文月〜百合〜
微熱が続き臥せっているという話を聞いて、冬獅郎と京楽は雨乾堂に浮竹を見舞った。
浮竹の寝所には先客がいた。往診に来た卯ノ花である。
「暑気あたりですわ」
いつものおっとりとした口調で、卯ノ花は冬獅郎たちに説明した。
「梅雨明けして、急に暑くなりましたでしょう」
「確かに、今年は急激に暑くなったな」
暑さが苦手な冬獅郎の頷きに、
「これくらいで参るなんて情けないけどな」
と布団に半身を起こした浮竹は苦笑を洩らした。
「浮竹」
「何だい、冬獅郎?」
「あの百合。きれいだが、病人には香りがきつくないか?」
と、冬獅郎は寝所の床の間を指差した。床の間に据えられた水盤に、真っ白なテッポウ百合がすっきりと生けられている。
百合の香りは決して不快なものではない。好みにもよるだろうが、少なくとも冬獅郎は好きである。ただ、香りはかなり強く、百合の生けられた部屋に不意に入ると、それが鼻につくこともないではない。弱っている病人にはいくらいい香りでも強すぎないか、と案ずる冬獅郎に、
「私もそう申し上げたのですが、どうしても生けて欲しいと浮竹隊長から頼まれてしまったものですから」
「卯ノ花が生けたのか? どうりで、きれいに生けてあると思った」
「浮竹は美的センスがないからなぁ。あんなにすっきりとは生けられないよ」
「二人とも、ひどいな」
と、浮竹は床の間のテッポウ百合を嬉しそうに眺めた。
「百合は好きなんだ。花もきれいだし、香りも好きだから、きついなんて感じないよ」
確かに、浮竹は百合が好きらしかった。雨乾堂の庭にもたくさん咲いているし、十三番隊の隊舎の中庭は夏になると、百合でいっぱいになる。
「よっぽど、好きなんだな」
いとおしげに百合を眺める浮竹に、ほんわりと和んで冬獅郎が言うと、
「ああ。百合って卯ノ花みたいだろう?」
と、浮竹が答えた。
瞬間、冬獅郎と京楽は浮竹を正面に見つめたまま、互いに目を見合わすと言う離れ業をしてのけた。
「意外と元気そうで安心したよ。そろそろ、おいとましよう」
「そうだな」
と、冬獅郎と京楽が立ち上がったのを見て、
「今、来たばかりじゃないか」
「午前中からずっとさぼってるんだ。そろそろ戻って仕事をしないと七緒ちゃんが本気で怒っちゃうよ」
「俺もそろそろ戻らねぇと、松本が居眠りしてやがるような予感がひしひしとするもんでな」
「そうか。良かったら、二人とも副官にお土産に百合を持って帰らないか。庭にたくさん咲いているから」
にこにこと告げる浮竹に、
「では、切ってまいりますわね」
と卯ノ花が庭に下りた。
彼女が切ってきた百合を受け取って、冬獅郎たちは雨乾堂を出た。
「京楽」
「何、冬獅郎くん」
「あの爆弾発言に、卯ノ花、動じなかったな」
「あの二人も長い付き合いだからね。聞きなれているんだろう」
「卯ノ花みたい、ねぇ…」
否定はしない。確かに、卯ノ花には凛と気高い白百合のイメージがある。
しかしである。
「あー。死ぬほど甘い饅頭を無理やり口に押し込まれた気分」
がしがしと頭を掻いてぼやく冬獅郎に、京楽は苦笑とともに同意した。
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テッポウ百合の花言葉:純潔・威厳
またしても、突発的に浮卯です。
今回の企画は真正ヤオイ小噺シリーズであると同時に、無節操CP突発シリーズになっている気がしてなりません。事前アンケートで当サイトのご訪問者の皆さまはほのぼの日乱をお待ちだと了解していたにもかかわらず、です。
いや、最初は日乱にしようと思っていたのです。でも、いざ百合をテーマに書こうとすると、菫の時に七緒ちゃんが管理人の脳内を駆け巡ったように、卯ノ花隊長がババーンと現れ、あのにっこり笑顔で、
「あら、私の話ではございませんの?」
とおっしゃいましたので、思わず、
「滅相もございません」
と卯ノ花隊長=百合で書いてしまいました。浮卯になったのは、日番谷隊長ではうまく話が転がらなかったからです。
あと5つですが、あと何組、無節操CPが現れるやら…。