銀の背中、金の重み
いつもにも増して、ペースの速かった乱菊が半ば潰れかけているのを見遣り、七緒はひっそりと溜息をついた。厠に立つ振りで個室から出た彼女は、柱の影に隠れて伝令神機を取り出した。
優秀な副官であることを己に課している七緒は、緊急事態に備え、護廷十三隊の五席以上の席官の連絡先を伝令神機に登録している。その中の一人を選び出し、七緒は呼び出し釦を操作した。登録はしていても、実際に連絡を入れたのは初めてではなかろうかと考えている間に、相手が神機に応答した。
「八番隊、伊勢です」
七緒の名乗りに、
「ああ、誰かと思たら…」
と独特の訛りで、相手が苦笑した気配が伝わった。
「もしかして、乱菊? 潰れとるん?」
用件を言い出す前に正確に察知するあたりは、流石に長い付き合いの人だけある。七緒は内心で感嘆しつつ、肯定を返した。
「ぎりぎり潰れてはいませんが、間もなくといったところです」
「やっぱりなァ。辰巳屋で間違いない? すぐ、迎えに行くわ」
「ご足労おかけします」
「いいや。気ィ遣うてもろて、堪忍な」
と通話が切れた。七緒はこれで安心と、個室に戻った。
今日は護廷十三隊の副隊長仲間の懇親会だった。各隊の副隊長は情報交換と親睦の名目で、定期的に宴会を催していて、今晩の集まりもそれである。社交的な上に酒豪の乱菊は、こういった席ではいつもがんがんと呑む。だが、自分が飲む以上に周りにも呑ませるので、ほとんどの者が乱菊より先に潰れてしまい、結果、彼女が潰れる前にお開きになることが多い。だが、今日に限っては、彼女は一人でハイペースな呑み方をしていて、早々にダウンしてしまいそうな塩梅だった。
いつもなら、潰れる前の酔っ払い状態であろうと、きっちりと潰れ切っていようと、七緒はほとんど乱菊を心配しない。何故なら、案ずるまでもなく、頃合いを見計らって乱菊を迎えに来る者がいるからだ。乱菊の上司であり、恋人でもある日番谷冬獅郎が、その過保護ぶりを遺憾なく発揮して、彼女を連れ帰りにやって来るのだ。自分のペースを決して崩さず、よって、この手の宴席で潰れたことがない七緒は、いつも迎えに来た冬獅郎に乱菊を渡して任務完了という気分に浸っていた。
しかし、今宵は冬獅郎の迎えはない。彼は五日ばかり前より瀞霊廷を離れているからだ。技術開発局の局員数名と、上位席官二名を含む小隊を率いて、流魂街の外れの最貧区まで調査任務に赴いている。実をいうと、乱菊の常にない酔いっぷりも、冬獅郎の不在が理由だったりする。留守番で置いていかれて寂しいのを、酒で紛らわせているのだ。
乱菊が潰れそうな気配に、修兵と鉄左衛門が互いに牽制を始めたのを察知して、七緒は危機感を覚えた。二人が長年、乱菊に恋慕していることは、当の乱菊だけが今ひとつ自覚が薄いが、護廷では知られた話である。もちろん、乱菊と冬獅郎が相愛の現在、彼らの想いは横恋慕でしかない。そして、それは二人ともしっかりと自覚しているから、諦めようと努力していることも周知の事実だ。しかし、諦めると決心したところで簡単に気持ちを断てないのが、人の心の難しさである。冬獅郎が迎えに来ないことがはっきりしている千載一遇の機会にせめて酔った彼女を送るという名目で寄り添い歩きたいという切ない男心を、七緒は未練がましいと非難出来なかった。また、修兵にしろ、鉄左衛門にしろ、清廉で漢気のある人物だから、邪な下心があるわけではないのも分かっている。酔った乱菊をどうこうしようなどという卑劣な考えはなく、ただ、乱菊を隊寮に送るだけの心積もりであることは疑う余地はない。
