三つ指ついてお出迎え
《京楽×七緒》
隊長会議から戻って、執務室の扉を開いた途端、三つ指ついた七緒に出迎えられた。
「なな…おちゃん?」
「おかえりなさいませ、隊長」
きっちりと頭を下げた瞬間、七緒の眼鏡の縁が妖しく光ったように見えたのは、多分、京楽の気のせいではない。
「補正予算案に目を通されますか? それとも、七番隊との合同演習の計画表をご確認なさいますか?」
「…」
「京楽隊長」
上目遣いで見上げる七緒の目が怖い。
「あの、さ、七緒ちゃん。何してるの?」
「新婚さんごっこです。それで、隊長? 補正予算案になさいますか? それとも、合同演習の計画表ですか?」
「デザートはなし?」
「蕗屋の大福餅をご用意しております」
「えっと、そういうんじゃなくて」
「東春堂の醤油煎餅もございますが」
「あの、ね」
「新婚の若妻風にお出迎えすれば、何でも言うことを聞いて下さるのでしょう?」
居酒屋での馬鹿話が七緒の耳に入ったらしい。確かに昨夜、京楽はそう言った。
「七緒ちゃんが三つ指ついて若奥様みたいに出迎えてくれたらなぁ。何でも言うことを聞いちゃうのに」
と。
「おかえりなさいませ、京楽隊長。補正予算案になさいますか? 合同演習の計画表になさいますか?」
口調だけは若奥様風に迫られて、ついに京楽は白旗を掲げた。
「補正予算案にします」
七緒はにっこりと新妻のように微笑んだ。
《白哉×緋真》
「おかえりなさいませ。白哉さま」
玄関で、緋真に三つ指をついて出迎えられた。
「このような冷えるところで何をしている?」
眉を顰めた白哉に、緋真はしゅんと沈んだ顔になった。
「申し訳ありません。その…、白哉さまを一番にお出迎えしたかったのですが、ご迷惑でしたか」
「いや、その気持ちは心から嬉しい。しかし、玄関は冷える。
まして、緋真はそれほど体が丈夫ではないのだから。
言葉にはしなかったが、妻の体を気遣う白哉の優しさが緋真の身のすみずみに沁み入った。白哉は首に巻いていた銀白風花紗を外すと、ふわりとそれを緋真にかけた。
「明日からは玄関にも暖を入れるよう命じておこう」
「ありがとうございます。白哉さま」
出迎えはいらぬ、と言われなかったのが、緋真は嬉しい。
冷え切ってしまった妻の体を自らの体で温めようとするかのように、白哉は緋真の薄い肩を抱き寄せた。
《浮竹×卯ノ花》
「お帰りなさいませ、十四郎さん」
雨乾堂の自室の襖を開いた途端、三つ指をついた卯ノ花に出迎えられた。
「卯ノ花…」
「どちらにいらしていたのですか?」
卯ノ花は微笑を浮かべている。知らない人が見れば、聖母の微笑み。だが、浮竹にとってはこれほど怖ろしい微笑はない。
「あ、いや、その…」
「はい?」
「天気がよかったし、調子もよかったから、ちょっと散歩に…」
「お薬も飲まずに、ですか?」
「いや、飲んだ」
「十四郎さん」
卯ノ花が「浮竹隊長」ではなく「十四郎さん」と呼ぶ時は怒っている時か、甘える時である。だが、今回は絶対に甘えているのでないことは一目瞭然だ。
「どうやら、池の鯉がお薬を飲んだように思えるのですが、十四郎さんはちゃんとお薬を飲まれたと、そうおっしゃるのですね?」
「 」
「十四郎さん、四番隊特別救護病棟に強制入院になさいますか? それとも肉雫接に呑まれるのがお好みですか?」
「 」
「十四郎さん?」
浮竹は咄嗟に土下座していた。
「すまん、烈」
「何を謝っていらっしゃいますの?」
怖い。
朽木ルキア処刑の際に、総隊長と対峙した時でさえ、これほど怖くはなかったぞ。
そう思いながら、浮竹はひたすらに謝り倒した。
浮竹が卯ノ花の怒りから解放されたのは、小一時間もの間続いた説教の末であった。
《冬獅郎×乱菊》
隊長舎の玄関を開けると、本日非番だった乱菊が三つ指ついて出迎えた。
「お帰りなさいませ、あなた」
「あ?」
胡散臭そうな半目になった冬獅郎に、乱菊はものすごいいい笑顔を浮かべた。
「ご飯になさいます? お風呂になさいます? それとも、あ・た・し?」
「飯食って、風呂入って、それから
冬獅郎は迷うことなく答えた。
「…即答ですかぁ?」
がっかりした顔つきになった乱菊に、
「不満か?」
「もうちょっと、うろたえるとか、恥ずかしがるとかしてくれてもいいじゃないですか!」
「今更、うろたえるか」
余裕綽々で乱菊をいなす冬獅郎に、彼女の胸でもがいていた幼い子供の面影はすでにない。
「育て方、間違ったかしら?」
ぶつぶつと呟きながら、後ろをついてくる彼女の姿に、冬獅郎は今晩はどういう仕置きをしてやろうかと内心でほくそ笑んでいた。
乱菊が本当に育て方を間違った、と悟るまで、あと数時間 。