羽虫の見る夢


 重たい身体をギンはのろのろと引き起こした。全身に倦怠感がある。
 寝台の脇に置いてある煙草盆を引き寄せた彼は、煙管きせるに刻みたばこを詰めると火をつけた。紫煙をゆっくりと吸うと、頭がはっきりしてきた。
「…ったく、おっさん、やりすぎや」
と独り言を呟く。
「絶倫なんはええけど、相手させられるこっちの身ィにもなってほしいわ」
 数時間前まで、ギンを好き勝手に嬲っていた男は眠っている間に自室に戻ったらしい。これが、本気で情を感じている相手であれば、目覚めて傍らにいないことを寂しく感じるのかもしれない。だが、ギンにとって、藍染との行為は単なる上司に対する奉仕でしかなかったから、眠っている間に帰ってくれていることはむしろありがたかった。
 一服を終えたギンは灰入れに灰を落とすと、煙管を置いて立ち上がった。
 藍染の秘書官をしているギンや、破面の統括官である要の部屋には風呂が備え付けられている。上司に慰まれた後はいつもどろどろに汗ばんでいるギンとしては部屋に風呂があるのは助かっているが、水の乏しい虚圏ではかなり贅沢なことであることもわきまえている。
 やや熱めの湯で湯船を満たし、ギンはぼんやりと湯に浸かっていた。じんわりと身体が温まっていくに従って、腰に感じていた鈍い痛みがわずかながら薄れてゆく。
 ギンにとって、性交は手段である。貧しかった子供の頃は、食料や薬や衣類といった生きてゆくために必要なものを手に入れる為に。長じて後は情報を手に入れたり、利用しようかという相手の信頼を得る為に。ギンは自分の身体を有効に使う術を心得ていた。さらに言うと、目的を達する為の手段である以上、どんな相手であろうと選り好みはしなかった。女であろうと、男であろうと、見るに堪えない醜女しこめであろうと、子供や年寄りでも必要であれば抱いたし、場合によっては抱かれることも一切厭わなかった。
 だが、ギン自身の本来の性的嗜好は俗に「ストレート」と呼ばれる多数派の異性愛である。だから、単純に本能に根差す欲望を発散させる為に自ら金を出して相手を求める場合は、妓楼の女郎を買っても陰間茶屋の男娼は選ばない。好んで同性であるギンを相手にする藍染は、ギンに言わせれば、
「ほんま、もの好きなおっさん」
ということになる。
 浴槽の縁に頭を凭せかけ、風呂場の天井を見るともなく眺めながら、ギンは今度は誰を抱こうかと思案していた。
 藍染に抱かれることは敬愛する上司に対する仕事のひとつと割り切っているが、やはり、ギンは抱く方の性に生まれついているようだ。受身に廻った後は、己が攻める立場であることを確認したくなる。あからさまに言えば、女を抱きたくなるのだ。
 破面の女たちを順繰りに思い出していると、不意に、ひとつの後姿が想念を領した。
「…井上織姫…か」
 彼女を抱くのも一興かもしれないと、ギンは考えた。
 彼にはどうしても忘れられない女がいる。そして、彼はその女の面影を感じることの出来る者を相手に選ぶ傾向があった。
 声が彼女に似ている女を抱いた時は、相手にひたすら彼の名を呼ばせた。身体つきが似ている女が相手の時は、部屋を真っ暗にして身体の線をなぞり続けた。
 藍染が先日攫ってきた井上織姫という少女は、後姿がギンの想い出に住む女に似ていた。ならば、織姫を背後から犯せば、せめて彼女を思い出すことが出来るかもしれない。
(ほんまに未練がましいけどな…)
 本当に欲しい女はもう決して手に入らないのに、いや、手に入らないからこそ、せめて面影を追うことをやめられなかった。

 いきなり部屋に入ってきたギンに、織姫は有無を言わさずに押し倒されていた。
 両手を一纏めにして左手一本で頭上で押さえつけられ、男に圧し掛かられるという、普通の女の子であれば泣き喚きながら助けを求める局面だ。だが、織姫は泣きも喚きもしなかった。ただ、呆然とギンを見詰めていた。
 見かけによらず淫乱な娘なのだろうか。
 いささか意表を突かれたギンは、改めてつくづくと織姫を眺めた。
「似てへんな…」
 真正面から見下ろした織姫の顔立ちは面影の女にはまるで似ていなかった。
(やっぱり、後ろから抱かんと興が湧かんなァ)
とギンが織姫の身体を反転させようとした時、
「どうして…?」
 小さな織姫の呟きが耳に届いた。
「暇つぶしや」
 素っ気なくギンは返した。だが、続けられた織姫の言葉が、彼の動きを止めた。
「どうして、泣いているんですか?」

     泣いている?

