ジョークは相手を選びましょう


 はてさて、一体どこから、何をどう突っ込めばよいのやら。
 目の前にどんと据えられた大ぶりの箱。その中に納められた物体Xを目の前にして、冬獅郎は心底から呆れていた。
「大変だったんですよぅ」
と傍らに立つ乱菊は、件の物体Xの製作秘話とやらを滔々と語っている。確かに大変だったろうとは思う。だが、その情熱をもっとましなことに傾けられないものかとついつい考えてしまうのも事実だった。

 本日は新暦如月十四日。
 瀞霊廷にもすっかり定着した新しい年中行事、ヴァレンタイン・ディの当日である。冬獅郎の下にも、憧れ・横恋慕取り混ぜて結構な数のチョコレートがすでに山積みになっている。彼には乱菊という恋人がいるのは公然なので、それらのチョコレートは実際のところ、冬獅郎的には長らく迷惑な代物であった。だが、ここ数年、彼はチョコレートを流魂街に配ることに決めたので、どんなに数多くのチョコレートが寄越されようと無問題となった。本命の恋人である乱菊からのもの、十番隊の女性隊員たちが隊首への敬意を込めて贈ってくれたもの、桃や絢女といった家族からのものに、隊長格の同僚である七緒や烈が持ってくる正しい意味での義理チョコ。それらだけを残して、他はすべて流魂街の子供行きである。ちなみにチョコレートが流魂街に渡ることを冬獅郎は公言している。それでも女性たちが冬獅郎に贈ってくるのは、万にひとつでも目を留めて食べて貰えるかもという淡い期待を捨てられないからだろう。
 なお、今年からは朽木白哉もチョコレートの流魂街放出に参加することになっている。白哉は最愛の妻・緋真を喪ってからずっと独り身を守っていた。彼は現世風に言えば文句の付けようがないイケメンで、四大貴族の当主でもある。その上、何と言っても現在特定の恋人がいないという状況は、女性たちにはアピールのし甲斐のある相手と映るのだろう。恋人持ちの冬獅郎とは比較にならない凄まじい数のチョコレートが白哉に集まるのだ。ある程度の数は甘党の副官である恋次と義妹のルキアが片付け、或いは隊員たちのお茶請けに下げ渡したりして消費していたが、それでも限度というものが存在する。毎年、かなりの量を廃棄していたのだそうだ。食糧事情の悪い戌吊出身のルキアはそれが勿体なくてならなかったらしく、冬獅郎が流魂街にチョコレートを配っているというのを聞きつけて、その手があったかと、すぐに義兄に同様にしてはどうかと進言したのだそうだ。
 それは余談である。問題は冬獅郎の前にある物体Xだ。
 冬獅郎が自ら口にする稀少なチョコレートのトップに君臨するのは、いうまでもなく恋人である乱菊から贈られたものである。彼女はチョコレートケーキやトリュフなど、毎年、凝った手作りのチョコレートを冬獅郎に渡していた。そして、今年も、例年と同様に、冬獅郎は乱菊からのプレゼントを喜んで受け取ったのだ。
 箱の大きさからして小さめサイズのホールケーキかと見当をつけて、冬獅郎は箱の蓋を開けた。彼はとりたてて甘味が好きな訳ではないが、白哉のように苦手ともしていない。目の前にあれば普通に食べるし、甘納豆のようにものによっては好物もあるくらいだ。乱菊の作るケーキ類は彼の好みに合わせて甘さを控えめにしてあって美味だし、デコレーションもなかなか凝っていて見栄えがいいので、冬獅郎としても楽しみなのだ。さて、今年はどんなものかと、内心で期待しながら箱を覗き込んだ彼は、視界に飛び込んできた物体Xに反射的に蓋を閉めた。一瞬、目に入ったものが信じられなかった。
 もう一度、箱を見る。蓋が閉まっているので中身は見えず、外から眺める限りは単なるケーキの入った白い箱に過ぎない。
 冬獅郎は心を落ち着けると、見間違いに違いないと自らに言い聞かせながら、再度蓋を開いてみた。だが、無情にも箱の中に納まっていたのは紛れもなく物体Xだった。冬獅郎は唖然としてそれを凝視する以外になかった。

