松の嵐に紅葉みだれて
びょおぉぉぉ びょおぉぉぉ
肉食の獣に捕らえられた哀れな草食獣の断末魔のように、女の咽び泣きのように、風が唸りながら木々を揺らす。
夕前から吹き始めた風は、夜半を過ぎて嵐となった。
晩秋だというのに、空気は生暖かく湿り気を帯びている。今は強い風だけが荒れているが、間もなく、雨が降りだすのかもしれない。
締め切った室内にも生ぬるい湿気は入り込み、乱菊の膚に纏わりつく。その不愉快な湿り気は、焦らされる乾きとないまぜになって、乱菊を追い詰めていった。
胡坐を組んだ冬獅郎の膝上に抱え上げられ、逃げられないように右手でがっちりと拘束された体勢で、乱菊はずっと手指だけを責められていた。冬獅郎のぬめりを帯びた舌が乱菊の指の一本一本を丁寧に
疼く身体をなぶるように、末端だけに刺激が与えられる。
「たい…ちょ…」
音を上げた乱菊は、とうとう、男を呼んだ。
「何だ?」
乱菊の望みなどとうに分かっているはずなのに、空とぼけて、男は応じる。
「どうして、さっきから指ばっかり…」
「おいしいから」
しれっと、冬獅郎は答えた。彼の膝上で、乱菊はもじもじと堪えるように身体を小刻みに動かしている。それの意味するところを承知していながら、冬獅郎は乱菊の指に強めに歯を立てた。
「…たい…ちょ…」
「何だ?」
指から唇を離し、わざと耳元に近付けて囁けば、
「…ひゃ…」
と彼女は身を竦めた。
(相変わらず、耳が弱いよなぁ…)
ほくそ笑みつつ、再び指をしゃぶれば、
「…たい…ちょ…おぉ…」
と弱々しい声。
「何だ?」
「だから、どうして指ばっかり…?」
「おいしいから、っつたろ?」
「…いじ…わる…」
「不満か?」
全て承知で、敢えて尋ねる男は確信犯だ。引っ叩いてやりたい、と心の隅で呟きながら、
「たいちょ…、いじわるしないで…」
と乱菊はやっとの思いで懇願した。
「別に意地悪なんてしてねぇよ」
「だって、さっきから…」
言い淀んだ乱菊に、
「じゃ、どこをどうして欲しいんだ?」
と冬獅郎は逆に問うた。
乱菊の顔が真っ赤に熟れた。
「あ…、それは…」
にやっ、と冬獅郎は笑みを浮かべると感じやすい乱菊の耳朶に唇を寄せる。息を吹きかけながら、
「どうして欲しい? 言えよ」
と囁く。それだけで、大きく身体を震わせた女は、涙目で彼を睨んだ。
「いじわる」
どうも、冬獅郎は、今宵は乱菊を焦らしていたぶることに決めたらしい。
「ほら、言えよ」
とせかす顔つきは、さながら好きな女の子を苛める小学生のように子供じみて楽しそうだ。
言えと幾度も促され、言わない限りは望みは果たして貰えぬとようやくに悟った乱菊は、小さな小さな声で呟いた。
「…胸…」
しかし、いくら抱きかかえられ、身体をぴったりと密着した状態であっても、あまりにか細すぎたらしい。冬獅郎は無言で乱菊を見返しただけだった。
部屋の外で吹き荒れる嵐に翻弄された庭の木立がざわざわと盛大に葉擦れの音を立て、乱菊の吐息さえも消してゆく。
「…胸を…」
含羞で朱を刷いた顔が冬獅郎を見つめた。
「胸を触って…下さい…」
ようやく、耳に届く程度の声量で紡がれた願いに、
「よく出来ました」
と男は背中を支える腕を左に変え、右手で乳房を下から攫みあげた。
「あ…あン…」
同時に耳に舌を挿し入れ先端でちろちろと嬲り、合間に、ふうと息をかける。
ぶるっと乱菊は腰から上を震わせた。
彼女は腕を持ち上げて、冬獅郎の首に絡めた。彼女が自らしがみついてきたことで支える必要がなくなり、冬獅郎は左手も背から外して胸に這わせた。右手でたっぷりとした半球を捏ねくりまわしながら、左手で反対側の乳房の先端の
