恋い恋いて 〜大伴坂上郎女で七話〜


《白哉 〜ルキアを養女に迎える前夜〜》

    ほととぎすいたくな鳴きそ ひとり居て寝の寝らえぬに聞けば苦しも *1

 初音の不如帰ほととぎすが啼いている。
 甲高いその声が耳について眠れない。
「違うな…」
 寝間で夜具の上に半身を起こし、白哉は独り言ちた。
「昂ぶっているか…」
 苦い自嘲が零れた。明日、義妹が屋敷に来る。そのことで心がざわついて眠れぬものを、不如帰のせいにしていることに気がついたのだ。
 ずっと捜し続けていた義妹が見付かり、漸く屋敷に迎えることが出来るのだ。嬉しいはずなのに、寂寥を押さえきれないのは、間に合わなかった痛みが小さな棘のように抜けずに疼いているからだ。
 ルキアという名のその少女に誰よりも会いたがっていたのは、一年前に亡くなった白哉の妻、緋真だった。治安の悪い流魂街で生きることに疲れ果て、一瞬の闇に囚われて、彼女は連れていたたった一人の妹を捨ててしまった。魔に魅入られていた時間はほんの束の間のことだった。すぐに彼女は激しい後悔に苛まれ、妹を置き去りにした場所に戻った。けれど、すでに妹の姿はそこにはなかった。
 乳飲み子だったルキアが一人で動けるはずはない。誰かに連れ去られたか、もしや、野犬が餌にと持ち帰ってしまったかと、狂ったように辺りを探し回っても妹は見付からなかった。
 それ以来、緋真の心には決して消えることのない悔恨と嘆きが住み着いた。子供を失った母親が自分の子の身代わりにルキアを拾ったというのなら、それならば、いい。その母親はきっとルキアを大事に育ててくれるだろうから。だが、そうでなかったら? 最初に懼れたように獣の餌になってしまったとしたらなんとしよう。人買いに連れ去られ、妓楼にでも売られてしまったのならどうしよう。生きているのか、どこにいるのか、独りぼっちで泣いてはいまいか。白哉の妻になり、彼に深く愛されてもその後悔は消えることはなかった。むしろ、愛されれば愛されるほど、自分一人が幸せになってという後ろめたさとなって、緋真を苛んだ。
 妹を捜して、捜して、捜し疲れて、彼女は病に倒れ、帰らぬ旅路に就いた。
 死の床で、彼女が末期まで気にかけていたのは見つけることが出来なかった妹のことだった。

「明日、ルキアはここに来る」
と白哉は闇の向こうの緋真の幻に語りかけた。
 約束通り、緋真の妹であるという事実はルキアに伏せてある。ただ、亡妻に面差しが似ているので気に入ったとだけ伝えた。
「私の妹だ。大切に慈しもう」

 だから、緋真。案ずるな。

 幻影の妻が微笑んだ気がした。



《絢女 〜五番隊時代〜》

    夏の野の繁みに咲ける姫百合の 知らえぬ恋は苦しきものを *2

 寝苦しさに、絢女は目を覚ました。
 床に就いた時には月が出ていたというのに、夜半に崩れたらしい。しとしとと密やかに降りしきる雨音が聞こえた。夏の宵の気温の高さに湿気が加わり、ひどく蒸し暑い。身体はじっとりと汗ばんでいた。
 時刻は暁七つだ。夜明けまではまだしばらく間がある。
 もぞもぞと寝返りを打った時、彼女は雨が地や屋根を叩く音とは異なる音を耳にした。

 どうして気がついてしまうのだろう。

 絢女は自分で自分自身が恨めしくなった。
 ぱらぱらと、雨粒が番傘にぶつかる音。ぱしゃぱしゃとぬかるみを歩む足音。それらに気付いてしまい、耳を澄まさずにいられない自分が嫌でたまらなかった。
 足音は五番隊の隊寮に近付いてきた。そして、そのまま、副隊長舎に吸い込まれていった。
 布団の中で丸くなって、ぎゅっと左の胸元を握りしめる。ずきずきと血を流す傷口に手を当てて、絢女は、
「大丈夫。大丈夫」
と呪文のように言い聞かせた。

