忘れない


 部屋の隅に佇み、ベッドに横たわる自分自身の身体を見下ろして、多鶴子は、自分は死んだ、ということを悟った。
 死んだら「私」はどうなるのだろうとか死ぬ前は色々と想像して恐怖に震えたものだが、実際に死んでしまうと何だか魂が肉体を抜けただけのような呆気のなさで、別段、どうということもない。
「これから、どうすればいいんだろう」
 仏教では死者は極楽か地獄に行くものと相場が決まっている。キリスト教なら、天国か煉獄、でなければ地獄。日本古来の神道なら黄泉之国であろうが、仏教説話のように阿弥陀如来がお迎えしてくれるわけでもなく、気が付いたら三途の川の前にいたというわけでもない。もちろん、アメリカ映画などでよく見るように天の一角が明るくなって光に導かれるように天に上る、などという現象も起こらない。さてどうしたものかと多鶴子は途方に暮れた。
 もしかしたら、死んで魂になった者は生きている人間には見えないだけで、普通にこの世に暮らしているのだろうか、などと多鶴子が考え始めた頃、窓ガラスに黒い影が映った。
「あら?」
と多鶴子が窓を見直した時、閉まったままの窓をすり抜けて入ってきた者がいた。
「あら、あら?」
 それはまだ幼い子供だった。黒い着物に黒い袴。己の身長ほどもあるのでは、というほどの立派な長刀を背中に負って、すっくと立っているその姿はきりりと姿勢が良い。姿だけなら江戸時代の武家の子供の幽霊かと思うところだ。だが、その子は見たこともない綺麗な銀色の髪とエメラルドのような翠の眸をしており、纏う雰囲気も幼子にしては奇妙な風格がある。
 子供はゆっくりと多鶴子を見た。
「としろう…くん…?」
 思わず零れた。
 強い、まっすぐな眸が記憶の中に消えずに残っている少年の眸と重なり、多鶴子は息を呑んだ。
「…何で俺の名を?」
 子供が瞬きをして呟いた。その言葉に、多鶴子ははっとして、
「敏郎くんなの!?」
と叫んでいた。知らず、子供の肩を掴み、顔を覗き込むと、
「としろう?」
 彼は首を傾げた。やがて、ひとつ頷いた彼は、
「悪い。聞き間違えた。俺は『としろう』じゃなくて、『とうしろう』だ」
と名を告げた。
「とう…しろう…」
「ああ。日番谷冬獅郎。あんたを魂葬に来た死神だ」
「死神?」
 多鶴子は首を傾げた。
「私はもう死んでいるのに、どうして死神が…?」
 冬獅郎と名乗った死神の子供はがしがしと頭を掻いた。
「あんたたち人間が想像する死神っていうのは、取り憑いた人間を事故や病気で死なせる一種の悪霊だろう?」
「ええ、そうね」
「だが、実際は違う。死神ってのは輪廻の監視者だ。死んだ人間が迷ったり、悪霊になったりしちまわないように魂を死者の国に送ってやる役割を担っているが、人をとり殺したりはしない」
「そうなの?」
「ああ。俺はこのあたりを受け持っている死神だ。あんたが亡くなったから魂葬に来たんだ。あんたは病気による自然死。俺にとり殺されたわけじゃねぇ」
と、冬獅郎は説明した。
 多鶴子は合点がいった様子で頷いた。
「そう…。やっぱり、死んだ人間は死者の国に行くのね」
「ああ」
「死者の国はやっぱり生前の行いによって天国とか地獄とかあるの?」
 冬獅郎は首を横に振った。
「地獄はある。だが、極楽だの、天国だのはねぇ。地獄は生前に許されないような罪を犯した邪悪な魂が送られる場所だ。あんたも含めてほとんどの魂は尸魂界といって、死んだ人間が普通に暮らしていく場所に送られる。ただ、尸魂界も広くてな。死神の監視の目も行き届かない過酷な貧困地域もあれば、治安が良くて豊かに暮らせる場所もあって、どこに辿り着くかは正直、運次第だと言われている」
「そうなの…。あの世も、たいしてこの世と変わらないのね」
「そうだな」
 多鶴子は冬獅郎を見つめた。
「あの…」
「ん?」
「尸魂界は広いって言ったわね」
「ああ」
「それなら、そこで誰かを捜すなんて無理かしら?」
 多鶴子の問いに、
「さっき、名を呼んでた『としろう』を捜したいのか?」
と冬獅郎も問いで返した。
「死に別れた息子さんか?」
 多鶴子は静かにかぶりを振った。
「私は結婚していないから子供はいないわ。敏郎くんは昔、私が国民学校の先生をしていた頃に受け持っていた生徒よ」
「あんた、学校の先生だったのか?」
「ええ。戦争が終わった時に辞めてしまったけれど…」
「その、『としろう』って俺に似てるのか?」
「顔立ちは似ていないわ。敏郎くんはごく普通の男の子で、あなたみたいに綺麗な顔立ちじゃなかった。ただ、目が…」
「目?」
「敏郎くんは意志の強い、だけど、とても澄んだ目をしていて…。そこがあなたに似ていたの」
 多鶴子は冬獅郎をもう一度、見つめた。
 似ていない。多鶴子が受け持っていた生徒たちは戦争中のひどい食料事情の為に、みな痩せてがりがりだったし、そのあたりの町の子供たちだ。冬獅郎のように整った面差しの子なんか、ひとりもいなかった。けれど、みんな純真で、綺麗な目をしていた。
 敏郎くん、正吉くん、育子ちゃん、和美ちゃん、昌子ちゃん…。
 みな、冬獅郎と同じくらいの子供だったのに…。
 多鶴子の瞳から涙の粒が転げた。