びょおぉぉぉ びょおぉぉぉ
嵐はますます力を強めている。
木立のざわめきが大きくなり、ともすれば、乱菊の咽ぶような嬌声をも呑みこんでしまう。
冬獅郎の舌がゆっくりと耳たぶから首筋に下りてきた。
きつく吸い上げられ、乱菊は熱い吐息を噴き零した。
「たい…ちょ…。たいちょ…」
乱菊の腰が小刻みに震えた。
先ほど、執拗に手指だけを責めていたように、冬獅郎の指も、舌も、今度は胸より先に下りようとしない。
欲しいものが与えられないお預け状態に、乱菊は惑乱を極めていた。
冬獅郎の唇が乱菊の漿果を含んだ。舌を遣って表面を柔らかく舐めていたかと思うと、不意に強く吸い上げられ、
「や…、あン…」
と彼女の唇から甘い喘ぎが溢れる。同時に、下半身が更に熱を持って疼き、じわりと蜜が溢れ出したのが分かった。乱菊の指はもどかしげに冬獅郎の髪を掻き乱し、先に進めと促していたが、彼は意に介さずに乱菊の胸に愛撫を続けた。
しゃぶる果実を反対側に移し、同時に周りの乳丘を指先を遣って、こりこりと揉みほぐす。彼の掌の中で、豊かな乳房は自在に形を変えていった。
「…た…い…ちょっ、どうしてぇ?」
乱菊は右手を下ろした。向かい合わせの身体の隙間に腕を挿し入れ、彼女は男の下半身を探った。夜着と下帯越しにしっかりと硬度を持った滾りを確認し、乱菊は思わず冬獅郎の顔を検めた。
「ど…して…? こんなになってるのに…?」
牡の顔をした男は女を見返し、
「おまえをとことん可愛がってやりてぇからに決まっているだろ?」
と言い切った。
「可愛がってって…。さっきからいじわるばっかり…」
「ちゃんと言う通りにしてやってるだろ?」
つまり、乱菊が口にしない限り、先には進まないと宣言しているのだ。
ぞくぞくと這い上がってくる疼きに堪えかねて、とうとう彼女は、
「下も…」
と乞うた。
「下?」
「下も構って…」
「下ってどこだ?」
問い返され、乱菊は真っ赤になって絶句した。
妖艶で派手な顔立ちと豊満な肢体。殊更に胸元を
それらの外見のせいで、乱菊は奔放な女と誤解されがちである。自隊の部下たちや隊長格の面々は付き合いも長く深いから、身持ちが固く純情な彼女の本質を承知してくれているが、余所目にはそうは見えないのだ。他隊の下位席官や無位の隊員たちの間では、乱菊は男性経験豊富だ、ということになっている。悪意のある者たちから、誰とでも寝るあばずれと風評を立てられたことも数えきれない。
冬獅郎との仲が明るみになった時も、経験豊富で手管に長けた乱菊が冬獅郎を誘惑して関係を持ったと言い立てる者の数は、冬獅郎が隊長権力で乱菊を手籠めにしたと触れ回る者の数よりも確実に多かった。
だが、実際のところ、乱菊の男性経験は乏しい。冬獅郎が正味で二人目の男だ。
これは乱菊が最貧区出身だったことも大きいだろう。治安の悪い最貧区では女は強い男に搾取されるのが常だった。容姿のいただけない、女としての魅力に乏しい者でも、ただ女であるというだけでならず者の性欲の捌け口にされるのだ。まして、乱菊のように美しい娘が狙われないわけがない。にもかかわらず、最悪の事態に至ることなく最貧区から這い上がれたのは、彼女が強い霊力の持ち主でその霊力でもって身を護れたのと、市丸ギンという、後に護廷三番隊長に上り詰めるほどの稀有な霊力を有した少年に庇護されていたからだ。
けれど、最悪は避けられても、危機的な状況に陥ったことは数えきれないほどあった。一対一なら簡単に跳ね飛ばせる相手でも、数を恃んで襲われると逃れるのは難しかった。確実に倒せる隙を見い出すまで霊力を隠して男たちの蹂躙に耐えたことも、自力では逃げ出せず、あわやのところをギンに救い出されたことも、幾度もあったことなのだ。
