溺れ、沈んで、弾け散る
食べ終わった皿をまとめて流しに運ぼうとしているギンに、出来るだけ何気ないふりで、
「今日も泊まる?」
と絢女は問うた。
「そのつもりやってけど、あかんかった?」
「ううん」
絢女はかぶりを振る。
「でも、その…、まだ終わってないの。だから…」
絢女は現在、月の障りの最中である。出血が続いている間は、夜の相手は出来ない。ギンは傍にいるとどうしても触れたくなるから、とこれまでずっと月の障りの間は五番隊隊長舎に泊まることを避けていた。だが、何故だか、今回に限って、彼は泊まりを選択していた。始まった一昨日の夜も、一般に一番重くて経血が多いとされる昨晩も、ギンは絢女のところに泊まり、ひとつ布団で眠った。もちろん、性交はしていない。彼はただ触れるだけの
女性の生理は個人差が大きく、毎月、きれいな周期を保っている者もいれば、不順な者もいる。痛みについても同様で、月の障りが始まる度に強い疝痛や鈍痛に苦しむ女性もかなりの数に上るが、一方、痛みなどほとんどなくけろりとしている女だって多い。因みに絢女は軽い方である。というよりも、護廷十三隊で上位席官以上の任に就いている女性死神は、基本的に月のものが比較的軽く安定している者ばかりなのだ。何故なら、命がけの戦闘を主な業務とする死神なんぞを稼業としている以上、生理が重いのは職業上の適性として問題があるからだ。月の障りはだいたい五~七日ほどだから一月の二割に当たる。痛みで動きが鈍くなったり、判断力が低下している者には危なくて討伐は命じられない。一人二人であれば、生理中は内勤に回すなどで乗り切れるが、月の二割が不調になる者の人数が多いほど調整も難しくなる。また、生理が重い者ほど周期も乱れがちだ。討伐の最中や準備中に突然始まって動けなくなると、本人はもちろん周囲にまで危険が及ぶ。そんなわけで、極端に月のものの症状が重たい女性は、死神という職に就くのは無理だと霊術院在籍中に引導を渡されてしまう。多少辛いがおおむね動けるという者は無位のうちに四番隊に通い、周期が安定し生理痛が軽くなるようにひたすら体質改善に努めるしかない。そうやって、痛みの有無は措いても月の障りの真っ最中であろうと平時とほぼ遜色なく業務をこなせる女性だけが淘汰されて残るのである。
出血が鬱陶しいだけで、痛みらしい痛みはほとんどないから、腹を
「…泊まったら、明け方に帰らなくちゃいけないでしょ? ゆっくり休めないんじゃ…」
泊まるという返事が嬉しかったくせに、余計なことを言ってしまう自分が嫌だった。しかし、ギンは気に障ったふうもなく、
「明け方に起きなあかんかっても、絢女が傍におってくれた方がよう眠れるもん」
と応じた。
「そう…」
「絢女はいや? 傍にボクがおると鬱陶しい?」
そんな訊き方はずるいと思う。いやなはずがない。鬱陶しいわけがない。今晩もギンの温もりに寄り添って眠れるのが嬉しくてならないのに。
風呂上がりのほかほかと温まった身体をそっと布団に滑り込ませると、待ち構えていたギンにすかさず抱きしめられた。
わずかにかさついた薄い唇が額をかすめて、左の瞼に降りて来る。夜着の合わせから入り込んで来た掌にふわりと乳房を押さえられて、
「…ん…」
と絢女は短い吐息を洩らした。やわやわとギンの指が優しい力加減で、乳房を揉み込んで来る。前戯の際の官能を揺さぶるような強さではなく、少し物足りないくらいの加減だ。
「ギン」
薄ぼんやりとした行灯の光に浮かび上がったギンは柔らかに絢女を見下ろしていた。
「お腹を
「痛いのん?」
「痛くはないけど…、でも摩られると気持ちがいいの」
痛みはない。しかし、下腹部にわずかに蟠るような重さはあるのだ。仕事中などの他に集中していることがあれば意識にも上らない程度の違和感がギンに摩って貰うと和らぐのを、絢女はもう覚えてしまった。
「ええよ」
ギンは胸を慰んでいた掌を下ろした。人差し指でくるりと臍周りをひと撫でした後、ゆっくりと横長の楕円を描くように絢女の下腹部を摩る。耳に呼気を吹き込むように、
「気持ちええ?」
と尋ねられて、絢女はこくこくと頷いた。合わせが開いて少しはだけているギンの胸元に顔を寄せ、頬を摺り寄せると左手でゆるりと頭を撫でられた。ギンの指が絢女の髪をするすると抜けてくし梳ってゆく。はずみで首筋を撫でられるのがくすぐったくも心地いい。そっと唇をギンの肌に触れさせると、彼は微かに身動ぎをした。
「あ、ごめんなさい。くすぐったかった?」
「いいや、気持ちええよ」
「そう」