だが、そうであっても、七緒は彼らに乱菊を送らせたくなかった。彼らが素面なら、任せても構わない。しかし、しっかりして見えても酔っているのは明白なのだ。そして、乱菊はほとんど正体を失くしかけている。いくら、彼らが誠実な男であっても、何がしかのアクシデントが重なった結果、理性が振り切れる可能性がゼロとはいえない。間違いが起こってしまったら、取り返しがつかないのだ。
一方、乱菊が自力で寮に戻れそうもないのも、また、明白だった。副隊長ではないが副隊長仲間の数に入っている十一番隊の一角と弓親がいれば、彼らに託すところなのだが、あいにくと本日は不参加である。先日の大規模な討伐で思う存分に大暴れしたとかで、揃って四番隊の厄介になっている。イヅルは自分一人が隊寮に戻るので精一杯だろう。恋次は物理的には乱菊を送ることが充分可能だが、修兵に対しても、鉄左衛門に対しても、後輩なので立場が弱いのが難点だ。彼らから強硬に押されれば乱菊を渡してしまいかねないだけに、恋次に頼むのも拙い。となると、乱菊を無事に隊寮に帰す為に七緒に残された選択肢は、外部に出迎えを要請することしか思いつかなかった。
この状況で「酔いつぶれた乱菊を迎えに」という理由であれば七緒が呼びつけても失礼に当たらず、かつ、乱菊がどれだけ泥酔していようと間違いが起こる可能性皆無という相手は唯一人しか存在しない。だから、七緒は迷わず、その唯一無二の人物に連絡を入れたのだ。
七緒が個室に戻って間もなく、予想に違わず、乱菊は潰れてしまった。卓に俯せて半ばうつらうつらと眠り込みかけている乱菊に、修兵と鉄左衛門の牽制合戦が一段と熱を帯びた。
「乱菊さん、帰りましょう。俺、送りますよ」
「うぅ〜ん」
「わしの方が十番隊寮に近いけえ、ついでじゃ。わしが送る」
「…んん」
「乱菊さん、大丈夫ですか? 歩けないなら、俺が負ぶって…」
「いや、わしが」
とまともに返事をしない乱菊を挟んで、修兵らが言い争っている時。
からりと個室の障子戸が開いて、入って来たのは市丸ギンだった。
「乱菊〜、迎えに来たったでぇ」
彼の登場に、コントのように見事に顎をパカッと開き、呆然としてしまった横恋慕二人組。ギンはといえば、実にいい笑顔を浮かべて、
「乱菊はボクが連れて帰るから、二人とも心配いらへんよォ」
と清々しく言い切った。すっかり傍観者のイヅルと恋次が心の中で、
「ご愁傷様です」
と手を合わせる。
「ほら、乱菊。帰るで」
ギンは修兵らを押しのけるようにして乱菊の傍らに立つと、寝入ってしまった彼女をさっさと背中に負ぶってしまった。
「ほんなら、これ、乱菊の分な」
きっちり色を付けた代金を置いていく辺りは、流石に高給取りの隊長というべきか。口を挟む暇さえ与えられず、鳶に油揚げを攫われた格好の修兵と鉄左衛門は黙然と見送るのみだ。
ギンはあっさりと乱菊を拉致して行き、七緒が個室の戸を静かに閉めた。
同時に、はぁぁ、と盛大な溜息が響いた。
昨日の敵は今日の友。
どちらからともなく目を見合わせた修兵と鉄左衛門は、無言で盃を酌み交わし始めていた。
ゆったりと柔らかな振動に乱菊はぼんやりと薄目を開けた。月灯りに銀色が目に入り、
「たいちょ…ッ!?」
と一気に覚醒する。直後、その銀色が冬獅郎でないことに気が付いた。
彼と良く似た色味だが、癖のないさらさらの髪。彼よりも細身の背中。着物に染みた、彼は吸わない煙草の香り。
「何で、あたし、ギンにおんぶされてるのよ」
憮然と呟けば、
「なんや不満そうやなァ。こんな色男におんぶされとるのんや。役得いうもんやで」
と人を喰った返答が返って来た。
「なぁーにが色男よ。狐のくせに」
思わず、乱菊は憎まれ口を叩いた。