     二十七年前、私は東京の下町で国民学校の教師をしていたの。

 まだ、新米でね。受け持ったのは初等科の三年生。死神さんの歳がどうなっているのかよくわからないけれど、見かけだけでいうと、あなたと同じくらいだったかしらね。
 太平洋戦争の末期の頃よ。日本中がアメリカの爆撃にさらされていて。東京は首都だったから、特に空襲は頻繁で…。
 東京大空襲って知っている? 終戦の年の三月頃に大規模な空襲があって東京は焼野原になってしまったの。何万という人が亡くなって…。私が勤めていた国民学校のあるあたりは、幸い焼け残った地域だった。だけど、焼け残っただけに次はやられるってみんな不安に思っていたのね。生徒たちは一人、また一人と疎開していったわ。縁故疎開といって、田舎の親戚とかを頼って身を寄せるの。そうやって、子供たちがどんどん減っていく一方で、田舎に縁故を持たない子供たちは取り残されていって…。
 それで、教師たちで相談して、集団疎開をすることになったのよ。
 甲府にあるお寺のお堂をお借りして、子供たちは私たちが預かって、当分の間、そこで暮らすことになったの。
 教師たちは子供の付添と留守番に分かれてね。私は付添の方で、子供たちと一緒に甲府に行ったわ。
 私の受け持ちの子供たちはまだ十にもならない幼い子だったから、すぐに里心がついていたわ。「お母さんに会いたい」って泣く子供たちを慰めたり、宥めたりするのが私の役目だった。
 敏郎くんは子供たちのまとめ役だったわ。下に何人も弟や妹がいる一番上のお兄ちゃんだったからしっかり者でねぇ。お兄ちゃんだから我慢しなくちゃって考えていたのかしら…。あの子だけは「お母さんに会いたい」って私を困らせたりしなかった。それが健気で、却って不憫だったけれど…。
 田舎は…、食料事情は東京よりかましだったかもしれない。けれど、私たちは言ってみれば居候の身だったし、配給の食料なんて高が知れていたから、みんな、とてもお腹をすかしていたの…。今じゃ考えられないけど、蛙やイナゴも食べたわ。地元の子と仲良くなった子供が教わったのね。イナゴは鍋でから煎りして、醤油をひとたらしすると香ばしくって案外おいしかったものよ。蛙は鶏のささみみたいな味がしたわ。蛙の皮を剥ぐのが残酷で慣れるまで怖ろしかったけど、子供たちや自分自身の飢えを凌ぐためにはそんなこと言っていられなくて、お寺の裏の池でずいぶん捕まえたわね。
 甲府はしょっちゅう、アメリカの戦闘機が飛んできていたわ。富士山を目当てに飛行機は飛んでくるの。だけど、甲府まで来た飛行機は旋回して東…、東京の方に行ってしまっていた。だから、甲府の人たちはみんな、空襲なんてないって高を括っていたのね。私たちも最初のうちこそ、敵機が来る度に怯えて縮こまっていたけれど、爆撃されないまま飛行機が飛んで行ってしまうのを何度も見て、ここは空襲がないって思い込むようになっていった。
 おかしいわよね。そんな保証なんてどこにもなかったのに。ここは大丈夫だなんて。
 あの頃、日本のどこにも大丈夫な場所なんてなかった。狙われやすいところとそうでないところはあったかもしれないけど、絶対に大丈夫な場所なんてどこにもなかったのよ    