気持ちがいいと告げられたので、絢女はそのまま唇でギンの肌を辿った。流魂街に流されてきた当時からあったという古い刃物傷を唇と舌先でなぞっていると、旋毛にギンの吐息を感じた。同時に、腿の辺りに硬さを知覚し、思わず、ギンを見上げる。
「…あの…」
「うん?」
「手でなら…」
今日は受け入れることは出来ない。だが、兆し始めた彼のものを放置するのも
「こんくらいなら、すぐに治まるし、ええよ」
「でも…」
「何もせんでええから」
と彼は絢女の身体の位置を上にずらして顔を向かい合わせた。右手はたゆまずに絢女の下腹部を摩り続けているが、左手は彼女の後頭部を押さえて来た。
「ふ…」
唇を触れ合わせるだけの軽い
「姫さん…」
絢女には姫君だったという記憶も自覚もないけれど、ギンに「姫さん」と呼ばれるのは好きだった。もともとは主従関係だったが故の呼び名だったのかもしれない。けれど、今のギンが「姫さん」と呼ぶ時に込めているのは、ただの甘やかしと所有欲だ。「ボクの姫さん」、「ボクだけの姫さん」と声にならない声で主張されている気がして、そう呼ばれる度に絢女は満たされる。殊に抱き合っている時にギンの「姫さん」呼びは頻度が増す。追いつめられた絢女を宥めようとする時に多用するのは意図的なのかもしれないが、ギン自身が昂っている時にそう呼ぶのは無意識なのではないかと、絢女は感じていた。
繋がれないけれども、もっとギンを感じたい。
今度は絢女から唇を重ねた。離すと、ギンの唇が追いかけて来て、幾度も幾度も小鳥のついばみのような接吻を繰り返した。絢女は自分の後頭部にまわされたギンの左手を取った。そのまま指を絡めるようにして手を繋ぐ。こういう手のつなぎ方を現世では「恋人繋ぎ」と呼ぶのだと教えてくれたのはルキアだったっけと思い返しながら、身体をギンに密着させ、彼の肩口に顔を埋めた。さらりと柔らかな銀の髪が絢女の頬を撫でる。髪を洗ったせいか、今日は煙草の香りがしない。
「なぁ、姫さん」
「なあに?」
「月のもんが終わったらなぁ…」
「ええ」
「いっぱい姫さんのこと可愛がりたいんやけど、ええかな?」
「あんまり激しいのは…」
「うん。
「今だって充分甘やかされている気がするけど?」
「もっと、もっとや」
「もっと?」
見つめるギンの穏やかに微笑んだ表情に胸を鷲掴みにされて、絢女は繋いだままの彼の左手をぎゅっと握り込んだ。同じ強さで握り返されて、とくとくと鼓動が高鳴る。
「ギン、好きよ…」
「ボクも好きやよ、姫さん」
彼の体温が、耳朶を微かに震わせる呼気が、絢女の思考力を奪った。ふわふわと夢見心地な気分が、緩慢な眠気を運んでくる。理性がほとんど働かないままで、絢女は仔猫が親猫に甘えるようにギンに身体を摺り寄せた。
「好き…、大好き…」
「ボクも…」
「ギン、好き…」
と最後は半ば寝言で呟いて、絢女は
隊長会議が終了しすたすたと入口に向かうギンを、絢女は足早に追いかけた。男で絢女よりもずっと背が高いギンは、当然ながら歩みも速い。一緒に出掛ける時は絢女の歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれるが、今は単純に隊舎に戻ろうとしているだけなので、絢女を気にしておらず、距離が開いてしまった。
廊下に出たところで背後から小走りで追いかけて来る絢女の気配に気付いたらしく、ギンは立ち止まった。そのまま絢女が追い付くのを待って、横に並んだと同時に彼女の歩みに合わせてゆっくりと歩き出す。声に出して呼び止めなかったことで、絢女の用件が公用ではないことを察していたのだろう。隣の絢女にだけ聞こえるくらいの小さな囁きで、
「どうかした?」
と、ギンが問いかけて来た。
「あの…、終わった…から…」
何が、なんて言わなくても彼は承知している。彼の頬が笑みで緩んだのを視界の端っこで確認し、絢女は羞恥で俯いた。
「…したら、今晩はボクのトコにおいで」
とギンは告げた。
結局、月の障りの間、ギンは絢女の下に通い詰めたのだ。夜毎に優しく抱きすくめられ、彼の匂いと体温に囲まれて眠るのは途方もなく贅沢で幸せだった。痛みはほとんど伴わない
「え…と、三番隊長舎…に?」
「うん。今晩はボクのところに泊まり」
「…はい」
密やかな返答を聞き届けると、ギンはすっと絢女の前に出た。
「したら、待っとるから…」
後ろ手でひらひらと絢女へ向かって手を振りながら、ギンは本来の歩調で離れてゆく。絢女はその背中をぼんやりと見送った。
(どうして…今日は三番隊隊長舎に?)