 泣いてなどいない。

 見返したギンに、織姫はもう一度繰り返した。
「市丸…さん? どうして、泣いているんですか?」
「キミ、目ェ、悪いんと違う? どこをどう見たら泣いとるように見えるん?」
 ギンは嘲りを浮かべた。泣くよりも意外性はあったが、これで容赦してやるほど彼は優しくはない。行為を続けようとしたギンに対して、織姫は頑なにかぶりを振った。
「泣いていないけど、泣いています」
「はぁ? キミ…、織姫ちゃんやったな。今、どういう状況なんか理解っとって言うとるん?」
 呆れて質したギンだったが、織姫はその問いかけにははっきりと肯いた。
「理解っとるなら、」
 ギンは続けた。
「もっと、慌てるなり、怯えるなりするもんやで。それとも、是非とも犯して欲しいん?」
 嘲笑を深めて、ギンは言葉を重ねた。
「やったら、お望みどおりに、」
 だが、その先は織姫によって遮られた。
「ドラマでも、」
と、彼女は言った。
「小説とか、漫画とかでも、こういうことをする男の人っていやらしいにやにや笑いを浮かべて、楽しそうにしてます」
「…で?」
「だけど、市丸さんは悲しそうに見えます。すごくつらそうに見えます」
 しっかりとギンを見据えて、織姫は一息で言ってのけた。
「どうして、そんなに悲しそうな顔をしているんですか?」

     泣かないで。
     泣いてへんよ。
     泣いているでしょう。

 織姫を押さえつけていたギンの腕の力が緩んだ。
 何十年も昔に交わした会話が鮮やかに甦る。
 よく見ると、織姫は幽かに震えていた。
(やっぱり、怖かったんか…)
 それでも、逸らすことなく真っ直ぐにギンを見つめる眼差しを目の当たりにして、彼女を力ずくで犯そうという考えは跡形さえ残さずに溶け崩れてしまった。
(この娘は汚せへんわ…)
 後姿が似ているだけの女なら、泣いて許しを乞おうが容赦なく凌辱出来た。けれど…。