 昭和二十年七月六日午後十一時を過ぎた深夜に空襲警報は発令した。
 翌七月七日の午前二時前までのおよそ二時間、甲府市とその周辺市町村はアメリカの編隊による大規模な爆撃を受けた。
 爆撃後の甲府市は県庁舎こそ焼け残ったものの市役所を含む市街地の70%以上が焼け野原となった。
 この空襲は、空襲を受けた日付に因んで、「たなばた空襲」の異名を持つ。

     アメリカの落とした焼夷弾は、私たちが宿舎として借り受けていたお寺の本堂を直撃したの。

 私が助かったのは偶然よ。
 食糧事情が悪かったって、さっき言ったでしょう。真っ白なご飯なんて、もうずいぶんとお目にかかってなかった。大豆ご飯、高粱ご飯、イモご飯、最後には豆かすご飯なんてのも出て…。そのせいで、私たち教師も、子供たちも、よくお腹を下していたの。
 あの夜も私はお腹の具合が悪くて、厠に行っていたのよ。厠はお寺の母屋の裏手にあって、本堂からは離れていたわ。だから、助かった。だから、爆弾の直撃を受けないですんだ。
 だけど、私の子供たちは…。
 せめて…、
 せめて…、即死してくれていれば良かった。苦しまずに、あっという間に死ねたのなら良かった。
 でも、そうじゃなかったの。火傷を負いながら、死に物狂いで本堂から逃げ出してきた上の学年の子や先生が何人かいて…。
 本堂の梁が落ちたのよ。真下にいた子は潰されて即死したけど、ほとんどの子は柱や屋根瓦に埋められて、火が廻って…。生きながら焼かれて死んでいったの。
 手の付けようもなく燃え盛る炎の中から、助けを求める声が聞こえたわ。
「熱いよぉ、熱いよぉ」
って泣き叫ぶ声が聞こえたの。
「多鶴子先生、助けて!」
って叫んでいたのは昌子ちゃん。甘えん坊で、一番、私に懐いてくれてた子だった。
 だのに、私は何も出来なかった。
 火の中で、私が預かった子供たちが泣いて助けを求めているのに、生きたまま、焼き殺されているのに、どうすることも出来ずにただ泣き喚いていただけだった。
 最後に聞こえたのは敏郎くんの声    
「お母ちゃん」
って…。
 一遍も、弱音も泣き言も言わなかった強い子だったのに、最期の最期に…ね…。
 結局、私たちがもともといた東京の下町は空襲を受けることなく焼け残ったの。それなのに、助ける為にって疎開させた子が死んでしまった。預かった子供たちを死なせて、一緒に死んでやることさえも出来ずに、私ひとりがおめおめと生きながらえてしまった。
 つらくて、苦しくて、申し訳なくて…。いたたまれずに、私は教師を辞めてしまったの。
 だけどね、今頃になって、後悔してる。何も出来ずに生き残ってしまった私だからこそ、伝えなければならなかったんじゃないかって…。どんなに苦しくても教師を続けて、二度とあんな悲しいことが起こらないように伝えていくべきだったんじゃないかって…。
 ずっと、後悔していたの…。もう、遅いのにね。