彼の許を訪れるのが嫌な訳ではない。泊まりの頻度は五番隊隊長舎の方が圧倒的に多く、いつも、明け方に早起きして帰って行く彼を申し訳ない思いで見送っていたのだ。だから、ギンが三番隊隊長舎と告げても文句などありはしない。だが、数日ぶりとなる交接が確実な今夜、敢えてギンのところでと指定された理由が気になった。
(もしかしたら、今回に限って、生理中もずっと泊まっていたことと関係があるのかしら?)
何か企んでいるという予感はあった。だが、彼に企みがあったとしても、行かないという選択肢は絢女に存在しない。傍にいたい、抱きしめられたい、彼の温もりに包まれたい、そして、ひとつになりたい。
ギンの背中が廊下の角を曲がり、見えなくなっても絢女はその場に立ち尽くしていた。かなり遅れて会議室を出て来た冬獅郎に、
「姉さま、そんなところに突っ立ってどうしたんだ?」
と不審げに問い掛けられ、はっと彼女は現実に戻った。
「あ、ううん。ちょっと考えごとをしていただけ…」
「顔…、赤いけど…」
「え? …そうかしら?」
「市丸に何か言われた?」
「そうじゃないけど…」
言葉を濁した絢女を冬獅郎は追及しなかった。いつまで経っても初な反応をする絢女をギンが揶揄うのは日常茶飯事だったから、どうやら、またかと思われたらしい。
「姉さま、ゆっくり帰った方がいいぞ」
言外に、頬の火照りを冷ませ、と忠告されて絢女はますます赤面して、唯々頷いた。
三番隊隊長舎には余り食材がない。そのせいか、ギンのところに泊まる夜は外に食べに出るか、鮨などの出前を取ることが多かった。だが、
「絢女、堪忍。今日はボク、あんましお腹が空いてへんのや。夕飯はあり合わせやけどお饂飩でええ?」
と問われて、絢女は眉を顰めた。
「それは構わないけど、食欲がないの? 具合が悪いのなら…」
「ああ、違うん。今日はちょっと色々あって来客が立て込んでなァ。お客さんに付き合うて茶菓子を何度も食べたモンやから…」
絢女はほっと息を吐いた。
「お菓子の食べ過ぎで胸焼け?」
「そこまではないん。ただ、お腹は空いてへんし、重たいもんは食べとうないん。お饂飩か雑炊くらいがちょうどええ思て。絢女が足りひんのなら出前でも頼もうか?」
絢女は首を横に振った。
「私もお饂飩で充分よ」
今日はずっと内勤で身体を動かしていない。たまには、軽くて消化の良い饂飩だけで、胃を休ませても良いだろうと判断し、出前を断った。
饂飩くらいならギンが作ると申し出てくれたのだが、絢女の方が手際がいいので最終的にいつも通りになった。絢女が作ったあり合わせの野菜と蒲鉾、落とし玉子を入れた饂飩を二人で食べて、ギンが後片付けだ。
いつもと違う。
絢女は感じていた。月の障りの後の交わりは間が空いた分だけ普段よりも期待や緊張感が強いものだが、数日間、ただ睦言を囁き合い、触れるだけの優しい愛撫を経た今日は自分でも期待が驚くほど高まっていると自覚していた。受身な絢女にしては珍しく、早く触れて欲しいと欲求がはちきれんほどに膨らんでいる。
長風呂の絢女にしては短めに風呂を上がり寝室に赴くと、ギンは巨大な寝台に胡座をかいていた。右手の肘を腿に乗せて頬杖をついた姿勢で、近付く絢女を愛おしそうに見つめている。その瞳に気持ちが全部持っていかれてしまった。
「ギン…」
ベッドに上がり、にじり寄ると、彼は腕を伸ばして絢女を捕らえた。強引な程の力加減で引っ張られ、気が付けば彼の膝に横抱きに抱えられていた。
「絢女」
見つめられて、心臓の鼓動が跳ね上がった。まともにギンと視線を合わせられず、おろおろと逃げ場を探す絢女の口から転げ出たのは、
「照明…換えたの?」
という問いかけだった。
「うん。何や幻想的で綺麗や思て。絢女、こういうん好きなんと違う?」
寝台の脇に据えられた小箪笥の上には小さな間接照明が置いてあった。これまでギンが使っていたのは、和紙を張った円筒形のごく普通の行灯である。だが、今、室内は流れるような光の粒子がちりばめられていた。新しい照明は本体は大きな瓢箪である。瓢箪の表面は川の流れを連想させる緩やかな曲線状に大きさの異なる円形の穴が彫刻されていた。小さな円は錐で突いたほど、大きな円も一分にも満たないほどの直径である。所々にごく小さな星型のくりぬきもある。内部に仕込まれた照明の光がその穴から漏れ、壁や天井に無数の光の粒を映して、まるで天の川のようだ。削られていない本体も完全には光を遮っておらず、瓢箪は暗い柿色にぼんやりと発光して見える。ギンの言う通り、妖しくも幻想的な光の揺らめきだ。