力づくでけだもののような男に圧し掛かられ、身体を
ようやく好きになった男性は、そんな彼女を理解してくれた。性交に拒否反応を示す乱菊の気持ちを辛抱強く解きほぐし、愛する男に抱かれることは苦痛ではなく快楽と安らぎをもたらすものだと教えてくれた。中級貴族だったその男は家のしがらみから逃れられず、本意ではないにせよ、最後には乱菊を捨てる結果となった。この為、乱菊は再び恋愛に臆病になってしまったが、冬獅郎と巡り合い、心を通わせた後、彼に身を委ねることに恐怖も嫌悪も感じずに済んだのは、初恋の男との幸せな経験があったからだ。
見かけや噂とは真反対に、乱菊はとても
「なぁ。ちゃんと言ってくれねぇと、どこをどうして欲しいのか分からねえだろう?」
「だから、下を…」
「下ってどこだ? 腰か? それとも腿のあたりか?」
乱菊が露骨な言葉は口に出来ないと承知の上で、冬獅郎は言わせようとしていた。
それは愛しい女の困惑と欲望のせめぎ合いを楽しみたい男の我儘であったが、乱菊を昂らせる目的もあった。彼女をより深い官能と陶酔に導く意味でも、冬獅郎は乱菊にはっきりと己が望みを言わせたかった。
「…う…」
満面に朱をのぼせたままで、乱菊は項垂れた。
平静を保とうとして叶わず、こみ上げてくる疼きを堪えようともぞもぞと動いてしまう火のついた身体をさらに燃え盛らせる心づもりか、冬獅郎は再び乳丘に舌を這わせた。左右の手で捧げ持たれた右の乳房に、螺旋を描くように唇を動かす。
「あん…、あふ…」
思わず漏れた嬌声に風の唸りが被さった。全身を濡らす汗が生ぬるい湿気のせいなのか、他の理由なのか判然としないまま、乱菊は屈した。
「 を触って」
か細い声だったが、彼女はついに口にした。途端に、冬獅郎の手がすっと下りた。言葉にしさえすればちゃんとしてやる、と主張するかのように、彼は乱菊の秘裂に触れた。
「ああっ! あっ!」
後ろにひっくり返りそうなほどに、乱菊はのけ反った.冬獅郎の指はいきなり、最も敏感な
「やだぁ!」
さんざんにお預けされた後に施された急激な刺激に、乱菊から拒絶の悲鳴が迸る。
「ここ、触って欲しかったんだろう?」
と冬獅郎はつれなく嘯くが、彼女は反論することさえ出来なかった。指先で強弱をつけて嬲られ、乱菊はだらだらと汗をながしながら、湧き上がる悦楽に痙攣した。
「あう…、ううう…」
喘ぎとも呻きともつかぬ声が咽喉から滲み出た。身悶える彼女の花唇に男の指がかかった。とろみを帯びた蜜にまみれた花びらを滑って、彼の中指が谷間に落ちて行った。
「たい…ちょっ!」
切羽詰まった呼び掛けに応え、冬獅郎は指を回転させた。板に錐で穴をあけるように中指を左右に振りながら、さらに奥へと捻じ込んでゆく。残された人差し指と親指は、ねちっこくも瑪瑙珠を擦り続けている。
「ひ…あン…。あふ、ふぅ…」
彼の指に内部から叩かれ、苦痛に感じるほどの悦楽の波に、乱菊は攫われた。目の前を、ぱ、ぱ、と短く火花が散り、身体は重みを失って浮遊した。
「…たいちょっ!」
軽く達した乱菊のとろりと濡れた眸と目が合って、冬獅郎はどくりと芯を疼かせた。女を焦らしたくて我慢を重ねていた彼の牡が、ついに咆哮を上げた。彼は下帯をずらすと、
ものも言わず、彼は乱菊の中に己を突き入れた。
「はぁっ…んん! たいちょ!!」
乱菊は歓喜を上げた。だが、冬獅郎はなおも彼女を焦らすつもりらしかった。最初の一突きこそ勢いがあったが、その後は自らの半身をじわじわと時間をかけて進めた。しかも、中途半端なところで不意に侵攻を止めてしまった。