 冬獅郎は背中に負っていた長刀を手にした。
「さっき、あんた、子供たちを捜したいって言っただろう?」
「ええ…」
「尸魂界は広いから、物理的にも捜すのは無理なんだが、もう一つ、無理な理由があるんだ」
と冬獅郎は告げた。
「尸魂界は死者が新しい命となって現世に転生してゆくのを待つ場所だ」
「ええ?」
「だから、転生の順番待ちをする為の間、現世の記憶ってのは邪魔になってしまうんだろうな…」
 多鶴子は首を傾げている。
「俺たち死神にも理由ははっきりとは分かっていねぇんだが、死者が魂葬されて尸魂界に来た時、現世の具体的な記憶はほとんど一切失ってしまうんだ」
「え?」
「自分の名前くらいは覚えているし、人格も保たれているけどな。例えば、親兄弟の名前とか顔とか、友達との思い出とか、ほとんどの具体的な記憶は消えてしまう。例外的に、一緒に死んで一緒に魂葬された場合はその相手のことだけは覚えていたりするんだが…。だから、あんたの子供たちも、一緒に死んだ友達のことは多分覚えているだろうし、きっと尸魂界でも助け合って暮らしていると思うが、あんたのことはもう覚えていないだろう」
「そんな…」
「あんたもそうだ。空襲で受け持っていた生徒を死なせたことも、敏郎とか、昌子とかの子供の名前も、顔も、全部忘れてしまう」
 多鶴子は唇を震わせた。
 どんなに辛くても忘れてはならないことがあるとするなら、多鶴子にとってのそれは助けられなかった子供たちのことだ。どんなに死者の国が広くても、もしかしたら、子供たちは転生してしまって死者の国にはもういないとしても、捜したかった。謝りたかった。
「あんたは忘れる」
 しかし、きっぱりと冬獅郎は断言した。
「けど、絶対に忘れねぇ」
 矛盾した言葉に、多鶴子は困惑して死神の少年を見返した。彼は、とんと自分の胸を叩いて見せた。
「今、あんたが感じている痛みをあんたは忘れねぇ」
 敏郎という子供の顔や名前は消え失せてしまっても、彼の最期の「お母ちゃん」という叫びは記憶から零れ落ちてしまっても、その悲痛な響きは魂に刻まれているから。
「だから、忘れねぇよ」
と冬獅郎は言った。
「あのさ」
「ええ…」
「死者の国は極楽でも天国でもなくて、この世とたいして変わらないって話をしただろう?」
「ええ」
「尸魂界にも病や飢えは存在するし、死んでまで理不尽な話なんだが、やっぱり死ぬこともあるんだ」
 多鶴子は目を瞠った。
「死んで、また死ぬの?」
「ああ」
と冬獅郎は頷いた。
「犠牲になるのは主に運悪く貧困区に流れ着いた子供。事故とか災害とかで一家全員死亡ってのでもない限り、子供も一人ぼっちで尸魂界に流されるから…な。けど、小さな子供が大人の庇護もなしに一人で生きていけると思うか?」
 多鶴子はかぶりを振った。
「護れなかった子供たちを捜すのは無理だ。だけど、先生にはやれることがある」
 冬獅郎は呼びかけを「あんた」から「先生」に変えた。多鶴子もそれに気付いた。
「護れなかった子供たちの代わりに、親の元から離れて一人ぼっちで死んでしまった子供たちを先生が護ってほしい」
と見かけだけは多鶴子の生徒たちと同じほど年頃の死神は言った。
「今のその痛みと後悔を忘れない先生なら出来るはずだ」
 多鶴子は肯いた。
「尸魂界…? そこに行ってしまったら、私はあなたのことも忘れてしまうかしら」
「ああ」
「だったら、もし、死者の国で偶然に出会えてもお礼も言えないわね」
 少年の死神を真っ直ぐに見つめて、多鶴子は告げた。
「ありがとう。わたしを死者の国に送ってくれるのがあなたで良かった」
 すっと、冬獅郎は腕を上げた。長刀の柄が多鶴子の額に触れた。「死生」の刻印が額に刻まれ、彼女の魂魄は現世から消えていった。