「綺麗ね…」
「気に入った?」
絢女は頷いた。本当に綺麗だ。そして、どこか官能的でもあった。瓢箪ランプから洩れる光の陰翳がギンの顔をも彩り、陶然と見入っていると、急に彼の顔が視界一杯に広がった。
「あ…っ…」
額に
「…あ…」
再び、背中をぞわぞわとざわめきが抜けた。降りて来た彼の唇が額に、頬に、瞼にと篠突く雨のように降り注ぐ。しかし、口には掠めもしてくれない。焦れた絢女は、
「ギン、ちゃんと
と呟いた。額や頬ではもう物足りないのだ。もどかしげな強請りに、漸く唇が重なった。しかし、触れ合った体温を味わうように、ギンはそのまま動かなかった。
我慢が出来なくなって動いたのは、やっぱり絢女の方だった。小さく口を開くと、舌先でおずおずとギンの唇をつつく。それは、いつもであれば、なかなか唇を開こうとしない絢女を促す為にギンが仕掛ける行為だった。
途端にぬるりと舌が絡み付いて来て、絢女の身体が跳ねた。
「あ…う…」
自分でも吃驚するくらいに甘く兆した声が零れて、絢女は目を瞠った。ギンの舌が歯列をなぞり、口内を縦横に這い回ってゆく。上顎を舐め上げられて、絢女の身体はまたもびくびくと跳ね上がった。
(ああ、でも…)
やっぱり、いつもと違う、と絢女はまた思った。絢女の口腔を犯すギンの舌の動きは、ゆっくりと常より増して丹念だった。性急さや貪るような激しさはなく、けれども、慈しみと熱情が溢れていた。右手が耳から項を辿り、鎖骨に触れた。そこから夜着の合わせを寛げて、ギンの掌が絢女の左の乳房を緩く掴んだ。
「あ…」
柔く、ギンは絢女の胸を揉んだ。ランプから零れた光の欠片が、彼女の乳房を橙色に染め上げた。
「姫さん、可愛え」
「…ギン」
絢女も右腕を持ち上げて、ギンの肩から首に腕を絡めた。唇を彼の胸に寄せ、鎖骨の辺りに舌を這わせる。ギンの掌がすいと胸から腹部に降りてきて、ゆっくりと摩るような愛撫を施して来た。絢女の肩口に顔を埋め、彼は絢女の項を味わうように舐め上げ、跡が残らないほどの強さで甘噛みをした。
「…ひ…」
声が抑えられない。
「…あ…あ…」
と言葉にならない喘ぎが旋律となって流れ出す。無意識に腰が揺れているのか、寝台のマットレスがきしきしと微かな音を立てた。
ギンが絢女の耳朶をしゃぶった。
「やっ!」
絢女の肩が大きく震えた。ギンの舌先が軟体動物のように耳の中に入り込んで来たのだ。ぬるりと湿った柔らかい塊が内耳の皮膚を這い、ぐちゅ、ぐちゅとくぐもった音と生温い吐息が鼓膜を直接に震わせた。
「ギン、や…だ。…や…」
鼓膜の震えは漣となって全身に広がった。震えと共に快楽に身体を冒され、絢女はただ、
「やめて…」
と訴えるよりなかった。
なんで、どうして…。
熱に浮かされて思考が回らない。いつもよりも柔らかな愛撫なのに、ちっとも激しくされていないのに、身体が熱くて、疼いて、快楽の波が絶え間なく押し寄せて来る。過ぎた悦楽に本能で慄いて、絢女は、
「や…、やめ…、ひう…、もう、や…」
と嗚咽交じりの喘ぎとともに哀訴した。
ギンの前戯は丹念だ。だが、今宵はいつもにも増して時間をかけて丁寧に、ねちっこいまでに焦らされ尽くして、愛撫されていた。
「ひっ、やぁぁ!」
未だ性器に触れられてさえいないのに、すでに絢女は三度も浅く達していた。ギンの額にも汗が滲み、時折歯を食いしばって快楽をやり過ごすような表情をみせている。しっかりとした硬度をもって反り返った肉が下帯越しに、何度も絢女の下腹部や腿に当たっていた。漸く、ギンの指が絢女の蜜壷に到達した時、指が掠っただけで絢女は四度めの絶頂を迎えた。
「ギン、ギン…、おね…がい…」
溢れた蜜で、下着は既にじっとりと濡れそぼっていた。下生えの茂みも露を含んでぬかるんでいる。
「ようさん濡れて…」
「だって…ギン…、だって…」
腰帯はいつの間にかお互いに解けてしまっていた。はだけた前から、絢女はおそるおそるとギンの下帯に指を掛けた。理性は全く働いておらず、自分が何をしているかも良く分かっていなかった。ただ、もどかしくて、もどかしくて、彼が欲しくてたまらずに、いつの間にか彼女は手を伸ばしていたのだ。ギンは絢女が濡れていると告げたが、ギンの下帯も先走りでべたべたに湿っていた。下帯を解く手順は弟が幼い時分に世話をしていた時に覚えてしまっていた。熱に浮かされたままで、絢女は自分と恋人を隔てる布を除き、すっかり漲り切った彼の分身を両の掌で包み込んだ。