 大丈夫。取り乱したりしない。
 大丈夫。いつも通りに笑える。
 大丈夫。傷ついてなんかいない。

 だって、彼はただの上司なのだから。同期の友人なのだから。彼が何をしようと、どんな女と夜を過ごそうと、干渉する権利も、その必要もない。

 大丈夫。ちゃんといつも通りに振舞える。

 彼に気付かれることのないように、嘘で塗り固めた自分。彼の女出入りの噂を耳にしても、わざとのように目に付く位置に付けられた小さな虫刺されみたいな紅い痣を目にしても、昼間ならば、平然としていられる自信があった。
 けれども、こうして一人きりで自室にいる時だけは、軋みをあげる心を抑えられない。
「どこにも行かないで。私だけを見ていて」
 決して言えるはずのない、そして、告げてはならない言葉を床の中で小さな声で呟く。
 もう一度、しっかりと胸を押さえて、彼女は呼吸を整えた。
「大丈夫。ちゃんと隠せる」
 言い聞かせる声を、雨音が消していった。



《浮竹 〜席官時代〜》

    うつくしと我が思ふ心 早川の塞きに塞くともなほや崩えなむ *3

 初めて心を寄せた女は、彼にはとうてい不釣合いな名家のお嬢さまだった。
 恩師である山本の私邸に親友の春水とともに招かれた十四郎は、そこで風に揺れる撫子のような少女に出会った。山本の友人の孫娘だというその少女は艶やかな黒髪と利発そうな眸をしていて、日本人形のように愛らしかった。年頃は、彼の上の妹と同じほどに見えた。だから、彼女を愛しいと思っても、それは妹に接するような気持ちなのだと自分でも信じきっていた。
 しかし、彼女のことをどう思うかと山本が春水に尋ねているのを耳にした時、十四郎はもやもやと心にわだかまってくるどす黒い感情に驚いた。
 春水を妬んだことなど、それまで一度もなかった。貧しい下級貴族の十四郎と異なり、春水は富貴な上流貴族の次男坊という気楽な立場だった。身体も頑健で、十四郎のような病持ちではない。恵まれている彼を単純に羨ましく思ったことはあったかもしれない。だが、妬ましさを感じたのはその時が初めてだった。
 何故、と自分の感情に狼狽し、理由を突き詰めてみて得心した。
 妹などではなかった。十四郎は自覚もないままに、あの愛らしい少女に恋心を抱いていたのだ。
 上級貴族・卯ノ花家の長女である彼女、烈には下級貴族出の十四郎は不似合いだった。だが、春水ならば、家柄の点からいっても釣り合いが取れる。烈には妹がいたが、男の兄弟はいなかったから、いずれ彼女か、彼女の妹が婿を取る必要がある。山本の口ぶりから推して、彼や烈の祖母は春水を彼女の婿にと目論んでいるように思えた。何の労もなく、彼女の婿に望まれる春水が、十四郎は心底羨ましかったのだ。
 目の前に立ち塞がる壁が家柄だけならば、十四郎は奮起出来たかもしれない。護廷で上位席官やましてや隊長格ともなれば、譬え流魂街出身者であろうとも貴族と対等に接することが出来る。中、下級貴族出身者が護廷での実力を買われて、跡継ぎのいない上流貴族の養子に入ったという話もよく噂されていた。幸い、十四郎は山本に目をかけられるほど霊力は抜きん出ていたから、護廷で上を目指すことで卯ノ花家と対等になることも不可能ではないはずだった。
 だが、胸に抱える病は、どうしても乗り越えることの出来ない壁だった。
 諦めようと決めた。
 彼女は妹なのだと、自分に言い聞かせた。