 討伐を終え、引き上げてゆこうという死神たちを見ようと大勢の住人が集まっていた。
 討伐自体はたまにないでもないが、護廷の隊長が出てくるほどの大掛かりなものは滅多にない。流魂街の住人にとっては護廷隊長など雲上人も同然である。一目でも見たいと集まって来たのは無理のないことであった。
 だが、住人達を唖然とさせたのは、白い隊首羽織を纏っていたのが年端もいかない子供であったことだった。だが、たとえ見かけが子供であろうと彼が隊長であることは間違いないようで、いかにも頼もしそうな大人の死神たちが彼の前で恭しく膝をついて報告をしている。
 少年が羽織の裾を翻して動いた。
「引き上げるぞ!」
 凛然とした命令の声に、
「は!」
と死神たちは従った。
 沿道を埋めた住人たちの好奇の視線を気にするでもなく、一行は引き上げてゆく。
 だが、不意に、隊長である少年の足が止まった。
「どうしました、たいちょ?」
 傍らに控えていた副官の問いに、冬獅郎は、
「別にたいしたことじゃねぇよ」
と笑みを浮かべた。
「昔、現世駐在してた頃に魂葬した魂魄を見付けただけだ」
「現世駐在?」
 乱菊は目を丸くした。
「隊長、現世駐在なんてしたことあったんですか?」
 現世駐在は末席の下位席官か、そろそろ下位席官に昇進しようかというくらいの実力の平隊員に下される任務である。冬獅郎は霊術院を卒業後、一足飛びに一番隊の上位席官に任じられた。無官の平隊員時代も下位席官も経験していない彼が現世駐在したことがあるとは、乱菊は考えてもみなかったのだ。
「異例なんだが…。総隊長というより、多分、雀部副隊長の配慮だったんだろう。半年ほど、現世駐在した」
「そうだったんですか。だけど、魂葬した相手に会えるなんて、滅多にないことですよ。あたし、隊長とは比べものにならないくらい大勢の魂魄を魂葬してきましたけど、偶然に会えたことなんて一遍もないです。まぁ、あたしの方が覚えてないってこともあるかもしれませんけど」
「だろうな。俺も魂葬した相手を全部覚えているわけじゃねぇし」
「どの人です?」
 声を潜めて、乱菊は尋ねた。冬獅郎は眼だけで指し示した後、
「赤ん坊をしょって、子供の手を引いた女がいるだろう? 絣のもんぺを着た」
と、乱菊同様に小さな声で補足した。
 乱菊が冬獅郎の示した方を見ると、確かにそういう女がいた。現世年齢で五十歳前後くらいの年ごろのふっくらと優しい顔立ちの女だった。背負い紐で乳呑児を背に括り付け、左右の手は四、五歳ほどに見える二人の子供とそれぞれ繋いでいる。乱菊と目が合って、女は軽く会釈した。
「あの人がそうなんですか? 優しそうな感じのおばさんですけど」
「ああ」
と冬獅郎は肯いた。
「小さな子供を連れているだろう?」
「はい」
「頼んだんだ。一人ぼっちで尸魂界に流れてきた子供を護ってやってほしいって。忘れないでいてくれたんだな」
 穏やかに女に一瞥をくれ、冬獅郎はゆっくりと歩み始めた。その後ろを乱菊が従っていく。

     ありがとう。わたしを送ってくれたのがあなたで良かった。

 女の声が聞こえた気がした。


《参考サイト》
  甲府空襲について
  フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
  甲府市HP

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2011.11.20