「…ッ!」
ギンは眉間にぎゅっと皺を寄せた。息を詰めたまま、彼は絢女の手首を掴み、自分のものから掌を引きはがした。そのまま彼女の手を自らの背中に誘導し、
「掴まっとき」
と囁く。絢女は蕩けた眸のまま、こくりと頷いた。
ギンは絢女によって取り出された己の分身を、絢女の秘部に押し当てた。指を火陰の奥深くに押し込んで彼女の裡を掻き乱しながら、外側の花びらに分身を擦り付ける。
「…いっ…、ひぅ…」
はくはくと絢女の唇が痙攣した。呼吸が浅く速くなり、もう何度目か分からない喜悦の大波が押し寄せて来る。琥珀の双顆は水の膜で覆われていた。ランプが作り出した天の川が滲んで映った。
「ひぁ…、あっ…あ…、あぅ…」
白い首筋をのけぞらせ、絢女は大波に攫われまいと足掻いた。ギンの指が抜き取られ、蜜口にもっと熱い質量をもったものが押し当てられた時、待っていたはずなのに、思わず逃れようと本能で腰を引いてしまった。頭の中はもうぐちゃぐちゃに混乱していた。過ぎた快楽に期待よりも怯えが上回って逃げ腰になっても、幾度も達した身体は抵抗らしい抵抗も出来ずに、楔を打ち込まれてしまった。隘路を掘削するように、ず、ず、と殊更ゆっくりと侵攻してくる牡に内壁を擦られる度に、更に大きな波が押し寄せて来る。
「…や…、ギン…、変…、…あ…、おかし…いの…や…だ…」
絢女の訴えに応える声はない。ギンはギンで唇を真一文字に引き結び、ともすれば攫われそうになる意識を必死になって保っていたのだ。
ぽたり、とギンの汗が絢女に滴る。
ぽたり、ぽたり
「全部…、入った」
呟きの直後、ギンは大きく息を吐いた。吐き出された熱い呼気が首筋を撫で、絢女は、
「…ひ…」
と細い悲鳴を上げた。
絢女に覆いかぶさったまま、ギンは動かなかった。
熱い。
熱くて、火傷しそうだ。自らの胎内を埋め尽くした質量に圧迫されて、絢女はギンの背中にまわした腕に力を込めた。
動いて欲しいのに、もし動かれたら気が狂ってしまいそうで、怖くて、怖くて、
「怖い…」
と彼女は零した。
「ん…ギン…、怖い…。…あつ…い…、…熱くて…、灼ける…」
「…熱い…、ボク…も、熔かされそう…や…」
切れ切れの言葉が返って来た。
「…ギン、ギンっ…! 灼ける…、熔けて…しまう…」
「…ボクも…、ボクもや…」
ぼたり、とまたギンの汗が滴った。はあはあと互いの荒い息遣いが絡まり合う。
「絢女…。…好きや…」
ぽつりと落とされたその言葉が一際大きな波と化して、絢女を飲み込んだ。
「あ、ああぁっー!」
波に飲まれ、あられもない悲鳴を迸らせて絢女は達した。
絢女に覆い被さったままだったギンが姿勢を変えた。彼の背に縋り付いていた絢女の左の腕だけを外させると、右足と上半身をその身体の左側に横たえた。右腕を仰臥したままの絢女の背中に潜り込ませてから上半身を起こして、彼女の方へ身体を倒した。絢女の乳房とギンの胸板が重なった。ギンはぴったりと身体を寄せ合うように背中に廻した腕で絢女を引き寄せた。彼が動く度に、絢女の中に埋められたままの張り詰めた塊も僅かに回転し、絢女の裡を擦った。
「あ、やっ、あぁっ!」
押し寄せる快楽の波は、それだけの刺激で持続した。絢女は悲鳴を上げ続けていた。
「や、やだ、もう…へんに…」
翻弄され、もう止まって欲しいのに絶頂の波が止まらない。密着した胸から信じられないほど速いギンの鼓動が伝わって来る。絢女自身の心臓はそれ以上に乱れていて、ど、ど、と破裂しそうだ。とめどなく涙が溢れて来る。
「姫さん、右足上げて」
ギンの指示にほぼ反射で従い、絢女は右足をギンの腰に乗せ足を絡めた。更に身体が密着する。チベット密教のタントラ図のように繋がったまま全身で強く抱き合って、
「ギン…、ギン、助け…て」
と絢女は溺れながら縋った。
熱い、熔ける。
熱い、怖い。
溶ける。熔ける。どろどろに融けてしまう。
ギンは時折、ゆっくりと抽送とは呼べない僅かな動きを施すだけで、繋がったまま絢女を抱きしめていた。はちきれんほどに慾を漲らせたままで、熱だけが限界まで蓄積されていく。
「お…願い、助け…て…」
熱い、怖い。