 何で、こうなった。

 物体Xは組成から分類すれば、間違いなくチョコレート菓子だった。だから、ヴァレンタイン・ディの贈り物としては正しいと言えないことはない。また、こんなものを義理チョコとして他の男に配られたりしてはたまったものではないので、贈る相手としても、多分、誤ってはいないのであろう。
 しかしだ。
 その前に、何でこんなチョコレートを作ろうなどと、乱菊は思い立ったのか。
 がっくりと、冬獅郎は項垂れた。
「あら、お気に召しませんでした?」
 しらっとした言葉に、冬獅郎はじとりと彼女を睨みつける。
「色合いとか、本物に近付けるのにすっごく苦労したんですよ」
 それは間違いないだろう。実物と見比べながら、食用色素を調合し、色を重ねたのでなければ、このリアルさはあり得ない。
「型抜きもけっこう大変だったんですから。先端が引っ掛かってなかなか抜けなくって」
 ああ、そうだろう。ついでに型を作るのに消費したシリコンだって半端な量ではないはずだ。
「本当はちゃんとふたつ作りたかったんですけど、量が多くなりすぎるから断念しました。ホワイトチョコは隊長には甘すぎるでしょう?」
 ああ、本当に。
 真面目な話、どこから突っ込めばいいのか。
「絢女にも勧めたんですけどねぇ」
「姉さまにまで、いらんこと、勧めるな!!」
 反射的に冬獅郎は怒鳴ったが、乱菊は意に介さず、しゃあしゃあと続けた。
「『絶対に嫌だ』って頑なに言い張るんですよ。ギンは喜ぶに決まってるのに」
「…だろうな」
 おそらく、いや、間違いなく、ギンならば喜ぶだろう。絢女が自ら型取りして製作したもの限定、という前提はつくけれども。一方、乱菊の誘いを断った絢女は常識人だと言える。いや、常識人でなくとも、普通の女なら断るはずだと、冬獅郎は思う。こんなものを作ろうと考えついた上に実行に移す乱菊の方が色々と間違っているのだ。
 冬獅郎は溜息をつくと、再び、箱の蓋を閉めた。
「あら? いつもみたいに食べて下さらないんですか?」
 毎年、乱菊のチョコレートを真っ先に口にする冬獅郎である。しかし、今年のこれは、お天道様が明るい時間帯に執務室で食する気にはどうしてもなれない。
「夜に食う」
 むすりと冬獅郎は言い捨てた。他の者が誤って開けることがないように、これでもかと言わんばかりに箱を厳重に紐で縛り、執務机の下に押し込む彼を、乱菊はにまにまと眺めていた。

 さて、どうしてくれよう。

 午後の休憩時間のお茶請けに、乱菊のチョコレートではなく、絢女から貰ったごく真っ当なザッハトルテを食べながら、冬獅郎は考えていた。
 絢女も、桃も、冬獅郎にチョコレートを届けに来た時に、何か言いたそうな、心配そうな顔をしていた。乱菊は絢女にも勧めたと言っていたのだから、絢女は物体Xのことを承知しているのだ。そして、絢女から聞いたのか、乱菊自身が話したのかは知らないが、桃も知っている様子だった。二人の顔は乱菊が本当に物体Xを冬獅郎に渡したのかと案じ、彼の反応が気になって仕方がないという表情だった。少なくとも、喧嘩になってはいないこと、険悪な雰囲気にもなっていないことを確認して、安堵していたようだ。かといって、冬獅郎が喜んでいるわけではないこともしっかりと伝わったと見えて、絢女は、
「あんまり乱菊を苛めないでね」
と言い置いて帰っていった。
 姉からは釘を刺されたけれど、こんなふざけた真似を二度と仕出かさないように、きっちりと締めておく必要は感じていた。
(まぁ、夜だな…)
 絢女のザッハトルテは甘さ控えめながら、チョコレートが濃厚な逸品だった。濃いめのエスプレッソとよく合う。
(こういうまともなケーキなら、素直に嬉しかったんだがなぁ)
と、冬獅郎は溜息をついた。乱菊は変化球で冬獅郎を揶揄からかったのだ。ならば、彼も例年のように素直に喜ぶのではなく、捻った楽しみ方をしてもいいだろう。あの物体Xをどんなふうに食べてやれば効果的かと、冬獅郎は優秀な頭脳を回転させ始めた。

