君の寝顔
《乱菊 Side》
(お昼寝の時だけは、眉間の皺が消えるのよねぇ)
ソファでくうくうと眠る隊首を見下ろして、乱菊は思わず微笑した。八番隊の七緒と昼食を食べに出て戻ってみれば、隊長は昼寝の真っ最中だったのだ。育ての祖母から、
「寝る子は育つ」
と教えられて、早く大きくなりたいと昼寝に励む姿は何とも微笑ましい。外見年齢からは想像出来ないくらいにしっかり者で、精神的にもずいぶんと老成している、と乱菊ばかりか隊員のほとんどが感じている。それなのに、独楽廻しが特技だったり、おばあちゃんの言葉を疑うことなく、字義通りに信じ込んでいたり。思いがけないところで、年相応の姿を見せられると、何だか愛しさがこみ上げてくる。
起こさないように、そうっと、いつも皺が刻まれている眉間の辺りを突いてみる。
「ううん」
と小さく唸ったので起こしてしまったかと、ひやりとした。しかし、彼の寝息は変わらずに規則正しく、乱菊はほっと安堵した。
「可愛い…」
面と向かって告げれば、不機嫌になる台詞を、今のうちにと言葉にする。
「可愛い」は決して彼を子供扱いしているがゆえに発しているのではない。乱菊にしてみれば、純粋な褒め言葉だ。例え、彼が乱菊よりもずっと年上であろうと、いっそ京楽ほどのおっさんであろうと、可愛いものは可愛い。だが、そこが呑み込めずに子ども扱いされたと憤るところがまた、彼の数少ない年相応な部分でもある。
昼休みが終わるまで、あと
それまでは、この貴重なあどけない寝顔を堪能しよう。
乱菊はソファの傍らにぺたんと座り込むと、座面の端に顎を乗せ、上司の寝顔を間近に覗き込んだ。
《冬獅郎 Side》
(ちょっと、目を離すとこれだ)
隊首会から戻ってみれば、ぐうたらな副官は恒例とも言える昼寝の真っ最中だった。
こんなに眠って、一体これ以上どこを育てるつもりだろう。背丈は女性としては平均よりも遥かに高い。男性死神連中から「神々の谷間」と讃えられる見事なクレヴァスを誇る胸の双球も、今よりも大きくなると、逆にグロテスクになってしまうから、もう充分の筈だ。
「太った」
という言葉に敏感に反応するところからしても、横に育ちたいわけでもないようだ。
叩き起こそうと、冬獅郎がすうっと息を吸い込んだ時、副官の口許が緩んだ。へらっと嬉しそうな笑みが零れる。
(締まりのねぇ顔)
彼女を妖艶だの、婀娜っぽいだのと評する連中は、こんな寝顔なんて想像も出来ないだろう。無邪気で、無防備で、童女のようなあどけなさを感じる彼女など、彼らにはきっと有り得ないのだ。
今度こそ叩き起こす。
決意も新たに再び息を吸い込んだ途端、
「たいちょ…」
小さな寝言が転げて、冬獅郎は思わず息を止めた。視線の先には、相変わらずの締まりのない、緩みきって幸せそうな寝顔。
(反則だろう)
冬獅郎は溜息をついて、彼女を起こすことを中止した。
この頬の火照りが引いて、いつものしかめっ面を回復するまで。
「もうしばらく寝ておけ」
冬獅郎はぽつりと呟いた。