怖い、熱い。
溶ける。融ける。
いきなり、ギンが大きく動いた。絢女に埋めていたものをぎりぎりまで引き抜き、ずぶりと再び押し込んだ。
「いやぁぁぁっー!!」
絢女は絶叫した。羞ずかしいとか、みっともないと感じる理性はとっくに崩壊していた。唐突に与えられた強烈な快感は、絢女には拷問に近かった。
閃光が連続して弾ける。
絢女の意識は喜悦の大波に弄ばれる小舟だった。抽送までもが常の激しさはなく、時間をかけてゆっくりと繰り返された。身体中の熱が集中した絢女の胎内は
「ああ、あ、やあぁっー!」
繰り返される絶叫。
抜き差しは遅いのに、最後の一突きだけは力を込めて最奥まで押し込まれ、子宮の入口を抉られる。
「ギン、ああっ! ギンっ!!」
気持ちがいい。
熱くて、怖い。
気持ちがいいのに、良すぎて苦しい。怖い。
怖い、怖い、こわい。
知らず、腰が蠢いて、寝台が規則的な軋みを上げた。
最早イキっぱなしの状態に陥った絢女の胎に一際熱い飛沫が迸った。どろどろの流動体にまで熱せられた
どくん、どくん、と真っ赤な玉鋼が脈動する。迸った流動体の鉄が絢女を灼き、跡形もなく熔かして、蒸発させた。
一際眩い閃光を見た後、絢女の意識は途切れた。
『ポリネシアン・セックス(Polynesian Sex)とは、ポリネシア地方で伝承されてきた性行為の方法である。射精よりも精神的な交わりを重視し、通常は数秒しか持続しない男性のオーガズムが長時間持続する』
《Web百科事典Wikipedia【ポリネシアン・セックス】》より抜粋
ちょっとした興味だった。
現世の書物を読んでいた時に目にした『ポリネシアン・セックス』と呼ばれる閨房術を知って、試してみようかと考えたのは。関連の書籍を幾つか入手し、現世の人間が物した体験談や注意点を熟読し、試すには幾つか障害があることが判明した。
例えば、『性交を五日に一度程度に間を置き、交わらない日は性器を刺激しない愛撫に留めて互いの気分を高めておく』という項目。
間を置くこと自体は難しくない。互いに忙しい隊長職でしかも隊が異なるのだ。平時なら二、三日おきに愛し合えても、忙しくなり、隊が違うが故に相手と繁忙時がずれてしまえば、五日どころか半月以上交われないことだって過去にざらにあったからだ。だが、というか、だからこそというべきか、後半部分が難しい。忙しいからこそ間遠になっているのである。そもそもが会えない。この項目の真髄はむろん後半部の「交わらずに愛撫し合うことでお互いの精神的な繋がりを高める」ことにあるのははっきりしているから、そこが実行できないなら性交に数日の間を置くことに意味はなくなる。かといって、きちんと会える平時に実行するのも躊躇われた。急に都合が悪くなることだって頻繁にあるのだ。その先に交わりがあるのが確実であれば我慢のしようもあるが、先が不透明なのに支障のない日に愛撫だけで終わらせるというのも難題だった。
そんな時に、絢女から月の障りが始まったと告げられたのだ。生理も二人の交接を妨げる障害の一つだ。だが、忙しいわけではないから会うことには実は妨げはない。女性の大多数がそうであるように、絢女ももちろん生理中の情交は嫌がっていた。ギンとしても嫌がるのを強要し、血塗れになってまで
(ええ機会かもしれへん)
会えるが出来ないという生理中なら、先の項目を実践できると思った。もし、明けにどちらかの都合が悪くなってお預けになったとしても、こんなことなら我慢せずに交わっておけば良かったという後悔だけはしないで済む。
『性交の日をお互いに認識しておく』
というのも注意点に挙げられていたが、月の障りが明けたら支障がない限り交わるというのは暗黙の了解だったから、そこも問題ない。
いつもは泊まろうとしないギンが五番隊長舎を訪れるのに、当初、絢女は不審がっていたようだ。だが、理由はのらりくらりと躱しながら泊まり続け、接吻や、顔や耳朶、胸などへの愛撫と抱擁を繰り返すうちに、やたら素直に甘えるようになった。特に「下腹部を摩って欲しい」と強請られたのには驚いた。死神である絢女は月の障りは極めて軽い
「別に痛いわけじゃないし、仕事中なんかは全然意識しない程度のものだけど、やっぱり違和感というか、何となく不快な重さはあるのよ」
