三千大千世界の夜を超え
瀞霊廷に住まう貴族であれば、名ばかりの下級貴族であっても合格通知は届けられるらしいが、流魂街出身者は入学式の日に自ら学院に赴き、合否を確認するしか術がない。
学院の受付で、ギンは自らの名を告げ、受験の際に合否の照合に使用するからと渡された木札を差し出した。係の男性はしばらく何やら確認後、
「合格だな。組は特進級になる」
と告げた。
「特進級いうと?」
怪訝に尋ねたギンに、
「特に将来有望だと思われる素質の生徒を集めた組だよ」
と男性は穏やかな笑みで説明した。
「ま、学院が見込んだってことで、待遇も一般級よりいい。例えば、君は流魂街出身だから、寮に入るだろう?」
「そうさせて貰うつもりですわ」
「一般級の生徒は四人部屋だが、特進級は同じ広さで二人部屋だ」
「なるほど」
「ただし、特進級は学年毎に見直される。見込み違いで、一般級に落ちる者もいるし、入学後に伸びて特進級に編入される者もいる。最終的な評価は卒業直前にどこにいるかで決まる。慢心せず、精進することだ」
別の係が風呂敷包みを運んできた。ギンはその風呂敷包みと書面を三枚受け取った。
「こっちが入寮の申込書、これは当座の支給品の申請書だ。これは学院の見取り図で、今日は三年生のこの教室が更衣室に割り当てられているから、ここで制服に着替えて、自分の教室に行きなさい。入寮申込書と支給品申請書はすぐに記入して提出するように。他に質問は?」
「ありまへん」
ギンは指示された通りに提出書類に記入し、係員に渡した。それから、風呂敷包みを抱えて、更衣室として割り当てられた教室に向かった。彼が更衣室に入ろうとした時、女性用の更衣室に指定された隣の教室から、二人の少女が入れ違いに出て行くのが視界に入った。
(金髪…)
少女の一方は豊かに実った麦の穂を思わせる金の髪をしていた。全く見ないわけではないが、流魂街では極めて珍しいその髪色は、心ならずも置き去りにしてしまった、ギンにとっては妹のような少女を思い起こさせ、彼の心を軋ませた。
教室に入って風呂敷を開くと、制服が二組納められていた。他に当座の文具類も入っている。行き届いたことだ。
彼より先に教室に入って着替えていた者、後から入室して来た者、皆、ちらちらと彼を窺っている。いつものことなので、ギンは無視してさっさと着替えを済ませた。先ほどの少女の金髪も珍しいが、彼の銀色の髪は更に稀少だ。珍奇さから注目されるのは慣れっこだった。彼にとっては余り愉快なことではないが、つい視線を向けてしまう人の気持ちはよく分かるので、害意がない限りは放っておくことにしていた。中に、一人二人ほど声をかけたそうにしている者もいたが、実際に話し掛ける勇気はないらしく、ギンはそのまま教室を出た。
貰った案内図に従って、彼は自分の教室に辿り着いた。特進級は一階の端に位置していた。廊下沿いの教室であれば教室の前後にある出入口が、廊下のどん詰まりにあたる一箇所しかない。出入口は教室側から見ると右手前方に当たる為、ギンが引き戸を開いて入ってゆくと、先に入っていた同級生となる生徒たちが一斉に新たな入室者に視線を向けた。
「ギン!?」
突然、名を呼ばれ、ギンははっと声の方に顔を動かした。鮮やかな金の髪が視界に飛び込んで来た。
「…らん…ぎく…」
目の前に懐かしい少女がいた。
(嘘…や…ろ?)
