星祭りの夜


 とてとてと護廷の隊舎には不似合いな小さな子供の足音が執務室に近付いてきて、冬獅郎は頬を緩めた。日勤定時の就業時間はつい先ほど終わったところだ。
 執務室の前で足音はぴたりと止まり、直後、
「父さま!」
と扉の向こうから顔を覗かせたのは冬獅郎の愛娘たちだった。
「おしごと、おわった?」
「おう」
 冬獅郎は決裁した書類の束を、とんとんと揃えながら頷いた。娘たちの後ろから、
「隊長、お疲れさまです」
と午後から非番だった乱菊が副隊長の顔で冬獅郎を労った。
 本日は新暦だと八月十五日であるが、旧暦では七月七日に当たる。つまり、七夕である。伝統行事を熱心に執り行う護廷では、今宵も各隊が趣向を凝らせた七夕飾りを飾って競い合い、各隊の隊舎を巡る道筋には金魚すくい・風船釣り・烏賊焼きや焼き鳥などの出店が並んで、すっかり夏祭りの様相を呈している。冬獅郎の娘たちは七夕祭りが大好きで、毎年欠かさずに見物に来ていた。
「二人ともよく似合っているぞ」
 褒めて欲しそうな顔で父親を見つめる娘たちに、冬獅郎は期待通りの言葉をかけてやった。二人は今年新調したばかりの浴衣を纏っている。金魚の図柄だった去年の浴衣よりもちょっぴり大人びた花の意匠で、執務室に来るまでにも門衛の死神やら席官やらに随分と褒めて貰ったのだが、やっぱり父親からも称賛されたいらしい。
 絢乃と菊音の浴衣は色違いである。双子ではあるが二卵性の二人は、姉妹だとはっきり了解出来るくらいに顔立ちに共通項はあるものの、現世でたまに見かける一卵性双生児のようにそっくり瓜二つというわけではない。髪や眸の色合いが異なっているのが目立つ相違点だが、性格も違っているし、着るものの好みにもかなり差がある。この為、お揃いの衣類を着ることはあまりしないが、お祭りの浴衣はお揃いにしたかったようだ。柄を揃えて、色をそれぞれの好みに合わせて選んだのである。
 そんなわけで図柄は同じ朝顔散らしであるが、しっかり者で勝気な姉娘・絢乃の浴衣は甕覗き色の地に藍色の朝顔という子供の浴衣にしてはちょいと粋な色合わせだった。所々に挿し色で入っている赤味も蘇芳色というきっぱりとした色合いだ。帯は前と垂れ先に赤と黒の出目金と水草が刺繍してある鮮やかな浅葱色の兵児帯で、これもまた子供らしい図柄ながら、色彩の組み合わせには洒落気がある。
 彼女は乱菊譲りの金色の巻き毛が自慢で、ずっと母親を真似て髪を長くのばしていた。だが、先日、乱菊が副隊長に就任する以前、前隊長の下で上位席官を勤めていた頃の写真を見付けて、若き日の乱菊と同様に襟足が首にかかる長さにばっさりと切ってしまった。曰く、
「だって、かみがみじかい母さま、かっこよかったんだもん」
 ショートヘアでは髪を結えず、簪も挿せないが、代わりに伯父のギンに買って貰った硝子のモチーフ付きのヘアピンを耳の上に飾っているので不満はないらしい。紺青地に白い花が浮いているものと、露草色にごく小さな銀色の四角形が散りばめられたものと、どちらも丸い硝子飾りである。これを右耳のすぐ上に上下に並べて挿しているのだ。
 妹の菊音は甘えっ子で大人しい性格を反映してか、姉とは反対にはんなりと優しい色合いを選んだ。地色はやわらかな鳥の子色で、朝顔はといえば薄紅を中心に梅鼠、紅梅色、撫子色などで諧調を付けて染め上げられていた。合わせた兵児帯は京紫である。単色の麻帯だが立湧縞が織で表されているものだ。