「た…い…ちょ?」
切なさとじれったさがないまぜになった眸で訴えるように乱菊が冬獅郎を見返したのとほぼ同時に、冬獅郎はしがみついていた彼女の腕を柔らかく振りほどいた。そのまま、ひとつながりの動きで乱菊の左足を肩に担ぎあげる。
「ひゃっ!」
バランスを崩した乱菊は、咄嗟に後ろ手をついた。身体が斜めにねじ曲がり、弾みで半端に挿れられた怒張が内部を擦った。
「あっ…」
彼女は短い悲鳴を上げた。
冬獅郎がやおら、乱菊の右足をも肩に担いだ。傾いでいた身体が正面に戻り、再び乱菊の裡が痙攣した。
乱菊を見つめる冬獅郎の頬に、にっと漢くさい笑みが浮かんだ。乱菊が身構える暇もなく、よっこらしょ、という感じで彼が膝立ちになった。彼の膝上に抱えられていた乱菊の身体が滑り落ち、後ろ手についていた腕が反動でがくんと崩れた。
「おぉう!!」
本気で驚いた時の色気の欠片もない悲鳴と共に、乱菊の頭部は狙いすましたように枕の上に落下した。
「た、たいちょ…。下ろして…。下ろしてください!」
焦った乱菊は懇願した。だが、無情にも、
「駄目だ」
という拒否が返却された。
「よくしてやるからおとなしくしてろ」
両脚を抱えられた状態で冬獅郎に膝立ちされた為、乱菊の腰は宙吊りに浮き上がっていた。室内は灯りを絞ってあるとはいえ、真っ暗がりではない。冬獅郎の眼前に乱菊の秘められた場所は余すことなく晒されていた。強い羞恥と、頭部が下がったことによって物理的に血が頭に集まってきていることで、乱菊は目が眩みそうだった。それでなくても熱く火照っていた身体が、かっと熱を帯び、彼女は激しく身悶えした。
「たいちょ、いや。…下ろして、下ろして…!」
返事の代わりに、冬獅郎は腰をぐいと突き出した。挿れかけのままだった冬獅郎の牡に一気に貫かれ、
「やあぁぁ!!」
と乱菊はあられもない悲鳴を上げた。
冬獅郎はそのまま膝を横に移動させた。乱菊の身体も引き摺られて動き、頭が枕からずり落ちた。
「たいちょ…」
秘め処がよく見えるように光源のある行灯の方に移動したと悟り、乱菊は両手を上げてそこを隠そうとした。しかし、冬獅郎の右手がその手を払った。
「だめだ。隠すな」
左手を後頭部に廻して担いだ乱菊の脚を二本まとめて押さえつけたまま、冬獅郎は器用に乱菊の抵抗を封じる。どうあっても隠せないと悟り、乱菊は思わず顔を両手で覆った。
「顔も隠すな」
と冬獅郎は不満を述べたが、乱菊は両掌の下でいやいやと首を振った。
「たいちょ。下ろして。見ないで」
拒絶を哀訴しても、盛った男は昂るだけだ。再び、牡くさい笑みが零れ、
「感じているんだろう? びちょびちょになってるぞ」
と、冬獅郎は乱菊を見下ろして告げた。
乱菊の繁茂は、彼女自身が滴らせた露でぐっしょりと濡れそぼち、雨上りの牧草地さながらのありさまだった。常であればふんわりと柔らかく冬獅郎の指を迎え入れる繁りは、水気を纏い、重みで膚に張り付いていた。張り詰めた冬獅郎を受け入れた
「何つーか、すげぇエロい眺めだな」
乱菊の羞恥を煽るつもりなのか、冬獅郎は殊更に言葉で攻め立てる。
「ここ、ひくついてるぞ」
と反った花びらに指を滑らせる。乱菊はさらに激しく首を振った。金の髪が生き物のように敷布の上で波打った。羞恥心が彼女を過敏にしているのか、内がきゅっと窄まりながら蠕動し、溢れ出た蜜が冬獅郎を温かく包み込んだ。
「すげ、気持ちいい」
思わず、冬獅郎は呟いた。
がたた、と不意に大きな音が響いた。