ギンも彫像になったかのように動けなかったが、乱菊もまた、机に両手を付いて立ち上がった姿勢のまま固まっていた。石化した二人を周囲の生徒たちが好奇の視線で注視している。先に我に返ったのは乱菊だ。ギンが入室して来るまで、しきりと彼女に話し掛けていた少年が、
「知り合い?」
と尋ねたのだ。
乱菊は姿勢を正した。少年をすっぱり無視して、彼女はつかつかとギンに歩み寄った。彼の目の前に立った乱菊は、いきなり、彼の頬を引っ叩いた。尤も、いきなりと取ったのは周りでなりゆきに注目していた生徒たちで、ギンには予想の範疇であった。それどころか、蹴りか、正拳が来ると考えていたので、拍子抜けたくらいだ。
「何で、あんたがここにいるのよ!?」
「何でて、死神になろう思て」
「そんなことを聞いてるんじゃない!!」
乱菊は怒鳴った。頬を真っ赤に紅潮させ、怒りの余りにぶるぶると震えながら、
「あたしが邪魔だったなら、そう言えばいいじゃない。足手まといの世話するのはうんざりだって! 黙って出て行くなんて卑怯よ。あんたに何かあったんじゃないかって、どれだけ心配したと思っているの!?」
と、息継ぎもなしに一気に乱菊はまくし立てた。彼女の肩が乱れた息で大きく上下した。
「堪忍」
ギンは謝罪を口にした。
「けどな、ボクは乱菊のこと、足手まといやとか、邪魔やとか思たこと一遍もないで」
彼の言葉に乱菊は再び、きっ、とギンを睨んだ。
「人のことを置き去りにしたくせに白々しい」
「やって、ボクとおったら、乱菊も死神になろうとしそうで…」
「 何、それ?」
乱菊は思いっきり眼を眇めた。
「死神になろうとなるまいと、そんなのあたしが自分で決めることじゃない。何でギンが勝手に決め付けるわけ?」
「…そうか」
ギンは逆らわずに頷いた。
実のところ、ギンの言うことを乱菊は否定出来なかった。ギンといれば、彼を追いかけて、きっと乱菊も死神を志していた。だが、彼と離れても、死神になろうとしているのだから、結果は結局、同じだ。
「おあいにくさま。あんたがいなくても、あたしは死神になるって決めたわ」
何故か、勝ち誇って宣言する乱菊に、
「涙を飲んで、別れたんやで?」
とギンはうなだれた。
「ホンマに後ろ髪を引かれる思いで置いてったのに、台無しやん」
「あんたが浅はかなの!」
きっぱりと、乱菊は宣言した。
「そ、か…」
彼女を置き去りにして一人きりで生きてきた日々の孤独を、ギンは想った。自分の我儘に巻き込んで危険なめに合わせることは出来ないと、彼女の為に別れたつもりだった。だが、彼女のいない暮らしは寂しくて、ギンは心が寒々と冷えてゆくのを感じていた。ずっと彼女を護っていたと自惚れていたが、離れてしまって初めて、どれだけ乱菊に救われてきたのかを思い知った。離れても死神を目指した乱菊の姿に、ギンは自分の行動が独りよがりなだけで無益だったと悟った。
「ごめん」
もう一度謝ると、ようやく、乱菊は表情を和らげた。
「いいわよ、もう。あたしも確かにあんたに甘えっぱなしだったし…」
と打って変わって照れくさそうに、彼女は笑った。その懐かしい笑みにギンの心もほどけていった。
「さっき、着替えの教室に行った時、女の子の着替えの部屋から金髪の
と彼は告げた。
「乱菊によう似た髪の娘ォや思いながら見ててんけど、本人やってんなぁ」
「何だ、すれ違ってたのね。全然、気が付かなかった」
「そういえば、乱菊、あん時、二人連れやってけど、もう友達が出来たん?」
ギンの問いに、
「あの娘はギンと別れてちょっとしてから知り合ったのよ。ずっと一緒に助け合って来た親友なの。ここも二人で受けたんだ」
と乱菊は答えた。
「ふうん、そうなんや。ここ、一緒に受けたいうことはその娘も霊力あってんな。珍しいな」
流魂街では霊力のない人間が圧倒的多数だ。そんな中、強い霊力を持ったギンと乱菊が出会ったのも稀なことなのに、ギンと別れた後、乱菊が共に霊術院を受験できるほどの霊力を持った少女と巡り会えたというのはもっと確率の低い珍事だろう。