 偽りは、けれども、貫き通すことは出来なかった。
 烈に惹かれる心は止められなかった。
 深刻な発作に倒れ、幽明の境を彷徨っていた時、彼女に何ひとつ伝えないままに死んでしまう悔しさに心が震えた。危地を脱し、目を開けた時、彼女が付き添っていたことに安堵した。
「愛してる」
 病持ちだとか、家柄が釣り合わないとか、縛っていた枷から放たれて、十四郎は素直に真情を吐露した。
 見開いた烈の瞳にみるみると涙の粒が盛り上がっていった。
「私も…」
と答えたきり泣き出した烈の背を力の入らない手で撫でてやりながら、やっと言えたと十四郎は思った。



《ルキア 〜叛乱終結後〜》

    恋ひ恋ひて逢へる時だに愛しき言尽くしてよ 長くと思はば *4

 ルキアが大きな木の枝に腰掛けてぼんやりしていると、
「おーい」
と呼ばわる声がした。視線を向けると、赤毛の幼馴染が彼女に向かって駆け寄って来るところだった。あっという間に彼女のいる大木の下に辿り着いた恋次は、ひょいひょい、という無雑作さでルキアの座っている枝に登って来た。
「千寿屋の今川焼を買ってきたんだ。一緒に食おうぜ」
 甘党の恋次がぺらぺらのハトロン紙の袋を突き出す。
「ありがとう…」
 ルキアはひとつを手に取った。

 幸せだ。

 白哉に養女に望まれ、恋次に相談した時、引き止めて貰えなかったことで、見捨てられた気持ちになった。亡妻に似ているのが気に入ったと言っていた白哉だったが、実際に義妹になってみれば、彼の言動はルキアを突き放していて望まれたのだとはどうしても信じられなかった。
 恋次はルキアの幸せを考えて引き止めることが出来なかっただけなのだと。
 義兄は緋真の面影を宿すルキアに戸惑い、巧く感情を伝えられなかっただけなのだと。
 真実を知るまでに五十年近い歳月を要した。愛されていたことを悟れぬままで過ごしてきた孤独で無為な日々を顧みれば、こうして恋次と並んでのほほんと今川焼を食べるこのひとときが途方もない贅沢に思える。
 けれど    

「恋次」
「おう、何だ?」
「何でもない」

 言葉が欲しい。
 そう思ってしまう貪欲な自分がいる。
 例えば、自隊の隊長である浮竹が恋仲の卯ノ花と睦まじく寄り添っているのを目にした時。例えば、八番隊の京楽が副官である七緒に緩んだ声音で呼びかけるのを耳にした時。例えば、十番隊の冬獅郎と乱菊が夕飯の材料と思われる食材を抱えて、新婚夫婦のように隊寮に帰っていくのを見送った時。羨ましいと感じ、いつか自分と恋次もあんなふうにと願っていることを自覚して、ルキアは思わず赤面する。
 そのくせ、面と向かっては素直になれない。馬鹿者、へたれ、阿呆、赤犬と憎まれ口ばかりを叩いてしまう。
 自分からは好きだと言えないのに彼からは言って欲しいと望むことは卑怯だ、とルキアは思う。だが、その一方では、こういうことは男の方から言うべきだと理不尽に思い込んでいたりもして、ルキアは最近、自らの心を持て余し気味である。
「恋次」
「さっきから何だよ?」
「この今川焼…。おいしいな」
「千寿屋のだからな」
 恋次は無邪気に胸を張っている。この朴念仁で気が利かないへたれた男から言葉を貰えるまでの途方のない道のりを思い、ルキアは気が遠くなりそうになった。



《ギン 〜五番隊時代〜》

    思へどもしるしも無しと知るものを 何かここだく我が恋ひ渡る *5

 鎖骨の近くに、ぽつりと小さく紅い痣が目に付いた。
(あぁ、昨夜のおんなか…)
 鬼道を使って消そうとして、ギンは思いとどまった。
 夜着を脱ぎ、死覇装に着替えると、予測通り、その痣は襟元からかすかに垣間見えた。
 上司である藍染はギンの女出入りについては煩いことは言わなかったが、女に付けられた痕を消さずに出勤するとあからさまに不機嫌になった。だが、咎められると知っていて、それでも残しておこうとギンは考えた。
 隊舎に出勤すると、いつものように絢女はすでに机に就いて、今日の仕事の段取りを確認しているところだった。
「絢女、おはようさん」
 声をかけると、
「おはようございます、市丸副隊長」
と三席の口調で彼女は振り返った。
 琥珀の眸が一瞬、彼の襟元を掠め、おや、ともう一度視線が戻る。彼女はすぐにギンの襟元から覗く、ぽつりと小さな紅い染みの正体に納得したらしい。
 顔を上げた彼女は淡々と、
「市丸副隊長。本日の隊長格会議の通達文書です。藍染隊長にお渡し下さい」
と書類を差し出した。
「ああ、うん。ありがとう」
とギンもまた事務的に書類を受け取った。