 彼女は髪色も絢乃よりもずっと淡い。両親の髪色を混ぜ合わせたような、ごくごく薄色の金髪であった。髪質の方は父親の系統を受け継いだらしく直毛である。ただし、子供だからなのか、それとも伯母の絢女の髪質に似たのか、父親にはあるわずかなくせは見られず、ずっとしなやかで柔らかい。背中に掛かるくらいまで伸びたその髪を、普段は左右に振り分けて両耳の上で括っているのだが、今日は頭頂部に近い高い位置でいわゆるポニーテールと呼ばれる一つ結びにして、毛先をちょっとカールさせている。飾りの簪はこれもまた伯父のギンに買い与えられたもので、浴衣の色とよく似た薄紅と淡い桜色の小さめの花束に「藤下がり」と称される下がりものが揺れる意匠のつまみ細工である。可愛らしいが、母親の乱菊が付けても違和感がないくらい上品な仕上がりのその簪を、菊音はとても気に入っていた。
 それにしても、確かに柄は同じなのだが、色合いと合わせた帯が異なるとこうも印象が違うものかと、冬獅郎が感嘆して娘たちを眺めていると、
「あたしの浴衣にはご感想はないんですか?」
 乱菊がちょっと拗ねた顔で夫を見た。彼女の浴衣も今年新調した初下しなのだ。
 砂色の奥州紬を萩紋様が染め残るように藍染めした浴衣である。陰陽逆転した影絵のように染め残った萩紋部分には所々にあやめ色と黄檗きはだ色がぼかし入れられて挿し色となっている。帯は生成りに梅鼠色で大小の雪輪を散らした唐苧からむしの細帯。表裏使用できるリバシーブルの仕立てになっていて裏側はややくすんだ珊瑚色地に共濃色で霰が散った紋様である、この帯を乱菊は裏側が少し覗く割り角に結んでいた。冬獅郎好みの渋めで粋な装いである。
「おまえは何着ても似合うからな。その浴衣も色っぽくてそそられる」
と返してやれば、
「もう、子供の前で何をおっしゃるんですか」
と乱菊は軽く小突いて来た。だが、頬がうっすらと染まっており満更ではないらしい。この辺りが万年新婚夫婦と揶揄される所以なのだが、おそらく本人たちに自覚はない。ソファに並んで座って隊士が運んできてくれたサイダーを飲んでいる絢乃と菊音も慣れっこなので、平然としている。
「父さま、はやくきがえてきて」
 絢乃にせっつかれて、
「悪い、悪い」
と冬獅郎は腰を上げると、仮眠室で用意しておいた浴衣に着替えた。根岸色と呼ばれる黄緑がかった暗灰色に吉原繋ぎ紋を浮かび上がらせた奥州紬の浴衣である。利休鼠地に銀糸で波間に跳ねる伊勢海老紋様を織り出した角帯を一文字結びにして、執務室に出た途端、母娘揃って、
「父さま、かっこいい!」
と大向こうからの掛け声よろしく声がかかったのは、最早様式美だな、と冬獅郎は思った。

 まずは隊舎の表に出て、乱菊が指揮を執って飾り付けをした自隊の七夕飾りを見物する。今年の十番隊は現世の「仙台七夕」を主眼に据えている。隊舎の前庭の中心に竹を組んで作った太い柱を据え、柱のてっぺんから隊舎や塀へ向かって竹竿を張り巡らせた。そして、その竹竿に仙台七夕に付きものの大きな吹き流しをいくつも吊り下げたのである。柱の竹組みには笹の小枝が無数に差し込まれ、こちらには巾着・折鶴・投網・着物・屑籠・小さな吹き流しに短冊といった現世仙台七夕では伝統とされる飾り物が吊り下げられている。
 四人で笹飾りを眺めていると、本日は夜勤である席官の志藤と竹添が歩み寄って来た。
「これから七夕見物ですか?」
「おう。おまえたちは夜勤だったな? 祭りで浮かれていて落ち着かないだろうが、頑張れよ」
と冬獅郎が応える。笑って頷いた二人に、
「おしごとなの?」
「おまつりなのに?」