「ボクなんて、乱菊と離れた後、霊力のある知り合いなんて一人も出来ひんかったで」
「そういえば、あたしも他には霊力のある知り合いっていないわ」
ギンに指摘されて初めて気付いたらしく、乱菊は意外そうに眸を大きくした。
「あたしって、実は霊力のある人を引き寄せやすい体質?」
「何や、それ? 招き猫?」
「まぁ、いいじゃない。それよりね、すっごくきれいな
乱菊は誇らしげに友人を自慢した。とはいえ、乱菊自身がたいそう美しい少女だ。ギンが拾った頃から愛らしかったから、「蛹が蝶になるように」という慣用表現は当たらないかもしれない。しかし、女らしく成長した乱菊は「紋白蝶が揚羽蝶になった」ように、男の目を惹き付けずにはおれないほどに、美しさに磨きがかかっていた。彼女を目の当たりにして、いくら綺麗といっても彼女よりは落ちるだろう、とギンはこっそりと考えていた。だが、そんなことはおくびにも出さず、
「それは楽しみやわ」
と応じた。
置き去りにした後、乱菊にはずっと一緒にいた友人がいた。そのことに彼は安堵する思いだった。
「その娘と組は分かれてしもたん?」
もし同じ組であるのなら、とっくに声を掛けてきているはずだと考えての問いだったが、
「同じ組よ。今、お手洗いに行ってて席を外しているの」
と乱菊は否定した。
「…ああ、でも、そういえば遅いなぁ。迷ったのかしら?」
彼女が首を傾げた直後、ギンの背後で引き戸を開く音がした。
「あ、戻って来た!」
幼馴染の弾んだ声音にギンが振り返ろうとした時、乱菊が友人の名を呼んだ。
「絢女、遅いよ!」
ギンの動きが止まった。彼女が口にした名前はギンにとって特別な意味を持っていた。
まさか。
そんな偶然などあるはずがない。「あやめ」という名は決してありふれたものではないが、滅多にないほど珍奇だともいえない。珍しいというなら、乱菊の方がよほど珍しい名だ。
偶々だ。
ギンは思った。乱菊の友達は、偶々、ギンの忘れられない少女と同じ名をしていただけだ。
すばやく呼吸を整えたギンは、ゆっくりと背後を振り返った。
「ごめん、変な男の子にしつこく絡まれちゃって」
「そんなの、いつもみたいにぶっ飛ばしちゃえばよかったのに」
「そういうわけにもいかないでしょ。これから一緒に勉学に励む仲間になるんだし、入学式の日に騒ぎを起こすのもまずいじゃない」
そう応えた少女の眸が、怪訝そうに乱菊の前に佇むギンに向けられた。
「乱菊? この人は…、知り合い?」
乱菊は勢い込んで頷いた。
「そう。あのね、彼がギンなの」
「えっ!?」
絢女は大きく目を瞠った後、ぱちぱちと瞬きを繰り返した。
「ずっと乱菊といた、あの?」
「そう。あのギンよ。ギンも死神になるつもりだったんだって」
「そう…なの…。ここにいるってことは同じ組?」
「うん」
乱菊はギンを見遣った。
「何、固まっているのよ」
はっとして、ギンは表情を繕った。
「乱菊の言うた通りやなぁ。もの凄う別嬪やってから、驚いてしもうた」
とすっかり身についてしまった笑みで防護を巡らせる。
「でしょ。絢女くらいきれいな娘って、そうはお目にかかれないんだから!」
乱菊は自分が誉められたかのように嬉しそうな笑顔を見せた。尤も、彼女の自慢の親友と乱菊自身はどう見たって互角の美貌だ。その為、彼女の友達自慢はそのまま期せずして、自身の美貌の称賛になってしまった。
「ちゃんと紹介するわね」
と、乱菊は表情を整えた。
「彼女が絢女。あんたと別れてからちょっとして知り合って、ずーっと助け合って来た大事な友達よ」
とギンに対して、改めて絢女を紹介する。その後、今度は絢女に向き直り、
「そういうわけで、こいつがギン」
とギンを彼女の前に押しやった。
絢女の琥珀色の眸がまっすぐにギンを見つめている。
煩い程に早鐘を打つ心臓を、ギンは精神力で押さえ込んだ。起こるはずのない奇跡が起こったのだ。忘れられない、会いたくてたまらなかった少女が目の前にいた。
(絢女!)