 耳年増、という言葉がある。実際の経験は乏しいのに、聞きかじった知識ばかりが豊富な若い女を指す。この場合の知識や経験は一般的な事柄ではなく、ほぼ性的なあれこれに限定されている。
 さて、乱菊であるが、実は彼女も「耳年増」な女だった。海に行くとなれば大胆なビキニを身に着け、普段の死覇装も胸を必要以上にはだけて女を前面に出した着付けを行い、言動も鉄火な姐御肌。宴席では、七緒や勇音ならば眉を顰めるような際どい下ネタにもけらけらと笑い転げる。そんな彼女の言動だけを見ていれば、遊び慣れた経験豊富な女という噂が流れるのも、ある程度は仕方がないことだと思えるくらいだ。だが、実は彼女のそれは、見た目の派手さを逆手に取った一種の自衛手段だった。乱菊は本質的には古風で身持ちの堅い女である。しかし、生まれつきの華やかな美貌や、いつの間にやら必要以上に発達していた乳房のせいで、男の目から見るとどうしても遊び女に見えるらしく、そういう女としての扱いばかり受けて来たのだ。大人しく控えめにしていても、猫を被っているだのなんだのと信じて貰えないのなら、いっそ、その見た目を利用して経験豊富な百戦錬磨を装うことで言い寄る男たちをあしらおうという戦略である。この作戦に則って行動した結果、女性死神の恋愛関係の相談に山ほど乗る羽目になり、やたらと下ネタに詳しくなり、正しく机上の知識だけは海千山千の色街の妓に引けを取らないほどに豊富になってしまった。
 だが、実際の経験値はというとさほどのものではない。まず、数の面からいうと、初めて身を許したのが初恋の男。件の男と別れた後は知識ばかりを蓄えながら実際には恋愛ごととは無縁に生きて来て、次に恋愛関係に陥ったのが現在の恋人である冬獅郎という状態である。正味二人という実質恋愛経験は、女性死神の平均からいってもかなり少ない方だと言えるだろう。そして、初恋の男にしろ、冬獅郎にしろ、決して遊び人ではない。恋人に対して誠実で、色事で無茶なことを強要したりもしない。そうなると、修羅場とか、愁嘆場とかにも縁遠くなるから、その方面での実経験も乏しいということになる。
 そう、正しく耳年増。
 飲み会での猥談や相談事の場合にだけはいっぱしの経験者風を吹かせることが可能なスキルを持っているが、いざ実践となると経験不足であわあわするタイプだ。
 本日のヴァレンタイン・チョコレートはそんな彼女の耳年増な面が、悪趣味な悪ふざけに発揮されてしまった結果だろう。
(口で言い聞かせても、どうせ、何が悪いのか分かっちゃいねえだろうからな)
と冬獅郎は台所で洗い物の水音をさせている乱菊を確認し、昼間貰ったチョコレートの箱を手に寝室に向かった。洗い物を終えた乱菊が、居間に冬獅郎がいないことに気付いて捜しに来ることは計算済みだ。
 寝室で改めて箱の蓋を開け、物体Xを観察する。
(嫌になるほど、よく出来ているよな…)
と冬獅郎は溜息をついた。