と眉を曇らせたのは双子たちだ。せっかくの祭りなのに仕事で出掛けられないという境遇は、双子たちの同情心を大いに煽ったらしい。
「お祭りの日でも隊舎に誰もいないと困るからね」
「虚はお祭りの日でも待ってくれないしね」
 志藤と竹添はしゃがみ込んで、悲しそうな顔をしている絢乃と菊音に目の高さを合わせた。
「大丈夫だよ、今年のお祭りには行けないけど、去年も、その前もお祭りに行ったんだから」
「そうそう、来年だってお祭りはあるから、行けるよ」
と子供たちの頭を撫でてやる。
「絢乃ちゃんと菊音ちゃんは、俺たちのことは気にせずにうんと楽しんでおいで」
 志藤の言葉に、双子たちはうん、と揃って大きく頷いた。その後、
「おしごと、がんばってね」
と絢乃が竹添の、菊音が志藤のほっぺたにちゅっと軽く接吻キスをした。二人にしてみれば、いつも両親にしてやっている元気の出るおまじないに過ぎないのだが、竹添と志藤は見事に目を丸くして固まった。
 ややあって、
「や、ありがとう。すっごく元気が出たよ」
と先に我に返った志藤が再び菊音の頭を撫でた。
「うん、どんな強いホロウが出ても余裕でやっつけられそうだ」
 竹添も頭を掻きながら体を起こす。何とも複雑そうな表情を浮かべている私服姿の上司たちの視線に気付いて、志藤と竹添はにやにやと人の悪い笑みを浮かべた。
「今からこれじゃ、先が思いやられますね〜」
「見事にご両親の天然誑しの素質を受け継いでおいでで」
「いやぁ、しばらく、顔を洗えないですよ」
という二人の言葉に、
「馬鹿なことを言ってないで、さっさと仕事に戻れ」
 冬獅郎は先ほどとは打って変わって、不機嫌そうな低音で命じた。
「は、過分な励ましをいただきましたし、鋭意、務めさせて頂きます」
 志藤が大仰に敬礼をして返した。そのふざけた返答にもう怒る気力さえ萎えて、冬獅郎は溜息をひとつ零すと、
「おい、行くぞ」
と娘たちを促した。絢乃と菊音は、
「はぁい」
とよいお返事の後、
「しどうさん、竹ぞえさん、またね!」
「おしごと、がんばってね!」
と夜勤組に手を振って、隊舎を出て行った。

 隊舎を出ると、道沿いには出店がずらりと並んでいて、絢乃と菊音は気分を高揚させた。冬獅郎を迎えに行く際にも、出店は見ていたのだが、まだ日も明るさを残していたし、準備中の店も多かったのだ。
「父さま、きく、ふうせんがほしい!」
 菊音が強請れば、絢乃も、
「あー、わたしも〜」
と負けじと主張した。何故か、乱菊までが、
「子供たちばっかりずるいです〜。ねぇ、あたしも〜」
と甘えて来て、すっかり顔馴染の水風船釣りの出店の親父がにやにやと、
「隊長さんみたいな色男はつらいねぇ」
と風船釣り用の釣り具を差し出して来た。
「菊音、どの風船が欲しいんだ?」
「んーとね、あれ」
 菊音が示したのは薄い桜色の大きな風船の中に水玉模様の紅い風船が入っている親子風船と呼ばれるものだった。風船が二重になっている分だけ重く、難度が高い。風船さえ優しい色合いを好む妹娘に、知らず、冬獅郎の表情も緩んでいた。
 冬獅郎は釣り具を受け取ると、じっと菊音所望の風船を見つめた。釣り具はW字型の金具の山部分に紙縒こよりが結ばれたものである。紙縒りを持ち、風船の口に取り付けられた輪ゴムをW字カギで引っ掛けて水風船を釣るという単純な仕掛けの遊びだ。だが、風船の口はおおむね水槽の下部に沈められており、輪ゴムを引っかける為にはW字カギを水に沈めねばならない。そうすると紙縒りも水でふやけてしまい、風船の重みに耐えられずに切れて失敗するというところにゲーム性がある。冬獅郎は氷雪系最強の氷輪丸の主で、すべての水を従わせることが出来るから、その気になれば労せず風船を手に入れることが可能だ。だが、こういった祭りの出店で霊力を使ってズルをするのは野暮なことだと、重々に承知している。ここは己の身体能力だけで風船を釣り上げて、父親の威厳を示さなければならない。