叫んで抱きしめてしまいたい。衝動を巧みに隠し、ギンは右手を差し出した。
「市丸ギンいいます。よろしゅう」
「はい。私は如月絢女です」
と絢女は彼の手を握り返した。
「あの…」
「うん?」
彼女は怪訝そうにギンの顔をもう一度検め、それから、自信なさげに問い掛けた。
「はじめまして、ですよね?」
どくん、と心臓が跳ねた。
ギンはかつて、現世で人間として生まれた。人間が死した時、残された魂魄が送られるのが尸魂界である。尸魂界に存在する流魂街とは、死者の魂魄が再び現世に人として生まれるのを待つ期間、生活してゆくいわば死者の街だった。そして、流魂街に住み暮らす死者たちには共通した特徴があった。
人であった頃の具体的な記憶の消失である。親兄弟や我が子といった肉親の顔や名前。恋人や配偶者、友達などの親しい人々との思い出。大切な、忘れたくない思い出のほとんど全てを失い、自らの名前だけを抱きしめて、死者は流魂街に流れつくのだ。
例えば、乱菊もそうだ。彼女に辛うじて残っている現世の記憶は、布団に横たわる彼女の亡骸に縋って号泣する女の背中だけだという。おそらく、死の直後、魂葬されるまでの短い記憶だけが残ったのだろう。女が誰なのかは分からない。普通に考えれば母親である可能性が高いが、或いは姉妹だったかもしれない。
ギンもまた、人であった頃のほとんどの記憶を失って、死者の国に辿り着いた。だが、彼には、生前の記憶を失うという尸魂界の
暗闇に生きていた彼に陽の光を見せてくれた少女。
彼女のことだけは、ギンは忘れなかった。
優しい涙をくれた。温かな笑顔をくれた。そして、名前すら持たなかった彼に「ギン」という名を与えてくれた。何よりも大切で、誰よりも愛しくて、それなのに護ることが叶わずに失ってしまった少女。
その少女が、まさに絢女だった。
彼女にもう一度、会いたい。彼女を理不尽に奪った敵に復讐を遂げたい。
その思いが流魂街を生き抜く原動力であった。
けれども、もしも奇跡のように絢女と再び巡り会えたとしても、彼女は自分を覚えていないと、ギンは諦観していた。肉親さえも忘れ去る理の前で、彼女がギンのことを記憶に留めていると期待するのが間違っている。そう考えていたギンにとって、絢女の口にした言葉は予想外だった。
「初めて会うた、思うけど?」
滅茶苦茶な鼓動で破裂しそうな心臓など、微塵も感じさせぬ平然とした態度で、何とか返答してのけた。絢女は納得の中に微かに落胆を滲ませて、
「そうですよね」
と頷いた。
「ごめんなさい。市丸さんに会って、何故かとても懐かしい感じがしたものですから…」
「へえ?」
「きっと、乱菊にしょっちゅう話を聞いていたからですね」
と絢女は自分の中で理由付けをしたようだ。しかし、ギンは知らぬ顔を保つのに必死だった。
覚えていてくれた。
溢れる喜びで、油断すると涙が零れそうだった。
予測していた通りに、絢女はギンについての具体的な記憶は失っていた。従って、もちろん、彼を人間であった頃に共にいた少年であると認識出来たわけではない。だが、彼を懐かしいと言ったのだ。ギンをギンだと判らなくても、懐かしい、慕わしい相手であると感じたのは、彼女が魂の奥底でギンを覚えている
自分のことなど、きっと欠片も覚えていないだろうと諦めていた。それなのに…。
「変なことを言ってごめんなさい。今日から同級生ですね」