 物体Xとは、ぶっちゃけて言うと「おっぱいチョコレート」である。
 乱菊の乳房をシリコンで型取りし、その型にチョコレートを流し込んだものだ。それだけでも、悪趣味といえば悪趣味なのだが、ごく普通の黒いチョコレートで作成したのなら、冬獅郎的にはまだ許容範囲だった。
「趣味が悪いぞ」
と軽く小言を言って、苦笑いしながら食べることが出来た。
 乱菊の性質たちが悪いところは、それをホワイトチョコレートとストロベリーチョコを使用して、不必要にリアルに作り上げた点だった。即ち、乳首から乳輪にかけての部分にストロベリーチョコを流し込み、おおむね固まったところでさらに溶かしたホワイトチョコを投入して乳房全体を作り上げたのだ。その上、型抜きしたチョコレートに食用色素を溶いたホワイトチョコで色を重ね、乳首から乳輪の端に至る色の暈し具合とか、白い乳房の微妙な色合いなどを再現してあった。
 このチョコレート菓子というには余りにもリアルなおっぱいに、冬獅郎が引いてしまったのは仕方がないだろう。こんなエロい代物を昼日中の執務室で堂々と食べることなど、とてもではないが無理だった。万にひとつで、部下や同僚に目撃されようものなら、一生もののトラウマだ。
 居間に戻って来た乱菊は冬獅郎が厠にでも立ったと考えたのか、しばらくそのまま静かに待っていた。だが、一向に戻って来ず、気配もしないのを不審に思ったらしく、捜し始めた気配がした。
「冬獅郎さん…?」
 書斎を覗き、いないのを確認した乱菊は、
「隊長? 冬獅郎さん、どこです?」
と呼ばわりながら寝室に近付いて来た。
「冬獅郎さん?」
 無造作に寝室の襖を開いた乱菊は、そのままぴしりと固まった。
 寝具にしどけなく横たわり、春本を脇に置いて、今朝方渡したヴァレンタイン・チョコレートをねっとりと舐め上げている冬獅郎を目にしたからだ。冬獅郎はちらりと乱菊に視線を投げたが、すぐに先ほどまでの行為に没頭し始めた。
「た、た、たいちょ!? 何してらっしゃるんですかぁ!?」
 数拍の間の後、盛大に乱菊は叫んだ。予想通りの反応だ。
「自家発電」
 冬獅郎は簡潔に答えた。それから、ことさら、見せつけるようにゆっくりとおっぱいチョコレートを舐めてみせた。
    
 一瞬で茹で上がった真っ赤な顔で、乱菊は茫然とそれを眺めた。自らの乳房を象って色合いまでも精巧に再現した代物だけに、冬獅郎がそれを舐めしゃぶるありさまは背徳的で、自分ではない別の誰かを愛撫しているような錯覚を覚えた。乱菊の視線に気付いていないはずがないのに、まるで素知らぬふりで、冬獅郎は閨を再現してみせる。
 ぱらりと、春本の頁をめくる音が静まり返った寝所に響き渡る。
 ぴちゃ、冬獅郎がわざと音を立てて、チョコレートの先端をしゃぶった。
 声も出せず、身動ぎも出来ず、半刻はんこくほどもその淫靡な光景を見詰めていたろうか。
 不意に乱菊はへなへなとその場に崩れてしまった。
「どうした?」
 冬獅郎は敢えておっぱいチョコレートと春本から目を外さず、乱菊に声だけを掛けた。
「何でも…、ありません…」
 消え入るような返答。
「そうか」
 冬獅郎は乱菊を放置したまま、チョコレートの攻略に戻った。
 ぴちゃ、ぴちゃ、と淫猥な舌遣いの音と冬獅郎の動きに従った衣擦れの音。それから、春本の頁をめくる音だけが、再び閨を支配した。

