は済んだのか?」
 質した冬獅郎に、
「はい。腕によりをかけてご用意しました。ご飯が炊き上がるまで、もうしばらく待っていて下さいね」
「ああ」
と気怠い返事を返す冬獅郎を穏やかな笑みで見つめながら、乱菊は彼の隣に腰を下ろした。






2013.03.04 UP

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