師走〜篝火草〜
灯りのない部屋に満ちるのは、切れ切れに細い女の喘ぎと荒い男の息遣い。
彼から与えられる酩酊は
「ん…、んん…」
ふくよかな膨らみの頂上にある固い蕾を、彼が口に含み、花をほころばせようと舌先で嬲る。知らず、大きく身体をのけぞらせた彼女の
閨の飾り棚に置かれた篝火草の鉢だった。何年か前に、彼とともに現世に赴いた際、花屋の店頭にあったそれに目を留めた彼女の為に、彼が買い求めてくれたものだ。
現世の明るい照明と、きらびやかなイルミネーションに彩られた街で見た花は、ただ美しく、可憐だった。だが、闇の中、洩れいる微かな月の光に浮かび上がる花は、名の通りに篝火のようで、一対の獣に戻って交わりあう自分と彼を照らしているようで、その淫靡さに彼女は戸惑った。
「っつ!」
不意にきつく胸に口接けられ、彼女はびくりと身を竦めた。驚いて視線を彼に戻すと、意識を逸らせた彼女を咎めるように、彼は軽く彼女を睨んでいた。ごめんなさいの気持ちを込めて、微笑を投げると、彼は苦笑いして、再び彼女の胸に顔を埋めた。
彼に抱かれて、刹那が永遠に繋がっていることを知った。
彼に溺れ、底なしの陶酔に身を委ね、彼と手を携えて、高く、高く、翔ぶ。
その刹那は、彼女にとって永遠に等しかった。
彼の長い指が、そっと、彼女の膚に残る傷痕をなぞる。ざわりと、新たな官能の波が押し寄せ、彼女は彼をきつく抱きしめた。
命のやりとりを使命とする死神という稼業に就いている以上、怪我はまぬがれない。たいていの傷は、救護を担う四番隊士の尽力で痕も残らずに完治するが、それでも、処置が遅れたり、深すぎて四番隊士にも癒しきれない傷が痕となって残ることはある。彼女の身体にもそんな傷痕が残っていて、彼はいつもその傷を、いとおしげに指で、唇で、辿る。そして、その度に、傷痕ごと受け入れられた歓びに、彼女は震えるのだ。
うわごとのように、彼の名を呼び続け、彼の体にも残る傷痕に指を這わせる。見えなかったけれど、彼女の胸もとで、彼が微笑んだのが分かった。
もし、明日、彼を失ってしまったとしたら。
死神である彼らには、常に死は隣り合わせの場所にある。どんなに強い死神であっても、絶対に生き残れるという保証はない。今、こうして交わっていても、明日には彼はいなくなってしまうかもしれない。自分が彼を置いて逝ってしまうかもしれない。
もし、彼が消えてしまったら。
生きてゆける。
彼女は思う。
彼を失った悲しみに泣いて、泣いて、けれど、自分は生きてゆける。
彼が与えてくれた永遠に繋がる刹那の記憶がある限り、自分は生きられる。
こんなにも彼に愛されたこと、こんなにも彼を愛したこと。それを覚えている限り、信じられるから。
輪廻の流れの中で離れてしまった魂が、いつか再び出会える日を信じることが出来るから。
生きられる。生きてゆける。
だから、彼にも信じて欲しい。
刹那は永遠に繋がっていることを。
もしも、自分が彼を残して消え去ったとしても、彼を愛した自分は彼の中に残るということを 。
願いを込めて、祈りを込めて。
彼女はそうっと、彼の膚に唇で触れる。彼が自分の中に記憶を刻むように、彼女も彼に自らを刻む。
びくりと、彼の体が痙攣した。熱情に応えるように、熱を返してきた彼女に、彼女の膚を滑らせていた手が止まった。
けれど、すぐに、彼は彼女を強く抱きしめ返して来た。
ともに高く翔ぶ為に。
永遠に等しい、刹那を手に入れる為に。
彼に抱かれて、刹那が永遠に繋がっていることを知った。
高みに上りつめてゆく二人を、篝火草が照らし続けていた。
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篝火草(シクラメン)の花言葉:内気・はにかみ・遠慮がち
無節操CP・真正ヤオイ小噺シリーズのラストは、CP不明の超なまぬるエロです。
篝火草というのは、シクラメンの和名です。管理人は、こっちの名前の方が趣きがあって好きなので、本文では篝火草で統一しました。
花が俯いているように見えるからでしょうか? シクラメンの花言葉って、初々しい、恥ずかしがりやのお嬢さんを思わせます。だのに、花言葉を完全に無視して、こういう裏っぽい話になってしまったのは、管理人の感性によるものです。これは、あくまで管理人の感覚なのですが、どうもシクラメンにエロさとか、淫靡さを感じてしまうのです。
「彼女」の部屋にあったシクラメンは「プリマドンナ」という品種のワイン色を想定しています。ロココ咲きというらしい、八重で花びらがフリルみたいになっているシクラメンです。花の下の方が深紅で、花びらの端が薄紅のぼかしになっていて、満開で咲いていると本当に篝火っぽく見えます。
シクラメンは球根植物なので、うまく育てると、毎年、花を咲かせるらしいのですが、管理人はそういうのが苦手なので、必ず、夏越しを失敗して死亡させてしまいます。数年前に買って貰ったシクラメンがちゃんと咲いているところを見ると、「彼女」は緑の指の持ち主(ガーデニングが上手い人)らしいです。
この話は、叛乱の終結から数年後の未来軸のつもりで書きました。読んでいただいてお分かりだと思いますが、敢えて個人名や個人を特定できる身体的特徴(髪の色とか、目とか)を記述しませんでした。この話の「彼女」と「彼」が誰なのかは、読んで下さった方の解釈にお任せしたいと考えたからです。
管理人の予想外に一万打達成が早く、後半は特に準備不足の中での更新となってしまい、正直、作品のクオリティという点では無念さが残る結果となってしまいました。でも、告知通りに連続更新出来たことには満足できています。ほとんど管理人の自己満足ですが、ご訪問下さった皆さまに楽しんでいただけたのなら幸いです。
12日間、おつきあいありがとうございました。