京楽隊長のお仕事


 着替えの夜着を取り出そうと、箪笥の取っ手に手を掛けたところで、
「寝間着ならこれを使え」
と、ぽいっと箱を投げ渡された。
 両掌と同じほどの大きさの丸い、艶のある黒の化粧箱。
 その箱に見覚えがあって、乱菊は首を傾げた。
「これって、京楽隊長のお土産じゃないですか?」
「そうだ」
「…寝間着って…?」
 京楽春水は数年に一度、五日から長い時には十日ほどの纏まった休みを取って、現世に遊びに出掛ける。行き先も目的もその時ごとにまちまちで、オーストラリアの珊瑚礁でダイビング三昧の休暇だったこともあるし、東南アジアの古い遺跡を経巡ったこともあるようだ。今年はその大型休暇取得の年に当たっていたらしく、数日間不在にしており、本日の朝一番で開催された隊長格会議で以って、隊務に復帰した。
 その際、彼は隊長格全員に現世の土産を渡していた。どうやら、今年は伊太利亜イタリアはヴェネツィアの都に出掛けていたらしい。七緒は分厚い美術館の図録を渡されて機嫌が良さげであった。乱菊は美しい金彩が施されたヴェネツィアングラスの酒器を貰った。徳利に近い形だが硝子の蓋が付いており、伊太利亜ではこれにグラッパと呼ばれる葡萄の蒸留酒を入れて飲むのだそうだ。むろん、男性陣にも土産はあった。ほとんどの者は箱の形状からして酒    グラッパか葡萄酒であろう    と見受けられるものを受け取っていたが、冬獅郎を含めて数人に対しては丸くて黒い化粧箱が渡されているのを、乱菊は見ていた。
 中身が気になって幾度か冬獅郎に開けてみるように促したものの、その度に誤魔化されてしまった。それなのに、今、ここに来て、冬獅郎は箱の中身は寝間着だと言い出した。しかも、乱菊に「使え」と告げたところからすると、女性用なのだろう。
「…意味がわからないんですけど?」
「一応、京楽からは女性用の下着と寝間着のセットだと聞いた」
「はぁ?」
「なんか…、伊太利亜の女性の『勝負ナイティ』だとか言っていたな」
    
 春水が言うところの『勝負ナイティ』なんて、碌でもないような気がしてならない。そんな乱菊の危惧をよそに、
「わざわざ、俺に女物の寝間着を渡したっていうことは、おまえが着たのを見て、俺が喜ぶような代物なんだろう。ちょっと興味が湧いたんで、着てみろ」
と冬獅郎はしゃあしゃあと言ってのけた。
「中…、見ていらっしゃらないんですか?」
「見てねぇけど」
「この箱、異様に軽いんですけど」
「うん、まぁ、そういうことなんだろうな」
 この小さくて軽い箱に下着と寝間着が入っているということは、かなり薄くて軽い生地が使用されているということだ。
 日番谷冬獅郎という男は、清廉にして潔癖。姉の絢女ほどではないが生真面目な実直者で通っているのだが、どうも、乱菊相手に限っては、京楽春水が乗り移ったのかと紛うエロ親父的言動を垣間見せることがある。今も表情は真面目くさっているのだが、眸の奥にどこか楽しげな色彩が揺らいでいる。どうやら、春水が冬獅郎に降臨したらしい。
 乱菊は小さく溜息をついた。
 エロ親父モードにスイッチが入ってしまった冬獅郎を拒絶するのは困難だ。意地を通せば、拒否出来なくもないのだが、乱菊にも惚れた弱味というものがある。それに、彼女自身、水着や現世に遊びに行く際に身に着ける洋服類は露出の多めなセクシーなものを好む傾向がある為、その点を指摘されるとまずい。
 諦めて、乱菊は箱を手にしたまま、湯殿へ向かった。
 一体、どのような品が入っているのかと不安に苛まれながら。