「役得なのはあんたの方でしょ? こーんなナイス・バディと密着してるのよ。感涙に咽びなさい」
ギンは口角を上げた。
「七番隊か九番隊の副隊長サンやったら、実際、感涙しそうやけどなァ」
「…はぁ?」
「生憎とボクは絢女にしか勃たへん身体になってもうたから」
ぺしっと、手首のスナップを利かせて、乱菊はギンの頭をはたいた。
「何、とんでもないことをしれっと口走っているのよ!」
「やって、ホントのことやも〜ん」
ギンは楽しそうに反論すると、乱菊を揺すり上げた。乱菊は呆れたように、ひとつ、息を零すと、
「それで、ギン?」
と改めて彼に問いかけた。
「あたし、何であんたにおんぶなんかされてるの?」
「乱菊が潰れそうや、て、伊勢さんが連絡くれたんや」
「…あ〜」
「せやから、迎えに来たん」
「もうっ。七緒ったら心配症なんだから。ちょっと休めば、自力で帰れたのに」
ぶつぶつと乱菊は呟く。
「そうは思えへんのやけどな」
ギンは僅かに首を後ろに振り向かせて、背後の乱菊を覗き込んだ。
「乱菊。冬獅郎はんがおらんで淋しいのはよう分かるけど、飲み過ぎはあかんで」
お兄ちゃんモード全開の口調に、乱菊はむうと口を尖らせた。確かに、居酒屋を連れ出されたのにも気付かないほどに酔っぱらってしまったのはまずかったと思う。思うが、素直に認めたくない。
「何よう」
と、乱菊は酔いに任せて、もう一度、ギンの頭を叩いた。
「ギンなんか、絢女が辺境遠征に出た時、死にそうになってたじゃないっ!」
昨年、五番隊が辺境遠征で一月半ほど不在だった時のことを引き合いに出して反論すれば、ギンは苦笑を落とした。
「まぁ、あれはちょっとした黒歴史やね」
彼はあっさりと認めた。
「けど、ボクは正体失くすほど、酔っぱらったりはしてへんよ」
「その分、へたれて凹んでたくせに」
「やって淋しかったんやもん」
「あたしだって、淋しいの!」
ぱちんと、ギンの頭を叩くと、
「乱菊。ボクの頭は鼓やないねんから」
とギンは怒るでもなく、やんわりと嗜めた。
「みっしり中身が詰まっとるから、音もようないで」
「確かにねー。性悪根性が詰まってるから、やーな音」
「はいはい」
ギンのさらさらの髪が首筋に当たってくすぐったい。こんなふうに、彼に負ぶわれるのは一体何十年ぶりだろう、と乱菊は少しだけ、胸が切なく疼くのを感じた。
昔、昔。絢女が藍染の罠に落ちて行方不明になるよりも以前。乱菊と絢女とギンが仲の良い同期の友人としてつるんでいた頃は、よく、こんなふうにギンに負ぶわれて送ってもらったものだ。乱菊は酒豪として知られていたが、ギンは彼女に輪をかけて酒が強かった。そして、一見、酒が弱そうにみえる絢女は実は二日酔い知らずのうわばみだったから、三人で呑むと真っ先に潰れるのは乱菊だった。
「あーあ、まぁた、乱菊、潰れてもうたで」
「仕方ないわね。乱菊、今日は私のところに泊まりなさい」
と五番隊に連れ帰られ、絢女の部屋で朝を迎えたことは数え切れない。
あの頃、乱菊はギンにおんぶされるのが好きだった。現世の記憶を失い、一人ぼっちで流魂街に流れてきた乱菊にとって、飢え死にしかけたところを救ってくれたギンは家族同然だった。貧しい生活の中で二人支え合って生きてきた思い出は、喩え、一度は裏切られて置いて行かれたとしても、消し去るほどが出来ないほど乱菊の中に根を張っていた。彼におんぶされると、最貧区で共に暮らしていた頃に還れるようで、無条件に信じていた日々が甦るようで、乱菊は嬉しかった。家族に等しい、兄のような男と、親友と、三人でずっといられるのだと疑いもなく信じていた当時の自分を、乱菊はひどく愛おしく思い出した。
