長月〜竜胆〜


 現世に死があるように、あの世であるはずの尸魂界にも死は存在する。
 現世で亡くなった者は、尸魂界にその魂を送られる。
 では、尸魂界で亡くなった者は    
 もう一度、尸魂界に生まれるのだと言われている。現世に転生した魂魄が、無垢な赤子として新しい生命を始めるのと同様に、尸魂界で亡くなった者は尸魂界で生きる命に宿り、新たな命を織り出すのだと。
 それは、祈り。
 それは、希望。
 そうあれかしと望む、遺された者たちの想い。

 十番隊で殉死者が出た。
 間もなく席官に昇進することが決まっていた女性死神だった。まだあどけない、少女と呼んでいいくらいの若い娘だった。
 先輩の席官と流魂街に見廻りに出た彼女は、虚に襲われるプラスを発見、先輩ともども虚と交戦して命を落とした。先輩を身を挺して庇っての死だった。
「下の者が上を庇うなんて、逆じゃねぇか」
 庇われた席官の男性死神は、彼女が好きだった手向けの竜胆に埋もれた亡骸に縋り、男泣きに泣いた。
 乱菊は知っていた。
 亡くなった彼女は、先輩のことが好きだったと。席官に昇進したら、思い切って告白するんだと友達と話していたのを、側で聞いていたから。
 好きな男だから庇ったとは思わない。とても心の優しい娘だったから、きっと、見ず知らずの整であっても庇ったに違いない。
 それでも、
「あの娘、彼を庇えて幸せだったと思います」
 乱菊の言葉に、冬獅郎は眉を顰めた。
「死んで幸せってねぇだろう。まだ、若かったんだ。やりてぇこともいっぱいあっただろうし」
「そうですね。もちろん、死んで幸せなんてわけないですけど、それでも、ね。同じ死ぬなら、好きな人の為に死にたいじゃないですか。遺された彼はたまらないかもしれませんけど、確かに、隊長のおっしゃる通り、まだいっぱいやりたいことがあって死にたくなんかなかったでしょうけど、せめて、好きな人を庇って死ねたことは、そのことだけは幸せだったと…」
 そこまで言って、乱菊は口を噤んだ。
    すみません、隊長。あたしがそう信じたいだけです」
 死んで幸せなはずがない。それでも、せめてと願うことは罪だろうか。
「あいつ、いい娘だったからな。今度は幸せになれるといいな」
 つらそうに目を伏せた乱菊を見遣り、冬獅郎もぽつりと呟いた。

 尸魂界で亡くなった者は、もう一度、尸魂界に生まれるのだと言われている。無垢な命として尸魂界で新たな生を得るのだと。
 それは、祈り。
 それは、希望。
 そうあれかしと望む、遺された者たちの想い。

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 竜胆の花言葉:悲しんでいるあなたを愛する

 すみません。竜胆の花言葉を見ていたら、暗い死にネタしか出てきませんでした。
 竜胆は大好きなので、出来れば、もっと明るい話にしたかったんですけど、花言葉が…。(と花言葉のせいにする)
 しかも、竜胆の花自体は出すところがなくて、仕方ないから亡骸に手向けられたことにしてしまって…。
 乱菊さんは「もちろん死ぬのは嫌だけど、どうせ死ぬなら好きな人の為に死にたい」と思うタイプの人だと思います。で、隊長は内心で「誰が死なせるか」と思ってるけど、口にはしない、と。

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2008.12.08