 そう、納得した。ただ、それだけだった。

 痕に気付いた。けれども、絢女は少しも動揺しない。まるで見なかったかのようにそれを受け流す。いっそ、侮蔑の視線を向けられた方が、まだギンの心は穏やかでいられたかもしれない。だが、彼女は軽蔑することさえもしなかった。自分には関係のないことだと言い渡すかのような無反応は余りに予想を裏切らず、ギンをひっそりと落胆させた。
 執務室の手前で立ち止まり、ギンはそっと鎖骨に手を触れた。絢女に見せ付けたくて敢えて消さずにおいた痕を、密かに消去する。
(ボクにはもう、手ェ伸ばす資格さえあらへんのに…)
 けれど、想いは痕を消すようには消せない。届かなくても、ただ見ているだけでも、この想いは手放せない。
 誰にも見咎められないように小さく溜息を零し、ギンは執務室の扉を開いた。



《七緒 〜叛乱終結後〜》

    我のみぞ君には恋ふる 我が背子が恋ふと言ふことは言のなぐさぞ *6

「ボクの七緒ちゃん」
「LOVEリー、七緒ちゃん」
「可愛い七緒ちゃん」
 彼はいつもそうやって緩んだ声で七緒を呼ぶ。
「七緒ちゃん、好きだよ」
と繰り返す。
 周囲の者は皆、彼は七緒に夢中だと言うけれど、七緒本人はそれを信じていない。目をかけられているとは思う。広い意味では愛されてもいるだろう。だが、きっと彼にとって自分はいつまで経っても小さな女の子なのだと、七緒には感じられるのだ。彼の心には今も、任務に出たきり帰ってこなかった昔の副隊長の面影が住み着いていると思えてならなかった。
 七緒はかつて副隊長だった矢胴丸リサに可愛がられていた。二度と戻ることのなかったあの任務の夜も、一緒に読書をしたくて彼女を訪ねていた。その時に京楽からリサが任務に出たことを教えられたのだ。
「明け方には戻って来る」
と彼は言ったが、リサは帰ってこなかった。ずいぶん後になって、その任務はもともとリサが赴く予定はなかったこと、部下に経験を積ませたいからと、京楽が申し出てリサを行かせたことを七緒は知った。リサが帰らなかったことで、京楽は自分の選択を後悔して、決して周囲に洩らしはしなかったけれど、自分を責めて、その痛みを未だにどこかに引きずっている。副隊長である七緒があまり前線に出ることがないのは、京楽の意向によるものだ。副隊長を務める以上、それ相応の強力な戦闘力があるとはいえ、実際、七緒は実戦よりも事務仕事向きなのは確かだ。
「だからこそ、前線に出すよりも後方支援をお願いしているんだよ。七緒ちゃんなら的確な判断が出来るからね」
と彼は言う。けれど、本音は別のところにあると、リサのように戻ってこないことを懼れていると、七緒は想像してしまうのだ。
 でも。
 七緒はいつも心の中で臍を噛む。
 自分は副隊長だ。隊長を護ることは副隊長の重要な務めではないのか。もちろん、自分如きが、ずっと強いはずの彼を護れるとは思っていない。それでも、たとえその身に代えても隊長を護るのが副隊長の本分のはずだ。
 彼を護りたい。それなのに、護らせてもらえない。
 あの決戦の日も、後方支援の責任者を命じられ、最前線に赴く彼を見送ることしか出来なかった。
 いつまでも、子供扱い。父親が娘を庇うように隊長に庇われ続けているというのに、どうして信じられようか。
「七緒ちゃん、好きだよ」
と告げる彼の言葉を。