「ギン〜」
「ん〜?」
「あんたって、男のくせに髪の毛、さらさらよねぇ。なんかむかつく」
「将来、禿げへんようにしっかりケアしとるからなァ」
「何? あんた、禿げそうなの?」
「いやぁ。今のところはそういう兆候はないで。でも、禿げとうはないな」
ギンはくつりと笑った。
「冬獅郎はんはどうなん?」
「冬獅郎さんは禿げたりしないわ。美形は絶対禿げないの」
「どういう理屈なん?」
たわいのない会話が心地良い。敢えて、ぎゅうっと胸を押しつけると、
「えらいクッションが効いとるなぁ」
とギンは空惚けた。
「乱菊」
「何よ」
「それ、冬獅郎はんは別として、ボク以外にやったらあかんよ」
惚けた後で、急に真面目な声音で告げられ、乱菊は戸惑った。
「当たり前じゃない」
ギンはよいしょ、とまた、乱菊を揺すり上げて体勢を整えた。
「伊勢さんが連絡くれへんかったら、乱菊、檜佐木くんか、射場はんに送られる羽目になっとったんやで」
「うん?」
乱菊がきょとんと首を傾げた気配に、ギンは心の中だけで、
(分かってへんなァ)
と溢した。
「乱菊」
いくらか声音を厳しくして、ギンは告げた。
「檜佐木くんと射場はんが信頼に足る男やいうんは、ボクも認める。けどなァ、男の酔った勢いちゅうのを舐めたらあかん。真面目で誠実な男が酔って箍が外れてしもて、取り返しのつかんことをしでかしたなんてことは、ざらにあることやで」
いつになく真摯な口調の説教に、
「…知ってる」
と、乱菊の反論も弱々しくなった。
「やったら、淋しいからて、正体失くすまで呑んだらあかんのも分かるな」
「…」
「何の間違いもなかったとしてもや。自分がおらへん時に、自分の女が酔い潰れて、他の男に送られて帰ったなんて、冬獅郎はんもええ気持ちせんと思うで」
ギンの言うことは尤もだった。けれど、彼に対する甘えが、素直に頷かせることを拒んだ。
「でも、今、ギンに送られているじゃない」
と乱菊は口答えした。
「そうや」
と、それにギンは肯定を返した。
「ボクが乱菊を連れて帰るんかて、冬獅郎はんにしてみたらやっぱり不愉快なはずやで。けど、乱菊にとってのボクは一般的な意味での男とは違う、いうん、冬獅郎はんは理解ってはるからな。不愉快でも、他の男よりは納得出来るいう面はあると、ボクは考えとるねん」
「…」
黙ってしまった乱菊に、
「何しろ、ボクは絢女以外には勃たへんし?」
とギンはいつものふざけた調子に戻した。
「ある意味、究極の安全牌」
「だから、そういうとんでもないことを、さらっと言わないの!」
乱菊もそれに乗っかって、今度は頭ではなく肩をぺしんと叩いた。
「暴力はんた〜い!」
緩いシュプレヒコールに、
「愛の鞭よ」
と乱菊は応じると、先ほど注意されたことも忘れて、ぎゅううっとギンにしがみついた。
全身に廻った気怠い酔いと、のんびりとしたギンの足取りから来る心地良い揺れに身を任せていた乱菊は、ギンが十番隊寮への道から逸れていることに、すぐには気付かなかった。
「ちょっと、ギン〜」
「ん〜?」
「この道、違うわよ」
「うん。分かっとる。五番隊に向こうとるんや」
ギンの返答に、
「へ?」
と乱菊は目を丸める。
「絢女がなぁ。心配やから自分の所に連れて来い、言うねん」
嗚呼、昔と一緒だ。乱菊は鼻の奥がつんとなった。こんなことくらいで泣きそうになってしまう自分が情けなくて、
「いいけど、もしかして、あんたも泊まる気じゃないでしょうね」
と出来るだけ嫌味っぽく言ってみた。
「そのつもりやけど?」
「えー、や〜よ。それじゃ、まるっきり、あたし、お邪魔虫じゃない」
「いや、どっちか言うと、ボクの方がお邪魔虫」