と彼女は述懐した。だが、ギンに摩られると温かくて、心地よくて、不快な重さを感じなくなるのだ、と絢女は続けた。また、いくら軽いのが常態と言っても、数年に一度くらいは重たい時もあるのだそうだ。心身両面の疲労や体調、それ以外の内的外的要因が複雑に絡んでいるらしく、どういうタイミングで重くなるかはしかと同定出来ないが、動くのも辛いと感じるくらいの障りが来ることもごくごく稀にはあって、そういう時には四番隊の鎮痛剤を服用して耐えているのだと打ち明けられて、ギンは、
「そういう時は言うてや。お腹を摩るくらいなんぼでもするから」
と溜息を吐いた。
交わることなく、穏やかで優しい口接けと愛撫、睦言を交わし合うことに終始して抱き合って眠った夜。
繋がらなくとも満たされて、気持ちが凪いでいくのが実感できた。それと同時に、絢女を本当に抱ける夜への期待感も膨らんでいった。
『夜ではなく、ゆっくり行為に集中できる休日の午前中がよい』
一般人ならともかく、死神にはよほどに機会に巡り合えなければこれは無理。
『電話機は電源を切り、可能であれば自宅ではなくホテルなどの非日常な場所を選び、行為に集中できる環境で性交に臨む』
これも隊長職にあるギンと絢女には出来ない相談だ。部下の生死に関わる緊急連絡がいつ何時入るか知れないのに、伝令神機を切るなど職務怠慢と非難される。ただ、少しでも行為に集中できるようにお膳立てすることは可能だ。だから、月の障りが終わった夜は、いつもの五番隊隊長舎ではなく三番隊隊長舎に誘うと決めていた。
瓢箪ランプも、もともとは絢女に贈るつもりで購入したものだった。流魂街で瓢箪製の蝋燭立てが売られているのに目を留め、綺麗なものが好きな絢女が喜ぶだろうと入手したのだ。昨年の七夕は雨に祟られて絢女が残念がっていたのを覚えていたので、雨が降っても天の川を堪能出来る蝋燭立てと称して、七夕の日に渡すつもりでいた。だが、現世の閨房術を実践しようと決めた時に、雰囲気を高めるための小道具として使用すると目的を変更した。尸魂界では化石燃料が産出しない為、流魂街の照明は専ら蝋燭である。瓢箪の蝋燭立ては流魂街の豊かな地区の住民向けに作成されたものだったが、ギンは瀞霊廷内で照明器具を扱っている商店に持ち込んで卓上に置く間接照明に作り変えさせたのである。出来上がった照明を寝室の寝台の脇に据え、照明を灯してみて、あまりの美しさに思わず感嘆の溜息が漏れてしまった。
(これはものすご雰囲気が盛り上がるわ…)
照明器具商店の店主がどこで購入したのか熱心に尋ねて来たのは、店で取り扱うことを目論んでいるからに違いない。瓢箪の蝋燭立てを売っていたのは朴訥で実直そうな青年だったから、商談が成立するなら目出度いことだ。絢女も気に入るに決まっているから、そうなったら改めて彼女の部屋に置くランプを購入しようと、ギンはほくそ笑んだ。
『満腹してしまうと性欲が減退するので、食事は軽めに取る』
これも何とか誤魔化して、夕飯を饂飩で済ませることで実践できた。無論、来客が多くて茶菓子の相伴で腹が膨れたなど嘘である。上手くいったら、次回から絢女にちゃんと打ち明けようと考えていたが、今回は内緒にすると決めていた。羞恥心の強い絢女は、ギンの企てを知ったら抵抗するに決まっているからだ。
『前戯に最低でも一時間をかける。また陰茎を膣への挿入後、およそ三十分は律動を行わずに抱擁や愛撫に留める』
尤も、男性の勃起力が衰えそうな時や、女性側の性感が薄くなった時には持続を促す程度に緩く動くのは必要らしい。
もともとギンは前戯に時間を掛ける方だ。だが、さすがに
(ほんで、挿れてから
拷問のような気がした。我慢できる気がしない。それでも、持ちこたえられる限りは頑張ろうと思えたのは、現世で実践して成功した人が寄せた体験談の多くが、
「とてつもなく幸せ」
「通常の射精とは比べ物にならない快感」
「あんなに感じたことはない」
などと絶賛の言葉を寄せていたからだ。もちろん、失敗談もあったが、おおむね我慢が出来なくなって通常の性交と変わらなくなってしまったとか、それなりに気持ちはよかったけれども過度に期待しすぎて肩透かしだったといった内容で、全く気持ちよくもなんともなかったという失敗談は見受けられなかった。
(まァ、我慢できる限り踏ん張ってみよ。取り敢えず『とてつもなく幸せ』まではいきひんでも、普通に気持ちようなるなら、それでええしなァ…)
と挑んだのだが。
(姫さん、ものすご感じてへん?)