 好きなのに。本当は素直に甘えてみたいのに、七緒は意地を張る。
「七緒ちゃん、好きだよ」
を、冗談じゃないと拒絶する。
 いつになったら、ちゃんと大人の女に見てもらえるのだろうと、その日を待ち望みながら傍にいる。



《乱菊 〜冬獅郎の隊長就任時〜》

    山の端のささらえ壮士 天の原門渡る光見らくしよしも *7

 先代隊長と副隊長が揃って殉職して以来長らく隊長位空席だった十番隊にようやく新隊長が就任すると知ったのは、残暑の厳しい頃だった。
 隊長が交代する時、副隊長も挿げ替えられることは珍しくない。ことに、乱菊の場合、第三席から急遽、昇格して副隊長を務めることになったという事情がある為、これを期に三席に戻るのだろうとばかり思っていた。
 だが、山本は乱菊に引き続き副隊長を務めるよう要請した。新しい隊長は、男というより少年と呼ぶ方が似つかわしい年若い者だという。史上最速・最年少の隊長であるがゆえ、実力は備えていても経験が不足している。そこを死神としての経歴も長く十番隊を知り尽くしている乱菊に補佐して貰いたいのだ、と山本から直々に頼まれては否やはなかった。
 そうして、就任式の日、初めて上司となる男と対面し、乱菊は二重の意味で驚愕した。
 ひとつは、隊長の予想以上の幼さであった。少年だと聞いていたので、現世の人間なら中学生か高校生くらいの年頃だと乱菊は想定していた。だが、現れた隊長はどう見ても小学校の中学年くらいとしか見えない外見年齢であったのだ。確かに、これほどに若い、いや、はっきりと言えば幼い隊長は過去に例がない。最年少というのも当たり前だと頷いた。
 だが、その驚きはもうひとつの驚きに比べればささやかなものだった。
 かつて、乱菊は西流魂街で一人の少年に出会った。無意識に漏れ出す霊圧で周囲の人々を怯えさせるほどの力を持った子供だった。共に暮らしていた祖母がその霊圧によって衰弱するまでに強い霊力を持ちながら、自覚も、制御する術さえ知らずにいた少年に、
「死神になりなさい」
と諭したのは乱菊だった。
 本当のことを言うと、彼が死神になるのが正しいことなのか乱菊には自信がなかった。ひとつだけ、はっきりとしていたのは、少なくとも彼がこのまま自らの霊力を自覚せずにいたら、祖母を確実に死に至らしめ、周囲からは恐れの視線を向けられて孤立するだろうということだった。まっすぐで、澄んだ眸をした子供だった。その瞳を悲嘆と後悔で曇らせたくなくて、乱菊は彼に死神になるように勧めたのだ。
 新しい隊長は、正にその時の少年だった。
 彼が示した通りに死神を目指したとしたら、遠からず隊長格という高みに上り詰めるだろうという確信を、乱菊は当時から持っていた。しかし、これほどに早く、隊長にまで駆け上がり、上司として乱菊の前に現われるとは予想だにしていなかった。
「十番隊隊長に就任した日番谷冬獅郎だ」
 初めて、その名を知った。
「松本副隊長。よろしく頼む」
 隊長に対する部下の礼として跪いた乱菊に対し、冬獅郎は親しい友にするように握手を求めて手を差し出した。
 戸惑いながらその手を握り返した彼女に流れ込んできたのは、外見を裏切る力強い、けれども優しく澄んだ霊圧だった。

 この人は、間違いなくあたしたちを導いてくれる。

 信頼と安堵が胸を満たした。

 この人に付いて行こう。
 この人の背中を護ろう。

 乱菊は強く、心に誓った。


*1 万葉集巻八−1484
*2 万葉集巻八−1500
*3 万葉集巻四−687
*4 万葉集巻四−661
*5 万葉集巻四−658
*6 万葉集巻四−656
*7 万葉集巻六−983

駄文倉庫に戻る
トップへ戻る
storage
2011.06.12