ギンが微笑ったのが分かった。
「久しぶりに乱菊と一緒に寝るんやて、絢女、楽しみにしとったもん。ボクは客間に追い出されるな」
「そ。だったら、女同士、まったり夜を過ごすから、あんた、帰ったら?」
わざとつんけんしているのは見透かされているのだろう。ギンは、
「そういういけずいう娘にはお仕置きや」
と言うなり、神輿を担ぐ時のように縦に大きく揺さぶり始めた。
「ぎゃあぁ!!」
乱菊はけたたましい悲鳴を上げた。
「ちょっとぉ、落ちる、落ちる!」
「参ったか!?」
「やめてってば、馬鹿狐!」
「反省してへんな」
「い〜や〜あ! 目が廻るぅ!!」
面白がって、更に揺さぶるギンに、
「吐く!」
と乱菊は叫んだ。
「吐いちゃう」
ギンの着物の襟を掴み、首筋から背中に向けて吐き戻すふりをすると、ギンは漸く、揺らすのを止めた。
「ちょお、乱菊。堪忍やで〜」
「酔っ払いを揺さぶったりするからよ」
ふふんと乱菊は勝ち誇った。
「いいじゃない。いっつも泊まってるんでしょ? 今日くらい絢女を渡しなさいよ」
「堪忍してや。せっかく絢女から、乱菊も泊まるんやったら、ボクも朝まで居ってええてお墨付き貰えたのに」
恨めしそうに乱菊を見遣れば、彼女は再び、目を丸めてギンを見返していた。
「…えっと…。いつも泊まってないの?」
心底不思議そうな問い掛けに、ギンは敢えてへたれた表情を浮かべてみせた。
「泊まっとるけど、朝まではおれへん。明け方には帰るんや」
「何でまた?」
「三番隊長と五番隊長が同伴出勤なんて外聞が悪いし、下に示しがつかん」
「 って絢女が主張するわけね」
と乱菊が引き取った。
「あんたとのことは、もう護廷中が知っているんだから、示しも何もないでしょうに」
「そいでも、あかんの」
「無駄に生真面目で、融通が利かないわよね、絢女って」
乱菊はくすっと笑った。
「で、あんたは絢女の主張を受け入れているんだ」
モラルなんて糞くらえ、という過去のギンの行状を慮れば、絢女の意見にすんなりと従っているのがいじましくさえ感じられる。それだけ、絢女のことが大切で特別なのだと、改めて納得してしまうと、乱菊は何だかギンが可愛いく思えた。
「しょーがないわね。特別のお慈悲をもって、今日は帰らなくてOK」
と宣言すれば、ギンは憮然とした顔つきを作って返した。
「おおきに、って御礼いうべきなん?」
ギンの背中で、乱菊はくすくすと笑っている。
その笑い声が心地よくて、ギンの気持ちは凪いだ。そのまま、五番隊舎に向かってゆったりと歩んでいると、不意に乱菊の重みが増した。
「ん?」
そっと首を巡らせて確認する。彼女は再び、気持ちよさそうに寝入ってしまっていた。
「ほんっま、手ェのかかる娘ォや」
言葉とは裏腹な柔らかな笑みがギンの頬に浮かんだ。五番隊隊長舎はもう目前だ。数十年ぶりに乱菊を背に、ギンは絢女が待つ隊長舎の門を潜った。
******************************************
5周年記念リクエスト小噺 その3
「ギンと乱菊の兄妹のような関係が窺える話」というYさまからのリクエストです。時間軸は叛乱の六年後。以前、キリリクで書いた「逢いたくて、会いたくて」の九ヶ月後くらいの想定の話になります。
兄妹のような関係というか、酔っぱらい乱菊姐さんと彼女を迎えに来た市丸兄さんが単にじゃれ合っているだけ、という説もありますが何か?
改めて思ったのですが、拙宅の日乱関係ってすっかり安定してますよねぇ。よそさまのように日雛、ギン乱絡みでもやもやしたり、ドロドロしたりがほぼ皆無。何か平和だなァと感じる今日この頃なのでした。