Review My Kisses


 篠突く雨が地を叩く。
 厚い雨雲で月も星も覆い隠された夜は、暗闇に支配され、何も見えない。

 この深い闇の中、激しい雨音に気配を隠しながら、侵入してきた者があった。

 布団に身を横たえたまま、冬獅郎は眠ったふりで侵入者を待ち構える。
 霊圧は完璧に消されていた。にもかかわらず、気が付いたのは、冬獅郎が隊長だから、というよりも侵入者が馴染みすぎた相手だからだろう。
 まんまと寝所に入り込んだ侵入者は、横たわったままの冬獅郎の傍らに佇んで、しばらく気配を窺っていた。
 微かに衣擦れの音がした。辺りを埋め尽くす雨音に掻き消されそうな密やかな気配で、侵入者が帯を解き、衣を畳に落としたのを知った。するり、と野生の猫のような敏捷さで布団に潜り込んできた相手は、そのまま、唇を冬獅郎に押し付けた。
 同時に、冬獅郎の両手が伸びて侵入者をがっちりと捕らえた。
「!!」
 我から挿し入れたはずの舌を、搦め捕られ、嬲られて、息苦しさに暴れると、冬獅郎はやっと腕を弛めて相手を解放してやった。
「夜這いとは、ずいぶん大胆だな」
 からかいを滲ませた冬獅郎の言葉に、
「だって…」
と乱菊は口ごもる。
「だって、何だ?」
「来て下さらなかったじゃないですか。あたし、ずっと待っていたのに…」
 拗ねた口調に、冬獅郎は苦笑を浮かべた。
「そうか、すまない」
と、彼は謝った。
「おまえ、今日はくたくたに疲れているだろうから、無理させるわけにはいかねぇと理性で押さえたんだが…」
「疲れてますよ。おっしゃる通り、くたくたです! でも、」
 でも、それ以上にあなたが欲しかった。
 告げる代わりに唇を重ねると、先ほどとは打って変わって、冬獅郎は優しく乱菊を迎え入れた。

 現世の管轄地に出没する虚の討伐の為、乱菊は数名の部下を連れて、半月ほど現世に降りていた。
 現世駐在の死神の手には余る、知能が高い上に気配を殺すのが巧みな強力な虚が数体、集団で管轄地に出没していたのだ。部下からの報告に、事態を重く見た冬獅郎は乱菊を長に討伐隊を編成し、現世に派遣した。なかなか尻尾を掴ませない相手に予想以上に手間取ったものの、ようやく虚を捕捉し、乱菊たちが討伐を終えたのはつい数時間前のことだ。任務完了と帰還の連絡を伝令神機で受け、
「疲れているだろうから、報告は明日でいい。戻ったらゆっくりと眠れ」
と冬獅郎は伝えた。
 半月の乱菊の不在は、そのまま、冬獅郎の禁欲生活の日数である。顔を見れば触れたくなる。触れれば歯止めが利かなくなって、疲れきっている彼女に負担を強いることになる。そのことが確実に予見できたから、冬獅郎は理性で欲望を捩じ伏せ、一人寝に甘んじることにしたのだ。我ながら鋼の理性だと自分を称えていたのだが、乱菊にしてみれば要らぬ気遣いだったらしい。
「隊長…」
 いつもは冬獅郎に流されて、受身一方の乱菊が外の雨に対抗するかのように、口接けの雨を降らせてくる。
「隊長、会いたかった」
「俺も、だ」
「嘘つき。来て下さらなかったくせに」
 乱菊は冬獅郎の胸板に顔を埋めた。舌先がちろちろと胸の突起を嬲り始め、冬獅郎は僅かに息を吐いて身動ぎをした。
 触れたいという想いを押さえていたのは、彼だけではなかった。乱菊もまた彼に焦がれ、その腕の中で眠れる日を待ち望みながら、いっこうに補足できない虚に苛立ちを募らせていたのだ。虚を討伐した昂ぶりと、内に籠もっていた欲望が、乱菊を常になく興奮させていた。来てくれると思っていた冬獅郎から待ちぼうけを食らった不満もあった。
 珍しく積極的な彼女に興を覚え、冬獅郎は敢えて彼女に身を任せてみた。
 彼の夜着の帯を解き、すでに乱れていた前を完全にはだけさせた乱菊は、そのまま、胸もとから引き締まった腹筋へと唇を這わせていった。ふっくりとした唇が彼の膚を滑り、吸い上げ、所有のしるしを刻んでゆく。
 彼女の手が下帯に掛かった。慎重な手つきで解き始める、その動きだけで冬獅郎は昂ぶっていった。
 乱菊が下帯を奪い取った時には、彼の牡はすでに猛りきって、硬く屹立していた。その牡を無雑作に手で掴むと、乱菊はそっと口接けた。舌先でちろりと嬲ってから、乱菊は両の手で彼のものを丁寧に扱き始めた。
「ちょっ、松本…」
 慌てた冬獅郎が制止しようとしたが、乱菊は止めなかった。
 やわやわと、十本の指が彼を追い詰めていく。
 愛しい女から与えられる刺激に、溜まりに溜まっていた欲望が耐えられるはずもなく。
「っ!!」
 身震いをひとつして、冬獅郎は乱菊の掌に精を放ってしまった。
 闇の向こうで、乱菊が勝ち誇った笑みを浮かべたのを、冬獅郎は確かに感じた。
「松本」
 ことさら、声を低めて彼女を呼ぶと、
「何です…」
 わずかに彼女は怯えたようだ。
「人がせっかく理性で抑えたのを、煽ったのはてめぇだからな」
「…あ」
「半月、溜まってるんだ。今日は手加減出来ねぇからな」
 言うや、冬獅郎はくるりと態勢を入れ替えた。彼に圧し掛かっていた乱菊は、一瞬で彼に組み伏せられた。
「たい…ちょう…」
 噛み付くような口接けが落とされた。大きな掌が性急で乱暴な手つきで、乱菊の体を弄ぶ。
「…やっ! たいちょ、待って」
「待てねぇ。加減も出来ねぇ」
 冬獅郎は一刀両断に言い切った。
 常になく荒々しい愛撫に、乱菊の唇から悲鳴が洩れた。
「や…、やめ、たいちょ、お願い…」
 返ってきたのは、更に激しい愛撫。隅々まで知り尽くした指が、唇が、確実に乱菊を責め立て、逃げ場をなくしていく。
「…あ…、あ…」
 目が眩み、乱菊は夢中で冬獅郎にしがみついた。
 雨音が強さを増した。
 冬獅郎の指が花芯に挿し入れられた。
「ひっ…」
 細い悲鳴。
 巧みに弱いところを責めつけられ、乱菊は押し寄せる快楽に飽和しそうになっていた。
「あ、ああ…、もう…許して」
 まともに言葉が出せたのは、それが最後だった。
 切れぎれの喘ぎに、雨音が重なる。
 だだ、互いの荒い息遣いだけが洩れるそばから、大地を打つ雨に呑み込まれていった。