と彼女は微笑んだ。
「仲良くして下さい、市丸さん」
残酷で理不尽な魔手により、彼女と死に別れてから、四十年ほどの歳月が流れていた。未だ乳房も膨らんでいない子供だった絢女は、すっかり身体が丸みを帯び、目を瞠るほどに美しい娘に成長していた。けれども、四十年ぶりに見る微笑みは、以前と全く変わらない。艶やかな栗色の髪も、琥珀のような柔らかな光を宿した眸も、記憶のままだ。
「ギンや」
と彼は告げた。
「え?」
目を瞬かせた絢女に柔らかな笑みを向け、
「市丸さんやのうて、ギンでええ。同級生やし、堅苦しいのは苦手なん」
記憶を失っているギンには推測することしか出来ないが、「市丸」という姓は絢女と出会った後に彼を引き取ってくれた養い親のものだろう。何しろ、絢女に会うまでは呼ばれる為の名前さえも持たなかったのだから。ギンはこの姓も気に入っていたが、絢女には彼女が付けてくれた名で呼ばれたかった。
「ギン…さん?」
ぷ、と乱菊が噴き出し、ギンも思わず苦笑いを浮かべた。
「ギンて呼び捨てでええよ。なんかなぁ、さん付けで呼ばれたら、居心地悪いゆうか、自分やないみたいやし」
「でも…」
「その代わり、ボクも絢女て呼ばせて貰うし。ええな、それで?」
絢女は頷いた。
「はい。では、改めて。よろしく、ギン」
柔らかな笑みを浮かべた唇が、ようやく、彼の名を紡いだ。
「うん、よろしゅう、絢女」
会えないと、もう会えないと、幾度、絶望に身を苛まれただろう。もう一度会えるのなら、何を引きかえにしてもいいと願い続けた相手が目の前にいる。昔と変わらぬ温かな声音で、
「ギン」
と呼んでくれる。
痺れるような幸福感がギンの全身を包んだ。
乱菊と絢女が連れ立って席に戻った。絢女の後ろの席が空いていたので、ギンもそこに着席した。彼が教室に入ってくるまで、乱菊の気を惹こうと躍起になっていた少年が、やけに親しげな顔つきでギンに自己紹介をして来た。
「これから、仲良くしてくれよな、ギン」
「 市丸や」
冷たい声音でギンは応じた。少年が乱菊や絢女に対して、あからさまに下心が透ける視線を向けるのが気に喰わなかったのだ。話しかけてきたのも、乱菊と旧知の仲であるギンと仲良くなることで、二人に近付こうという魂胆が見え見えだ。
「何だよ、あの娘には同級生だからギンでいいって…」
不満げに反論しかけた少年は、凍ったギンの視線に晒されて、ひ、と息を呑んだ。
「絢女は乱菊の友達やからな。けど、キミにギンて呼んでええと許可した覚えはあらへん」
絢女のくれた宝玉のような名を、こんな男に呼ばれたくはなかった。
少年はギンに完全に気圧された。同じ特進級に割り振られた同級生のはずなのに、格が違うということを一瞬にして悟らされたのだ。彼には恨みがましい視線を向けるのが精一杯で、反撃は不可能だった。
隣の少年には最早目もくれず、ギンは前を向いた。栗色と金色の後姿が、彼の目の前に並んで座していた。
理に背いても忘れられず、ずっと会いたかった大切な栗色。
ギンにとって、世界を照らす太陽に等しい少女。
心ならずも置き去りにしてしまった、妹のような金色。
絢女を失ったギンの心を温め、絢女と巡り会わせてくれた少女。
今度こそ。
ギンは心中で拳を固めた。
今度こそ、護ってみせる。
二度と失くしたりはしない。
もう、二度と 。