「…とう…しろうさん…」

 震える声の呼び掛けに、漸く、冬獅郎は乱菊を見た。
 最前よりも、顔の赤みが増している。堪えきれないようにもぞもぞと蠢く身体に、冬獅郎は計画通りに事が運んだのを知った。
「何だ?」
 わざと問い掛ければ、
「あの…」
 ほとんど聞き取れない声で呟いたきり、絶句してしまう。ふるりと震える腰と、潤んだ眸が訴えかけるように冬獅郎を見ている。
「何だ、発情したのか?」
 意地悪く問いを重ねる冬獅郎。乱菊はそのあられもない質しに答えられず、はくはくと唇を戦慄わななかせた。
 冬獅郎はおもむろに立ち上がると、乱菊の前に立った。
「で? シて欲しいのか?」
 直截に尋ねれば、乱菊は一瞬、悔しそうな表情を面に浮かべた後、小さくこくりと頷いた。
 伸びて来た冬獅郎の腕が乱菊の腰を捉えた。直後、荷物でも抱えるように、彼女は肩に担ぎ上げられていた。大股に床に戻った冬獅郎は、彼女を無造作に敷布団の上に横たえた。
「とう…」
 呼びかけようとした彼女を遮って、無言で衣服をはぎ取る。先ほど見せ付けられた淫靡な光景で腰が砕けていた乱菊は、ほとんど抵抗できないまま、産まれたままの姿にされた。
「乱菊」
「…はい…」
 真摯な眸で見据えられて、乱菊は上擦った声で返答した。
「悪ふざけが過ぎるぞ」
と冬獅郎は続けた。
「だから、今日はお仕置きだ」
「…おし…おき?」
 乱菊の面に怯えが走った。
「あの…、冬獅郎さん? 何を…?」
 彼女の問いには答えを与えず、冬獅郎は、
「あれ、どっちの胸だ?」
と逆に問うた。
「…へ?」
「だから、どっちの胸で型を取ったのか聞いているんだ」
「えと…」
「答えろ」
「…左…です」
「ふうん。そうか」
 おっぱいチョコレートは内部までみっしりとチョコレートが詰まっているわけではない。型の表面にチョコレートを流し込んだので、裏側から見ると乳房の形に凹んでいる。冬獅郎はおもむろにチョコレートのオブジェを取り上げると、乱菊の左乳房にそれを被せた。
「な、な、な…!?」
 慌てて身を捩る乱菊を強い力で組み伏せ、冬獅郎は口接けた。
「…ん…」
 すでに発火していた体は、接吻キスだけで簡単に炎上した。先ほどまでチョコレートを舐めていた冬獅郎の舌は、蕩けるように甘かった。夢中で自らの舌を絡めて、乱菊は冬獅郎を受け容れる。右手で彼女の肩を抑えたまま、冬獅郎は左手でチョコレートの乗っていない右乳房を玩弄した。
「ん、ひゃ…あぁん」
 乱菊の腰が大きく波打つように撓った。
 左手は乳房を弄ったまま、肩から離れた冬獅郎の右手が乱菊の腰や腿を撫で上げる。
「…あ…、ん…」
 細い喘ぎが洩れ、冬獅郎は秘め所を探った。
「ずいぶんと濡れているな」
「…あ、だって…」
「何だよ? 俺がチョコレートを食べているのを見て感じたのか?」
「…違う…」
「違わねぇだろう? さっき、腰が砕けてたじゃねえか」
「…う…」
 意地の悪い言葉での責めに、乱菊はいやいやと首を振る。尤も、そんな仕草は男の攻め心に燃料を投下するばかりで、鎮火など望むべくもない。耳朶を食まれ、より強く乳房を揉まれ、身体中に吸い付かれて征服の痕跡を残され、乱菊は身悶えた。
「…あ…たいちょ…、と…しろ…さん」
 堪えきれず先に進めと促す。
「そうだな…。もうそろそろいいか…」
と冬獅郎が呟いた。思わず期待した乱菊だったが、冬獅郎の手は左乳房を押さえた。
 く、く、と楽しそうに冬獅郎はくぐもった笑いを零した。
「いい具合に溶けて柔らかくなったぞ」
「…え?」
 冬獅郎の顔が乳房に近付いた。と、直後、彼の舌は乱菊の体温で柔らかく溶け崩れたチョコレートをこそげ取っていた。
「やあぁぁ!」
 乱菊は思わず叫んだ。強烈な刺激に、びく、びくと乱菊は痙攣する。
「やめ…、たいちょ。やめて!」
と哀訴すれば、
「つってもなぁ。おまえの胸、チョコレートでどろどろだし」
と返された。
「うん、やっぱ、きれいにしないとな」
    !?」
「せっかく、おまえがくれたチョコだからな。完食しないと申し訳ねぇし」
 冬獅郎の言った「お仕置き」の意味を、乱菊は漸く理解した。

     もう絶対に、おっぱいチョコレートなんて作らない。

 息も絶え絶えになるまでさんざんにいたぶられた乱菊は、己の浅はかさをこれ以上ないほどに理解して、がっつりと後悔したのだった。

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2014.02.16