 ごく稀に出会うことがあった。
 魂の輝きがどこか、忘れられない彼女に似ていると感じる相手に。

     織姫はそれだった。

 顔貌が似ているだけなら、どんなにひどいことでも出来る。けれど、魂が似ている織姫にはもう触れられなかった。
「かんにん…」
 ギンは織姫の手を離した。半身を起こした織姫は自分自身を庇うかのように、両腕で己が身体を抱きしめた。解放されて気が緩んだことで、却って恐怖が強まったのか。織姫ははっきりと分かるほどに青ざめ、震え始めた。目には涙が溜まっている。
「…ふっ、…う…」
 やがて堪えられなくなったのだろう。押し殺した声で彼女は泣き出した。膝小僧を両手で抱え、そこに顔を押し付けて、織姫は啜り泣いた。
 ギンは黙ってそれを見ていた。
「…ぅ…、くぅ…」
 声を上げて泣いた方がきっと楽だろうに、必死に嗚咽を堪えている織姫をいじらしいと感じた。彼女を泣くほど怯えさせた自分に嫌気がさした。
 ギンの手が織姫の頭に置かれた。びくりと大きく震えた彼女に、
「かんにん。怖がらせてしもて」
ともう一度謝罪の言葉を繰り返し、ギンはゆっくりと織姫の頭を撫でた。泣かせておきながら、こんなふうに慰めるのは滑稽だという思いはあったが、彼女を置いて立ち去ることも出来なかった。幼子にするように優しく頭を撫で続ける。
 いつしか、織姫の啜り泣きは小さくなっていった。
「…すみ…ません…」
 少ししゃくりあげながら、鼻水混じりの声で謝る織姫にちり紙を手渡しながら、
「織姫ちゃんが謝るんは道理に合わんよ。泣かしたんはボクや」
「…でも…」
「ごめんな。怖い思いさせてしもて」
 織姫は鼻をかむと、初めて、落ち着いてギンの顔を検めた。 
 冬獅郎とよく似た色味の、けれども、彼とは違って癖のない銀の髪が目元にかかって翳を作っていた。横顔の造作は驚くほどに整っている。そして、やっぱり、彼はどこか悲しそうに見えた。
 彼と実際に対峙するまで、織姫はギンに対してよい印象は持っていなかった。乱菊は幼馴染であることも含めて、ギンのことを一切織姫に語っていなかった為、織姫が持っていたギンについての知識は血に彩られたものばかりだった。中央四十六室を斬殺したこと。一護たちを瀞霊廷に入れようとしたジ丹坊の腕を容赦なく切り落としたこと。懺罪宮でルキアを嬲ったこと。ルキアの処刑を計画し、用済みとなった彼女を刺し殺そうとしたこと。それから、冬獅郎を陥れ、桃ともども殺そうとしたこと。
 冷酷で、非情で、残忍で、優しさとか、そんな感情とは無縁の幽鬼のような男を織姫は思い描いていた。
 織姫を力ずくで押え込んだ男は、やっている行為自体は想像していた通りの血も涙もない非情さであった。だが、表層に浮かんだにやにや笑いの奥に胸が痛くなるほどの悲しみと淋しさを見付けてしまい、織姫は行為と心のギャップに怯えるよりも先に戸惑ってしまったのだ。
「どうして、さっきみたいなこと、しようとしたんですか?」

 あんなに悲しそうだったのに    

「暇つぶしやって」
とギンは答えた。
「だったら、止めてくれたのは何故?」
「…何でやろなァ」
 ギンは立ち上がった。
「織姫ちゃん」
「はい…」
「他の連中にはボクに無理矢理に犯された、いうことにしとき」
「え?」
 意図が分からず、唖然としてギンを見詰める織姫に、
「キミ、死神代行の子ォが好きなんと違とった?」
と告げる。途端に、織姫は分かりやすく赤面した。
「ボクは十刃エスパーダより立場が上や。ボクの手ェがついた娘を、敢えて襲うようなアホはおらん。もし、破面に犯されそうになったら、ボクの名前出すとええ。多分、てきめんに萎えるで」
 ふ、と最後に皮肉な、けれども優しさを感じさせる笑みを零して、ギンは織姫の部屋を出た。