 水面はゆらゆらと揺れており、風船もゆっくりと動いている。その動きに伴って輪ゴムが水面近くに浮上してきた時がチャンスだ。
 冬獅郎の目が鋭く光り、電光石火で利き腕が動いた、と思う間もなく、風船は見事に釣り上げられていた。
 どよめきに振り返ると、いつの間にやら、相当数の見物客が取り囲んでいた。見物客たちから、冬獅郎の早業に対してぱちぱちと称賛の拍手が沸き起こった。護廷の七夕祭りなのでどうしても死神が大勢を占めてはいるが、一般にも開放しているので、死神の家族はむろん、護廷と関わりのない瀞霊廷の住人も相当数が訪れて祭りを楽しんでいる。そして、死神にとっては見慣れた十番隊主従でも、家族や一般人にとってはそうではないのだ。なかなか見掛けない金銀の髪をした一際美男美女の夫婦がやはり珍しい髪色をしたしごく愛らしい娘を連れて歩いていれば、注目を集めるのはいわば必然というものである。
 それに、実を言うと、この七夕祭りの出店では風船釣りにしろ、金魚すくいにしろ、難度が高く設定されている。何しろ、瀞霊廷の集落や流魂街で催される一般の祭りと異なり、身体能力に秀でた死神たちが客となる確率が高い。この為、通常仕様では、出店の親父たちは赤字になってしまうのである。風船釣りの場合、紙縒りの縒り方で難易度を調整するのだが、護廷七夕祭りで使用される紙縒りはものすごく縒りが甘くなっている。この為、一般人や死神の家族の子供などが挑戦した場合は、ほぼ失敗するのだ。どうあっても風船を釣れなかった一般人にしてみれば、冬獅郎の動きはさすがに護廷隊長だと感嘆に値するものに見えていた。
「父さま、ありがとう」
 満面の笑みで菊音は風船を受け取り、今度は絢乃が、
「わたしはあれがいいな」
と別の風船を指差した。菊音同様に親子風船で、透明に青の絞り模様の風船の中に薄緑に濃い緑の絞り模様の風船が入ったものだ。
「りょーかい、お嬢さま」
 冬獅郎はおどけて、新たな釣り具を受け取った。今度は一度、失敗した。ゴムの浮上が甘く、紙縒りが予測よりも水に濡れてしまったのだ。だが、そこは天下の十番隊隊長である。二度目はがっちり成功させて、絢乃の手には無事に絞り模様の親子風船が渡ったのだった。
「で、奥さんはどれにする?」
 冬獅郎は最後に残った乱菊に笑みを向けた。
「あたしはあれ」
と乱菊が指差したのは緑に白で花びらとも雪とも取れる暈けた水玉模様が入った風船だった。娘たちと違って普通の風船だから難易度はぐっと下がる。造作もなく目当ての風船を釣り上げた冬獅郎はそれを乱菊に渡すと、親父に料金を支払って立ち上がった。
「毎度、ありがとうございます」
 大声で親父が礼を述べる。十番隊の隊長一家が風船釣りに挑戦してくれたおかげで、かなりの客が集まった。先ほどあえなく失敗した子供たちも、死神である父親や母親に取ってくれと強請ったりし始めている。人目さえなければ、お代は負けてもいいくらいの広告効果だが、高給取りの隊長には出店の風船釣りの代金くらいどうということもないだろう。