横抱きに抱き上げた時から、彼女が常になく昂っていることには気付いていた。
瓢箪ランプはたいそう良い仕事をしていて、絢女も、ギン自身も、ランプによって齎された幻想的な空間にふわふわと気分が高揚した。
額を始まりに口接けを流星雨の如く降らせて、指を耳朶に滑らせた時、絢女がびくりと背中を反らせた。彼女は耳が弱いので、感じるのは想定内だったが、跳ね上がる身体がいつもよりも大きかった。潤んだ、もの欲しそうな瞳で、
「ちゃんと
と強請られた時は、理性が飛ぶかと思った。ここが我慢のしどころと唇を合わせると、常ならばギンから促さないと開かない唇を半開きにして、彼女の方から深い接吻を仕掛けて来た。余りの反応の良さに、意地でも「前戯に半刻、挿入後の静止状態四半刻」を保ってみせようと己の理性に再動員を掛け、ギンは愛撫を続けた。
付き合い始めの頃のように善がりを無理矢理に抑え込み、声を洩らすまいと足掻くことはなくなったが、それでも羞恥心の強い絢女は啼く声も初手は控えめだ。理性が崩れるに従って、声を抑えきれなくなってくるのに、此度は早くも可愛らしい声が溢れていた。乳房を揉みしだき、頂点の果実を舌で吸い上げると、性器にはまだ触れてさえいないのに、胸への刺激だけで絢女は浅く達した。耳に舌を差し入れて犯すと、身体中をぞくぞくと痙攣させて身悶えた。
もともと、絢女は五番隊長舎よりも三番隊長舎の方が乱れる傾向にあったが、今回の感じ方は桁違いで、ギンはその痴態の視覚刺激だけで、飛びそうになった。歯を食いしばってせり上がってくる快感を必死にやり過ごした。
挿入前にはっきりと絶頂したのは四度か五度だったが、達する寸前の快楽の波は絶え間なく絢女を翻弄していたようだ。挿れた瞬間に、早くも絢女は達した。
絢女の裡はぐずぐずに熔けて、ひどく熱かった。その熱だけですべてを持っていかれそうになる。射精していないのに、脳髄が痺れるほどの快感がギンにも波となって押し寄せていた。
「…へん…、…ギン、うあ…、おかし…なる…」
絢女は喘ぎの合間に訴えていたが、ギンには応える余裕がなかった。絢女の粘膜が熱く熱く煮え立ちながら、ギンの牡に強く纏わりついていた。決して離すまいと強く締め付けられ、一気に突き入れれば瞬間的に射精してしまうのが明らかだった。歯の奥を食いしばってこみ上げる衝動を押さえ込み、絢女の零した愛蜜と自らの先走りで満たされた狭い路を押し広げながら進んでいく。過ぎた快楽は絢女にとっても責め苦だったかもしれない。だが、ギンにとっても強い快感は苦しいほどのものだった。自分のものが全部埋まった時、静止状態四半刻の決まりとは関係なしにしばらくは動くことが出来なかった。
熱い。
燃え盛る竈に突っ込まれたようだ。
絢女の内壁はぎゅうぎゅうと締め付けることを容赦しない。
くらくらと眩暈がしそうな酩酊の中、
「…こわい…」
と彼女の声が震えた。
「ん…ギン…、こわい…。…あつ…い…、…熱くて…、灼ける…」
額から顎を伝った汗が、ぽたりと絢女に落ちた。
「…熱い…、ボク…も、熔かされそう…や…」
やっとの思いで応えると、譫言のように、
「…灼ける…、熔ける…」
と絢女は繰り返した。
はあはあと荒い呼吸を宥め、絢女の顔を見下ろすと蕩け切った眼差しが愛しいと訴えていた。水の膜が張った琥珀色の眸に、彼女がいなければ正気を保てない情けない男が映っている。思わず、
「絢女…。…好きや…」
と言葉が零れた。直後、大きく目を瞠った絢女は、がくがくと激しく痙攣して、言葉だけで絶頂をみた。
熱い。
愛しい。
愛しい。
熔ける。
正常位から側位に姿勢を変えることで、緩い動きを断続的に継続させつつ、限界まで律動を耐えた。
身体を密着させて抱き合ったまま過ごした時間、絢女の中が熱すぎて、うねり締め付け続ける粘膜が気持ちよすぎて、萎えるどころではなかった。絢女は熱に浮かされたように悲鳴を上げ続け、合間に、熱い、怖い、助けてを繰り返していた。
正直、四半刻持ったのか、定かではない。枕元に時計は置いていたが時間を確認する余裕など失せ果てていた。我慢に我慢を重ね、ついに耐え切れなくなって腰を引き、ぐいと押し込んだ途端、
「いやぁぁぁっー!!」
絢女の絶叫に、ギン自身の叫びが重なった。
とても声を押さえられなかった。打ち上げ花火のように閃光が眼前で連続して弾け、獣じみた雄叫びがギンの咽喉から迸った。
後になって、律動もとてもゆっくりだったと絢女に指摘されたが、ギンは意図してそうしたのではない。絢女が快楽の波に攫われていた時、ギンもまたとてつもない悦楽に沈んでいたのだ。おそらく抽送は本能による反射反応だったのかもしれない。
抽送の間、絢女はイキっぱなしだったが、ギンも次々と押し寄せる快楽の波に翻弄され続けていた。射精した時には、特大の尺玉が打ちあがって脳内一杯に火の花が咲き誇った。信じられないほど長く、精は迸り続けた。絢女の裡は最後の
絶頂の波は精が出尽くした後も持続した。射精の直後に意識を飛ばしてしまった絢女を胸に強く強く抱いて、押し寄せる土用波に似た悦楽にギンは浸っていた。
現世の閨房術、侮り難し。
それがギンの下した結論だった。
*1
従って、半刻=約一時間、四半刻=約三十分。