風向きが変わったらしく、雨戸が風に叩きつけられて、がた、がたた、と音を立て始めた。
「隊長、下ろしてぇ! 見ないで!!」
必死な面持ちで乱菊は懇願するが、冬獅郎は無情にも、
「動くぞ」
と一言告げるなり、風のうねりに呼吸を合わせるかの如く律動を始めた。
「ひっ、や…っ!」
覆った掌の下で、乱菊は大きく目を見開いた。背中が弓なりにのけ反った。
「いや、やぁ! たいちょ、下ろして! 下ろしてぇ!!」
揺さぶられることで、更に血が頭の方に下がって来た。官能の快楽による眩暈と血が集まったことによる生理現象が引き起こした眩暈がいっしょくたになって襲い掛かり、乱菊は一気に高みに抛り上げられた。
冬獅郎はフープを廻す要領で腰をグラインドさせながら、緩急をつけて乱菊を穿つ。乱菊は身を捩って抵抗を試みたが、脚をがっちりと掴まれ、半ば宙吊りになった体勢では為すすべもなかった。
「ひゃ、あ、あ、やっ、あっ」
腰の動きに連動して、頭部も小刻みに揺さぶられ、悲鳴が短く分断された。がたがたと風に叩かれた雨戸の鳴る音が、乱菊と二重奏を奏でている。
「やだ、やだ、やだ! 下ろして、下ろしてぇ!」
乱菊は叫んだ。だが、
「いやじゃねぇだろ? さっきからすげぇ濡れ方だぞ。本気でいやなら、こんなにぐちょぐちょになるか?」
と冷静に返された。冬獅郎にしても、乱菊が心底嫌がることを無理強いするつもりはないのだ。口では「いや」を繰り返しながら、彼女は確実に昂っており、官能の波に呑まれようとしていた。
冬獅郎の動きに反応して、彼女の内部がぎゅっ、ぎゅっ、と収縮と弛緩を繰り返す。収縮はどんどん強さを増し、逆に弛緩は小さいものになっていった。滴りはとめどもなくなり、中には納まりきれずにたらたらと外に零れていく。
「やです。いや、やめてっ!」
「きつい。乱菊、ちょっと力を抜け」
「やだぁ、下ろしてっ!」
溢れかえった乱菊の蜜は金色の繁りをぬらぬらと輝かせ、彼女の腹部を筋を描いて流れ落ちていた。愛蜜によって抜き差しが滑らかになった分だけ締め付けが強くなって動きを阻まれ、冬獅郎は眉間の皺を深くして、律動を強めた。
「ひぃん」
ついに、鼻から抜けるような声を上げて、乱菊は涙を零した。もう、意味のある言葉を発することは出来なくなっていた。ただ、ただ、
「ひぃ、あ、あ、やっ、ひぁっ」
と短く途切れた喘ぎだけが咽喉から転げ落ちていた。
がた、がた、と雨戸が大きく軋む。
びょおぉぉぉ びょおぉぉぉ、と風が唸る。
ひいぃ、と女の咽びが一際大きくなる。
ついに降り出したのか、大粒の雨が板戸に叩きつけられ、ばらばらと小太鼓の連打が響いた。
冬獅郎は執拗に乱菊を揺すり、浅く、深く穿ち続けた。
果てることなく続くゆさぶりと逆流した血流で顔を真っ赤にさせた乱菊は、最早、喘ぎ声すらも失い、壊れた笛の音に似た荒い呼吸だけを繰り返している。
冬獅郎は担いでいた乱菊の足首を掴んだ。そのまま、足をぐっと引き上げると同時、腰を力いっぱい突き出し、乱菊の最奥に自らの半身を叩き込んだ。先端に子壷の口を抉られ、乱菊は声もなく絶息した。
冬獅郎が迸らせた精が乱菊の胎内に渦を巻いた。彼女の脚は爪先までぴんと硬直し、ただ右の小指だけが小刻みに震えた。
は、は、と荒い息を吐きながら、冬獅郎もまた力尽きて、腰を落とした。宙に浮いていた乱菊の背中が夜具に、臀部が冬獅郎の膝上に着地した。
吐精の残滓で身体が浮き上がるような甘美な陶酔感がある。その浮遊感に半ば身を委ねながらも、冬獅郎は担いでいた乱菊の脚を両脇に下ろした。真っ赤な顔のままで忘我の境地を漂っている乱菊の背中に腕を廻し、抱き上げた。