 ぶらぶらと四人は隣の十一番隊に向かった。七夕などという雅な行事には無縁そうな十一番隊であるが、隊員全員の溺愛を一身に受ける副隊長のやちるを喜ばせようと、意外なことに、毎年、ちゃんと飾り物を飾って祭りに参加の姿勢を見せている。他隊に比べると飾り物の出来は荒いし、短冊に書かれた願い事といえば、「目標、虚百殺」だの「今年こそ、千人斬り達成」だのというある意味十一番隊らしい殺伐としたものばかりだが、荒くれ男どもが短冊を飾って喜んでいるさまが現世風に言えば「ギャップ萌え」だとかで、案外と若い女性たちの人気を集めていたりする。
 門番に挨拶して十一番隊舎に入ると、質より大きさで勝負とばかりにやたらと巨大に作られた笹飾りがまず目に入った。笹飾りの真下には縁台が据えられており、やちるが腰かけて飾りを嬉しそうに見上げていた。
「やちる!」
「やちる姉さま!」
 乱菊と絢乃たちに声を掛けられて、やちるはぱっと花が咲いたような笑顔を向けた。
 霊力のある子供の平均からすると二倍近いゆっくりとした成長を遂げてきたやちるとごく平均的な成長を辿っている双子たちとは見た目の年齢差はずいぶんと縮まっていた。双子が産まれた当初、現世の人間換算で十歳程度の外見だったやちるは現在、十二歳前後といったところだ。一方、双子たちは六、七歳相当くらいに成長している。やちるの成長速度が従来通りなら、いずれ外見年齢は逆転すること必至だったのだが、十五年ほど前に初潮を迎えたのを機に、彼女の成長はどうやら平均並みに早まっている様子なのだ。この為、やちるが霊力のピークを迎える二十代半ばの見かけに達するまでは、現在の年齢差を保って推移しそうな塩梅であった。
 年齢が上がった分、以前よりかは幾分落ち着いた感があるやちるだが、相変わらず傍若無人な餓鬼大将気質は健在である。だから、彼女がおとなしく縁台に座っているのが、乱菊らには意外だった。
「どうしたの、やちる?」
 心配そうに眉を顰めた乱菊に、双子たちと冬獅郎には聞こえないように、
「女の子の日」
とやちるは答えた。彼女は生理がやや重いようで、やけにおとなしいと感じる日はほぼ間違いなく月のものの最中なのである。
「あら、それは残念だったわね」
「うん、でも、みんなが貢物を持って来てくれるからいいんだ」
とやちるは桃色の頭を揺らした。彼女の傍らには烏賊焼きやソース焼きそばを詰めたパックや、鈴カステラや焼餅の紙袋、ビニール袋に詰め込まれた林檎飴や綿菓子などの食べ物が堆く積み上がっており、足元には彼女が食べ散らした残骸が山をなしている。生理中であろうと食欲魔人ぶりは衰えていないらしい。
「あーや、きぃちゃん、鈴カステラ食べる?」
 大量の隊員たちの貢物の中から、双子たちが好みそうな鈴カステラの袋を選び出し、やちるは絢乃と菊音に与えた。普段が子ども扱いされているだけに、双子から「やちる姉さま」と慕われているのが嬉しいようで、やちるは二人の前だと妙に大人ぶる。
「ありがとう、やちる姉さま」
 気を利かせた十一番隊の隊員の一人が追加で縁台を運んできたので、双子たちはそこに腰かけて、嬉しそうに鈴カステラに手を伸ばした。
「うずまき〜、あーやときぃちゃんに麦茶!」
「はい、ただ今」
「ひっつーとらんちゃんにはビールだよ!!」
「はい、副隊長」
 幼いやちるに顎でこき使われているが、十一番隊士たちは皆、嬉しそうだ。
「草鹿、焼きそば貰ってもいいか?」
 彼女が大人ぶっている今がチャンスと冬獅郎が問えば、
「しょうがないなぁ。今日は特別だからねっ!」