 自室に戻り、ギンは鏡に映る自分を眺めた。
 悲しそうだ、と織姫は言った。
 泣いていないけれど、泣いていると。
 そして、四十五年前には彼女からも…。

     泣かないで。
     泣いてへんよ。
     泣いているでしょう。

「泣いてへんよ」
 同じ言葉を一人、鏡に向かって呟く。

     泣いてへんよ。

 いきなり、ぱしんと軽く頭をはたかれて、ギンは覚醒した。
 顔を上げると、目の前に忘れられない面影があった。
「…絢女?」
 ギンの呆とした表情に、絢女は形のよい眉を顰めると、
「いくら藍染隊長がお留守だからって、執務室で堂々と転寝うたたねなんて下に示しがつきませんよ」
と苦言を呈した。
 ぱちぱちと瞬きを繰り返すギンに溜息をついた絢女は、口調を三席から友人のそれへ変化させ、
「いつまで寝ぼけているの?」
と拳骨を作って、彼の頭をこつんと柔らかく叩いた。
「ギン、大丈夫?」
 覗き込む絢女に、
「生きとったん…?」
 未だ呆然としたままで、ギンは呟く。
「え?」
「絢女、生きとったん?」
「は…?」
 ギンは音を立てて椅子から立ち上がった。机を挟んで向かいに立つ絢女の腕を掴み、夢中で引き寄せようとする。
「ちょ、ギン!?」
 だが、慌てた彼女に反射的に突き飛ばされて、再び椅子に尻餅をついて着地した。
「いい加減、目を覚ましなさい!」
 今度こそ、容赦なく分厚い書類の束で引っ叩かれた。
「もうっ。寝ぼけないでよ」
「…かんにん」
「だいたい、人を勝手に殺さないで欲しいわ」
 ぶつぶつと文句を呟いていた絢女だったが、ギンがまだ不安そうに見つめているのに気付いて、表情を気遣わしげなものに変えた。
「そんなにひどい夢だったの?」
「うん…」
 ギンの指が伸びて、絢女の頬に触れた。子供のようにたどたどしいその手付きに、絢女は自らその手を頬に押し付けた。
「ちゃんといるでしょ?」
「うん」
「だから、安心して」
「うん…」
 掌ごしに、彼女の温みが伝わってくる。
 ギンは大きく息を吐くと、
「かんにん」
と彼女の頬から手を引っ込めた。
「勤務中に居眠りなんかするから、悪い夢を見るのよ」
「…そやな」
 ギンは逆らわずに頷いた。
「どんな夢だったの?」
と絢女は尋ねた。
「悪い夢は人に話して、手放してしまう方がいいのよ」
 琥珀色の優しい眼差しに背中を押され、
「未来の夢、見とったん」
とギンは話し始めた。
「ボクは隊長になっとって」
「あら、すごいじゃない。そこの部分はいい夢だから話さなくて良かったのに」
 ギンを元気付けようとしているのか、ことさらに明るい笑顔を向ける絢女にささくれだっていた心が緩んでいく。
「ようないよ。叛乱起こすんやで」
「…それはまずいわね」
「うん…。絢女は行方不明になってしもとって」
「…死んだわけじゃないのね」
「ん…。でも、生きとるかどうかも分かれへんのやもん」
「…そう」
「そのせいで、乱菊とも疎遠になってしもて、寂しゅうて、寂しゅうて…」
「叛乱を起こしたの?」
「うん」
 絢女の頬に宥めるような穏やかな笑みが浮かんだ。
「ただの夢よ。現実じゃないわ」
「うん」
 彼女はギンの前に書類の束を置いた。
 かなり分厚いその量に、ギンは目を瞠って絢女を見返した。
「一気に目が覚めたでしょ?」
 にっこりと絢女は笑った。
「…これ?」
「さっき廻って来たの。きりきり働かないと終わらないわよ。今日は定時に上がらなくちゃいけないんだから」
「定時?」
 首を傾げたギンを、
「ちょっと、まだ寝ぼけているの?」
と絢女は軽く睨んだ。
  の入隊のお祝いにご馳走してくれるんでしょ?」
「…あ」
  はもちろんだけど、私も、乱菊も、すごく楽しみにしているんだからね」
「それは分かっとうけど、これ…。定時って」
 上目遣いに伺うギンに、絢女は再び口調を三席のそれに変更した。
「市丸副隊長が本気を出されれば、処理できる量です」
 すっぱりと彼女は言い切った。
「頑張って下さい、市丸副隊長。  も副隊長のことを尊敬しているんですから」
「優秀いうたら、若さんの方がよっぽど優秀やん。霊力かて、ボクよりよっぽど強いし」
 ギンの言葉に、絢女は苦笑を浮かべた。
「ギンたら、また『若さん』呼びして…。  が拗ねるわよ」
「やって…」
「あの子はギンのことを目標にしてるから、早く対等になりたいのよ。護廷に入隊出来たら、ちゃんと名前で呼んで貰えるからって喜んでいたのに」
「せやったな」
とギンは目の前の書類に視線を落とした。
「優秀な市丸副隊長としては頑張らなあかんか」
 そうだ。
 ギンは思い出した。
 今日は十三番隊に入隊を果たした絢女の弟の祝いをするのだった。
 ギン自身も弟のように可愛がっている若さんの為に、奮発して居酒屋ではなくちょっと高級な料亭を予約した。乱菊も誘って、盛り上がるつもりだったのに忘れるなんてどうかしている。
「絢女」
「何?」
「若さんのこと、海燕はんも誉めとったで。鍛え甲斐がありそうやて腕まくりしそうな勢いやった」
 絢女の口許がほころんだ。自慢の弟を他隊の副隊長であり、弟の上官になるはずの青年に誉められたのがよほど嬉しいらしい。
「ありがと。  にも教えてあげて。喜ぶわ」
「うん」
「じゃ、市丸副隊長。頑張ってね」
 踵を返して執務室を出ようとした絢女を、ギンは再び呼び止めた。
 振り向いた絢女の琥珀の眸を、ギンは真っ直ぐに見据えた。
「絢女…」
「…何?」
「…好きや」
 ずっと言えなかった言葉が驚くほどに簡単に零れ落ちた。
「知っているわ」
 絢女は答えた。