冬獅郎の腕の中に抱きしめられてもなお、乱菊はぼんやりと虚ろな目をしていた。ただ、荒い息遣いだけが冬獅郎の肩をくすぐっていた。未だ絶頂の余韻の中にいるのか、時折、びくりと身体を強く痙攣させている。そんな彼女の背を、先ほどまでの傍若無人な責めが嘘のように、優しくあやす手付きで、冬獅郎は撫でた。
やがて。
乱菊の指が、冬獅郎の背に引っ掛かったままの夜着を弱々しく掴んだ。
冬獅郎が覗き込むと、乱菊は焦点の合わぬ虚ろさを朧に残しながらも、男の顔をその視線で捉えていた。限界まで蕩けきった時だけに見せる、ひどく幼い子供じみた表情が面輪に浮かび、
「…いやって言ったのにぃ…」
と乱菊は舌っ足らずに不満を訴えた。
「よかったんだろう? すげぇ、よがってたじゃねぇか」
澄ました顔で冬獅郎が応えると、
「たいちょのバカぁっ」
と、乱菊の口調がますます子供っぽくなった。
男の肩口に顔を埋め、
「あんなの、もういやぁ」
と乱菊は駄々をこねる。
ぽんぽんと背を叩いてあやす冬獅郎に、
「すごく、すごーく恥ずかしかったんですからねっ!」
と彼女は主張した。
「はいはい」
誠意のない返答に頬を膨らませ、
「たいちょのバカッ! もう知らない!!」
口では悪態をついていても、彼女の手は男にしがみついたままだ。肩に埋められた頭に視線を落とし、冬獅郎は優しい笑みを零した。
「そんなにいやだったか?」
「いやでした! 恥ずかしかったし…」
「悪かった」
「謝るくらいなら、あんなことしないで」
彼女の口調はまだ拗ねている。声音が子供っぽいのは、まだ蕩けている証拠だ。
「おまえが嫌がるなら、もうしない」
今日はな、と心の中だけで付け加えて、冬獅郎は告げた。
「ほんとに?」
「ああ。詫びのしるしに、今度はおまえのしてほしいことだけをしてやるよ」
乱菊は面を上げた。
「そんなこと言って、また、あたしに恥ずかしいことを言わせるんでしょ?」
どうやら、すっかり信用をなくしてしまったらしい。
「言わなくたって分かってるくせに、いじわるですっ」
それでも、昂りきった身体は貪欲に快楽を望んでいる様子で、冬獅郎の出方を窺っているのが見え見えだ。
「だから、ちゃんとしてやるって。どうして欲しい?」
「ほら、言わせるぅ」
乱菊は唇を尖らせた。
「一番最初にどうして欲しいのかだけ、言えって。そしたら、後はちゃんと気持ちよくしてやるよ」
ご機嫌を取る口調で、冬獅郎は言った。
彼女の背中を軽く叩きながらあやし続け、拗ねて逸らそうとする視線をしつこく追いかけ続けると、ようやく機嫌が直ったようだ。
「ほんとに、ちゃんとしてくれる?」
甘ったれた声音が尋ねた。空色の眸が熱に潤んで、彼を覗き込んでいた。
「ああ。約束する」
と冬獅郎は断言した。
「で、どうして欲しい?」
もう一度尋ねると、
「背中から抱っこして…」
と彼女は呟いた。
冬獅郎に抱きかかえられての交接を、乱菊は日頃から好んでいた。ただいま現在のように向かい合わせも悪くないが、互いの顔がよく見えるだけに気恥ずかしさが先走って心から酔えない。背中から抱きかかえられる姿勢は、彼の腕の中にすっぽりと包まれる安心感があって、乱菊はとても好きだった。
「了解」
冬獅郎は乱菊の身体を軽く持ち上げると、正座した姿勢を胡坐に組み直した。彼女の身体を器用に反し、組んだ足の間の空間に座らせる。両手を胸前に廻して抱きしめると、
「…ん…」
と甘く、幸せそうな吐息が洩れた。
冬獅郎はそっと、彼女の項に唇を寄せた。
はげしさはこの比よりもたつた山 松の嵐に紅葉みだれて *1
*1 藤原定家