ありがとう
雪が降り積もった朝に産まれたの。
前の晩、日が暮れてから、母上は産気づかれたのね。私はまだ小さかったから産室に入れて貰えなくて、近くの小部屋で待っていたのよ。誰かから、産まれるまでまだまだかかるから寝んでいなさいって言われたけれど、赤ちゃんを見たいから起きているって我儘を言って待っていたの。
今思うと、あれは母上のいきむ声だったのでしょうね。産室の方からは苦しそうな大きな呻き声が絶えず聞こえてきて、とても恐ろしかった。何が起こっているのか理解出来なくて、母上も赤ちゃんも死んじゃうんじゃないかって、私、泣き出してしまったの。そしたら、大人の男の人が、大丈夫って抱きしめてくれたわ。力強くって、すごく温かな腕を覚えている。きっと、あれは父上だったと思うの。
ずっと、産まれる日を楽しみにしていたのよ。弟か、妹か出来るのが嬉しくて嬉しくて。だから、産まれたら真っ先に会いたかったの。いよいよ産まれるって分かったから、張り切って寝ずに頑張っていたんだけど…。でも、やっぱり子供ね。意気込みもどこへやら、いつの間にか、眠り込んでしまっていたわ。
赤ちゃんの泣き声で目が覚めても、しばらくは寝ぼけていて、待ちに待った弟妹のものだって分からなかったのよ。おまぬけでしょう?
ちょっと経ってから、急に、あ、産まれたんだって。
気付いたら、矢も楯もたまらなくなって部屋を飛び出したの。
廻り廊下に出たら、外は真っ白だった。降り積もった雪で庭は白一色に染まっていたの。雪はもう止んでいて、空は真っ青に晴れ渡っていたわ。おてんとうさまの陽射しを浴びて、積もった雪がきらきらと眩しいくらいに輝いていた。
私ね、おてんとうさまもお祝いして下さっているんだって思ったわ。
いきなり、断りもせずに産室に入ったから怒られてしまったけれど、全然、堪えなかった。ただ、赤ちゃんに会いたくて、
「赤ちゃん、どこ!?」
って。
赤ちゃんは母上の隣りに寝かされていたわ。真っ先に銀色の髪が目に入ったの。きらきら光るその髪がついさっき見た、雪によく似て見えて、ああ、やっぱり、雪もおてんとうさまもお祝いして下さっているんだって、とっても誇らしかった。
「絢女の弟よ。可愛がってあげてね」
って、母上はおっしゃったの。もう、母上のことはお顔も名前も思い出せなくなってしまったけれど、その言葉だけは覚えているわ。お産を終えられた直後だったから、掠れて、弱々しいお声だったけれど、そうおっしゃって、私の頭を撫でて下さったのよ。
赤ちゃん、だっこしてみたかったけれど、まだ首も据わってないし、産まれたてで危ないからって止められちゃった。代わりに髪に触ってみたら、まだ、産湯に浸かって間があいてなかったせいか、湿っていてしっとりしていたわ。ちっちゃな指をつついてみたら、きゅって握られたの。すごく小さいのに、しっかり私の指を握りしめてて、ああ、私の弟なんだって、改めてそう思ったら、胸がいっぱいになって泣いてしまった。
昔から、私、泣き虫だったのね。
冬獅郎。
あなたが私の弟に産まれてくれて良かった。
護りきれずに死なせてしまったけれど、一緒に尸魂界に流されたことは不幸中の幸いだったと思っているの。
冬獅郎、あなたを護る為なら、姉さまは何だって出来る。どんなにつらいことがあっても、苦しくても、悲しくても、あなたがいるから、私は乗り越えていける。
ありがとう。
私の弟に産まれてくれて。
ありがとう。
大好きよ、冬獅郎。