 やがて、乱菊の唇から絶叫が響く。
 だが、その声さえ、轟き渡った雷鳴が消し去っていった。

******************************************

 リクエスト同票第一位「裏あり(但し超生ヌル)日乱」

 タイトルは、Lara Fabianのアルバム"A Wonderful Life"収録曲より。
 Lara Fabianはカナダを拠点に活躍しているシンガーソングライターです。日本での知名度は今ひとつですが、"A.I."といったハリウッド映画にも楽曲を提供していたりして、北米では知られています。カナダの女性シンガーといえば、真っ先にCeline Dionが挙げられますが、管理人は彼女よりララの方が好きです。歌は上手いし、曲だってすごくかっこいいし、もっと有名になってもいいと個人的には大プッシュしているのですが…。
 このお話の時間軸は、叛乱終息から五、六年後くらいを想定しています。隊長と乱菊さんはすっかり出来上がっていますが、まだ正式にくっついていません。本人たちと一部の横恋慕組を除いて、周りの人々は「とっとと落ち着くところに落ち着いてしまえ」と思っているような状態です。住んでいるのも相変わらず、十番隊の隊長舎と副隊長舎。
 テーマは夜這いに行って、返り討ちにあう乱菊姐さん。
 いや、曲がどちらかというと「女性攻」の内容だったのですが、隊長がおとなしく受身でいるとも思えなかったので、最終的には攻め隊長に持っていきました。当社比(あくまで当社比)ではかなりハードな裏だと思うのですが、世間的には「これ、裏?」て程度の代物だという自覚はあります。
 以下が"Review My Kisses"の歌詞の訳です。但し、訳したのは語学力皆無(のくせに洋楽好き)の管理人ですので、あまり信用なさらずに。


  あたしのキスを思い出して

あなたといる時だけがあたしの幸せ
あなたのことを想うと温かくなる
電話をくれないと落ち込むの
夜には電話して
どこに行ってしまったの どこにいるの
あたしのことを思い出して

息をするのもつらい 心は沈んでゆくの
あなたに手をのばしているのに
瞬く間にすりぬけてしまう
前にもあった こんな痛み
もう耐えられない もう一晩も我慢できないの
あなたが傍にいないだなんて

あたしのキスを思い出させたい
あなたの体のすみずみまで
あたしの秘密を曝け出したい
あなたにだけは知っていてほしいの
あなたの唇だけが痛みを癒せるわ
あたしのキスを思い出させたい
あなたはあたしのものだって あなたが忘れてしまわないように

あなた以上に好きにならないように
ひとりぼっちで雨にうたれないように
冷たいあなたに叫びかけるの
遠く はるか遠くまで 鳴り響く雷鳴のように

この暗闇は洞窟のよう
あたしはあなたの中で惑っている
行かないで…

あたしのキスを思い出させたい
あなたの体のすみずみまで
あたしの秘密を曝け出したい
あなたにだけは知っていてほしいの
あなたの唇だけが痛みを癒せるわ
あたしのキスを思い出させたい
あなたはあたしのものだって あなたが忘れてしまわないように

駄文倉庫に戻る
トップへ戻る
2009.07.01