霜月〜菊〜
十番隊の管轄地に出没する大虚を叩くという大掛かりな討伐が無事に終わった。
灰猫を鞘に戻そうとして、ふと、下げ緒が薄汚れていることに気付いた。紐も少し、擦り切れている。
(新しい下げ緒に換えないと…)
その時に思いながら、忙しさに取り紛れて、そのままになっていた。
九番隊に書類を届けに行き、修兵に誘われるままにお茶をして、十番隊に戻ると、冬獅郎はすでに執務室にいなかった。
今日は未の下刻 *1 から隊長会議があるので、出かけたのだ。
九番隊から引き取ってきた書類を整理して、冬獅郎の執務机に置き、自分の机に戻った乱菊は、あら、と首を傾げた。
机の上に見覚えのない包みがあった。淡い黄色の雲竜紙で包まれた小さな包みだった。
「何、これ?」
乱菊の机の上にきちんと置いてあり、どう見ても、乱菊に与えられたものだ。
首を捻りながら、包みを開くと、中からぱさりと落ちてきたのは、美しい朱鷺色の真田紐だった。白糸で織柄が表われていて、その模様は小菊のように見えた。
「もしかして、下げ緒…?」
乱菊は灰猫を下げた自らの下げ緒を改めた。先日の討伐の際、薄汚れ、擦り切れていることに気付きながら、その後、討伐の報告やら、残務処理やらで忙しくて、ついそのままにしていた。
真田紐を拾い上げ、確認すると、正しく下げ緒の長さであった。
乱菊は灰猫から下げ緒を解いた。新しい下げ緒を栗形に通して、綺麗に結ぶと、灰猫を刀掛けに掛けた。
申の中刻 *2 になって、冬獅郎が会議から戻ってきた。氷輪丸を刀掛けに戻そうとする上司に、
「ありがとうございます」
と、乱菊は礼を述べた。
「ん…」
返事が短いのは、照れくさいからだと承知している。
「灰猫もすっごく喜んでますよ」
「そうか」
「綺麗な色の真田紐ですねぇ。こういう綺麗な色ってなかなかないから嬉しくって」
「たまたま、組紐屋で見付けた」
斬魄刀は死神の命だ。その命を身につける為の下げ緒を贈られたことが、乱菊は嬉しかった。
たまたま見付けたと、冬獅郎は言ったが、おそらく、気に掛けていてくれたのだろう。そうでなければ、乱菊がいつもしている襷の色と合わせたような色合いの、乱菊の名に因んだような織柄の紐が偶然に見つかるとは思えなかった。
「ありがとうございます」
もう一度、礼を言う乱菊に、
「灰猫も気に入ったんならよかった」
と、乱菊からそっぽを向いて、ぼそりと冬獅郎は答えた。
*1 午後3時前くらい。
*2 午後4時前後。
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菊の花言葉:清浄・真の愛・高貴
思いっきり、苦し紛れの話です。
さすがに、11話めともなるとネタ切れです。
刀の装飾品って、けっこう心惹かれるものがあります。目貫とか、柄とか完全に芸術品だと思います。
ただ、そういうのは細工も細かいし、値も張るものだけに、上司が部下にプレゼントするようなものではない、と思いまして。下げ緒だと、
「傷んでるみたいだからやる」
というノリでいけるかな、と。