無骨な手


 ぴったりと背中に密着した肌は引き締まっていて、硬い。
 あたしの耳に熱い吐息を噴き零しながら、隊長はあたしを愛撫する。
 両の腕で抱え込むようにあたしを抱きしめ、乳房を慰むその手の動きはとても優しい。

 隊長の手は無骨だ。

 いつも眉間に深い皺を刻んで峻厳な(というか、不機嫌そうな)顔つきをしているから、みんなごまかされがちだけど、隊長のみてくれは実はとても優美だ。これを言っちゃうとたとえあたしでも氷漬けにされそうな気がするから絶対に言えないけど、どちらかというと女顔だと思う。だから、大人になった今でも中性的な雰囲気が残っている。だいたい、隊長の美貌は、同性でさえうっとりするようなたおやめ美人のお姉さん譲りなのだ。性格や言動はおもいっきり漢前だけど、外見だけなら優男だ。
 くさい表現になってしまうけど、「白皙の王子様」と呼んでもあんまり違和感がないと思う。本当に、気品のある美形なのだ、あたしの隊長は。
 だけど、隊長の手だけは無骨に漢くさい。
 ほんの少しだけ昔。まだ子供の見かけで、あたしの胸くらいまでしか背丈がなかった頃から、隊長は手足だけは見かけに似合わず大きめだった。身体の割りに手足が大きい子供は、現世の子供なら中学から高校に当たるくらいの成長期にうんと大きくなるって話を以前に耳にしたことがあった。それを隊長に話して、
「隊長はきっと大人になったら、背がすごく伸びますよ」
って言ったら、嬉しそうにしていたっけ。
 その頃も、隊長の手はすでに子供の手ではなかった。手だけは剣を握る男のものだった。
 自らの霊力に慢心することなく、素振りや型稽古を繰り返した手。
 剣を自分の手足と同じように自在に操れるように、たゆむことなく努力を続けてきた手。
 掌は表皮が角質化して、硬く分厚く、指には剣だこがある。
 隊長として部下を護る為に、幼馴染として雛森を守る為に、鍛え抜いたその手は間違いなく子供の柔らかで華奢な手ではなくて、強い男の手だった。

 だけど、その無骨な手は、あたしに触れる時、とても柔らかい。
 まるで、硬いざらついた表皮があたしの膚を傷つけてしまうことを懼れているかのようだ。いつだって、優しい。とても愛しげに、丁寧に愛撫される。

「何、考えている?」
 耳許で囁く声がする。
 その声だけで、ぞわりと感じてしまうあたしをいたぶるように、
「なぁ、何を考えているんだ?」
と隊長はことさらに声を低めて囁きかける。
「隊長の手…」
 あたしは正直に答えた。
「漢っぽいなって考えてました」
「そりゃ、男だからな」
 背中で隊長が苦笑いを滲ませた。
「おまえとは違うだろ?」
「男だから漢っぽいわけじゃないですよ。弓親なんか、どっちかっていうと女性的な手をしてますし…」
「綾瀬川は特別だろ? あれで十一番隊なのが不思議だ」
 ふふ、とあたしは笑った。
「ギンもね、骨ばっているところは男っぽいと言えないこともないと思うけど、けっこう指とか長くて無骨な感じはしないですよ」
    悪かったな。無骨で」
 わざと拗ねた声を出す隊長。あたしは右手を背後に廻して、隊長をあやす。
「あたし、隊長の手、好きですよ」
「無骨で、みっともない手なんだろ?」
「無骨だとは言いましたけど、みっともないなんて一言も言ってないです。僻まないで下さい」
 あたしは右手を背後から引っ込めると、あたしの乳房を慰み続けていた隊長の手に重ねた。
「こんなにこわい漢の手なのに…」
「ああ?」
「あたしに触れる時は、こんなに優しいの…」
 うっとりとあたしは呟いた。
 あたしの掌を上に重ねたまま、隊長はあたしを蕩かし続ける。
「たいちょ…、もっと…」
 あたしのお強請りに隊長は乳房を揉む手に少しだけ力を加えた。だけど、どんなに強く揉まれたって、あたしを愛撫する隊長の手が優しいことはひとつも変わらない。

 隊長の手は無骨だ。

 けれど、その手がどんなに優しいのか、あたしだけが知っている。

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2011.07.20