     眸に映るのは無機質な白い天井と、見慣れた上司の顔。

 横たわるギンの顔を上から覗き込んで、
「よく眠っていたね」
と藍染は笑みを浮かべた。
「…ああ、すみません」
 起き上がりながら、ギンは謝した。
「藍染隊長が来はったのに気付かんと寝くたれてしもて」
「構わないよ。このところ、忙しかったからね。疲れが溜まっていたのだろう」
 藍染はギンの寝台の端に腰かけると、
「夢をみていたのかい?」
と尋ねた。
「ええ、まぁ…」
「よっぽどいい夢だったみたいだね。幸せそうな顔をしていた」
 穏やかな微笑の裏にある皮肉に気付かないほど、この男との付き合いは短くはない。ギンはゆるりと笑みを張り付けると、
「ほんま、ええ夢でしたわ」
としらっと応じた。
「そうか」
「あのまんま、ずっと覚めんで欲しい思うような…」
 甘美で暖かな陽だまりのような夢    
 覚めないで欲しかったというのは本音だ。あの優しい夢の世界に浸りきったままで死ねるなら、きっと幸せだろうとギンは思う。地獄の底と極楽のてっぺんほどにも落差のある現実に、ギンは密かに息を吐いた。
 この世界には絢女はいない。
 乱菊とは訣別し、絢女の弟も見つけ出せないままだ。
 そして、この手は…。
 ギンは自分の手に視線を落とした。
 血塗れだ。無辜の者たちの血をたっぷりと吸ったこの手では、たとえ絢女が生きていたとしても、最早、彼女に触れることは叶わない。

 もう手に入らない。あの夢のようには、決してならない。

 こんな世界、壊れてしまえばいい。

 ギンは思う。

 絢女のいない世界など、なくなってしまえばいい。

 けれども、ギンは知らない。

 夢と現実の乖離に臍を噛む彼の後ろで、決して気取られないようにほくそ笑む藍染を。
 自分の身体に、また一本、ねとつく蜘蛛の糸が渡されたことを。

 一本、また一本    
 ギンの身体に蜘蛛の糸が巡らされる。
 もがけばもがくほどに絡め取られる蜘蛛の巣に捕らえられた羽虫は、蜘蛛に喰らい尽くされるのを待つばかりだ。

 だから、せめて。

 羽虫は夢を見る。
 自由な空を飛びまわる日を、儚い夢に託して想い続ける。

     泣かないで。
     泣いてへんよ。

 泣いてへんよ    

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 10万打感謝リクエスト小噺 その1

 …えーと。
 リクエストは「『風が還る日』の設定で、ギンが姫さんや若さんに再会してみんな死神になってて昔みたいに平和に暮らせるという夢をみる話」だったんですが。ええ、確かにそういう夢をみておりますとも。
 だけど、どうしてこんなにダークな話に転がってしまったのやら。リクを下さった方の意図していた話とは全然違うという自信だけはしっかりあります。ですが、「そんな自信、いらんだろ」と小一時間ほど自分を問い詰めたい心境です。
 やっぱり、市丸さんが管理人のSっ気を刺激するのがきっといけないんです。(何、人のせいにしているんだか)
 話の時間軸は「風が還る日」の第6話の頃。織姫ちゃんが拐かされた直後くらいです。あと、幕間の「梔子の香り」を未読だと意味不明の箇所もあります。
 リクエストを下さった紫狼さま、すみません。管理人は基本、創作傾向が重いようです。思っていらしたのと全く違うとは思われますが、こんな作品でもよろしければどうぞお納め下さい。(ぺこり)

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2011.08.04