とやちるはしぶしぶと焼きそばのパックを差し出した。
「やちる。あたしは焼き鳥がいいな」
 乱菊も普段、菓子類を強奪されている意趣返しとばかりに強請る。
「もう、らんちゃんまで〜」
 唇をちょっとへの字に結んで拗ねた表情を作ったが、やちるはあっさりと焼き鳥が詰まったパックを乱菊に差し出した。双子たちにケチだと思われたくはなかったし、何より貢物はまだまだたっぷりとあるのだ。
 うずまきと呼ばれていた隊員が冷えた麦茶の入ったコップと缶ビール、やちるの為のラムネの壜を運んできた。
「もうっ、あーやときぃちゃんの分のラムネは!?」
 自分で「麦茶」と命じておきながら、ラムネ瓶を見た途端に双子たちにも持って来ないのは気が利かないと文句をつけるやちるに、
「はい、すぐにお持ちします!」
とうずまきは直立不動で返した。ともあれ、運んできた麦茶を絢乃と菊音に渡すと、
「むぎちゃ、ありがとう」
「おいしいよ」
と二人からにっこり笑って礼を述べられて、うずまきはだらしなく相好を崩した。六、七歳ばかりの幼女とはいえども、何しろ美貌には折り紙つきの冬獅郎・乱菊夫婦の娘である。「ヴァストローデ級破壊力の愛らしさ」というのは専ら死神の間で囁かれている噂だ。
 一頻り、十一番隊員たちの貢物とビールで酒盛りをした冬獅郎たちだったが、やちるが大あくびをしたのを機に十一番隊を辞した。何だかんだいってまだ子供のやちるは夜も早いのだ。一方、双子たちの方は祭りに備えてたっぷりと昼寝をしていたので、まだまだ眠くはないらしい。元気いっぱいにはしゃいでいる。

 金魚掬いを冷やかしたり、各隊の隊舎で飴玉や駄菓子を貰ったり、双子たちの七夕はきらきらと輝いている。十一番隊から九番隊までぐるりと見てまわって、途中で会った従兄妹たちと射的に興じたりもした。伯父からは出店で可愛らしいビーズの髪飾りも買って貰った。
「まいにち、おまつりだったらいいのにね」
 子供らしい願いに、乱菊と冬獅郎は顔を見合わせて微笑む。
「たまにだから、楽しいのよ」
「毎日、お祭りだったら、全然特別じゃないだろう?」
 普段はしない出店の焼きそばやたこ焼きの夕飯も、夜ふかしも、お祭りという特別の日だからこそ楽しいのだと、子供たちもいつか理解するだろう。はしゃぎ過ぎてうとうとし始めた娘たちを一人ずつ抱きかかえて、冬獅郎と乱菊は天の川の輝く夜道を仲良く歩くのだった。

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 7周年記念リクエスト小噺 その1

 7周年記念フリーリクエストより「夏祭り。日番谷親子が綺麗なので、周りの人たちに注目を集める話」ですが、注目を集めたのって風船釣りの時だけじゃないのか? とお約束のセルフ突っ込み炸裂の管理人なのでした。
 時間軸は叛乱から80年とちょっと。原作の瀞霊廷は滅却師の皆さまに蹂躙されてひっちゃかめっちゃかですが、拙宅仕様の瀞霊廷は呑気なもんです。バトルが書けない管理人なので、勢い呑気にならざるを得ないというのが真実だったりします。
 くどいまでの着物描写や小物描写(でもご訪問者のみなさまには好評)を書き込むスキルの半分でもバトルが書けたらなぁと思います。
 日番谷一家の注目度に若干の難がありますが、リクエスターのまいさまに捧げます。気に入って頂けたら幸いです。

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2017.07.01