 乱菊には中は見ていないと言ったが、実は冬獅郎はちゃんと中身を検めていた。
 春水から箱を受け取った時、
「乱菊ちゃんがいない場所、出来れば一人っきりの時に開けた方がいいよ」
と囁かれたからだ。いかにも怪しいではないか。
 冬獅郎が観察したところ、彼と同様の箱を渡された男が他に数名いた。三番隊は主従とも。六番隊・阿散井恋次に、冬獅郎、十三番隊の浮竹十四郎という面子は一見脈絡がない組合せに見えて、実は全員彼女持ちという共通項が存在していた。それに加えて、春水の思わせぶりな台詞とくれば、おのずと察せられるものがある。言葉にして約定を交わしたわけではないが、牡の本能による無言の連帯感が働いた。見交わす目と目で雄弁に会話した結果、隊長格会議終了後、彼等は自然と三番隊に結集したのだった。ちなみに何故三番隊かというと、正副隊長とも怪しげな箱を土産に貰っていたので、三番隊執務室ならば人目を気にする必要なしという理由である。
「どう思わはります?」
 一応、春水の親友と名の付く十四郎に見解を振ったのはギンだ。
「うん、京楽だしなぁ。間違いなくいかがわしい系だと思うよ」
と十四郎は応じた。
「…まさか、現世の『大人の玩具』とやらじゃ…」
 バイブとか、ローターとか、手錠とかと現世で得た中途半端な知識を思い浮かべ、表面は眉を顰めながら、恋次はどこか期待した面持ちだ。そんな彼を、
「この軽さで、それはないと思うよ」
とイヅルがあっさりと一蹴した。
「や、まぁ、そりゃそうだ」
 へどもどする恋次を尻目に、
「開けてみれば分かる」
と真っ先に蓋に手を掛けたのは冬獅郎である。それでも、封に使用されたテープを殊更丁寧に剥したのは、洒落にならないくらいいかがわしいものだった場合、見ていないと主張する心積もりがあったからだ。彼が蓋を開けた直後、ほんの数秒遅れでギンが蓋を開け、冬獅郎よりも素早く中身を引っ張り出した。
「これは…」
「女もののセクシー寝間着。ネグリジェとかいうやつみたいですわ」
 ギンは中身を広げて、皆に見えるように掲げて見せた。
 エンボス加工で小花を散らしたシルクジョーゼット素材で、色は淡い紫。ワンピースタイプで、丈は膝下くらいであろうか。身頃にはドレープがとってあり、ふんわりと揺れるデザインになっている。袖も肩から手首に向かってたっぷりと布地を取った形状である。腕を上げると蝶が羽を広げたように見える為、バタフライウィングと称されるものだ。デザイン自体は絢女が好みそうな寝間着ではある。生地が蝉の翅を思わせるほどに、透け透けでさえなければ。
「ああ、揃いの下着も入っとった」
とギンが続いて取り出したのは、極端に布地の部分が少ないショーツだった。これはGストリングと呼ばれる前部がV字型のセクシー下着で、前部と背面を繋ぐ側面は四分幅ほどの繊細なレースのテープが使用されていた。布地部分はネグリジェと同素材。つまり透け透けである。着用した場合、間違いなく下の繁りはくっきりと見えるだろう。
「…それ…、まさか姉さまに着せる気じゃねぇだろうな?」
「見せた時点で張り倒される、思うわ。下手したら、しばらく口きいて貰えへんかもしれへん」
 潔癖な絢女ならありそうだ。その言葉で、ギンは絢女に着用させるつもりはないらしいとほっとしたのも束の間、
「まぁ、誕生日なら、お願いすれば着て貰えるかもしれへんし? ボクの誕生日まで大事に取っておくことにするわ」
 さらりと爆弾を投下された。唖然とした冬獅郎を尻目に、
「冬獅郎はんのはどないな具合?」
とギンは勝手に箱から中身を取り出していた。
「…ネグリジェいうより…」
「ベリーダンス衣装だな」
 冬獅郎の箱に納まっていたものは上下が別れたセパレートタイプのナイティだった。丈の短い上衣とハーレムパンツと称される裾を絞ったズボンから構成されている。上下とも青系統に紫を挿し色で暈した薔薇の総花柄模様の生地で、ズボンの腰回りと絞った踝部分だけ黒のストレッチ素材の幅広レースが用いられていた。上衣は胸下までしか丈がなく、前は着物のように打ち合わせたカシュクール仕立てである。二の腕あたりまではややぴったりしていて肘から先が布地が広がるラッパ袖で、腰部は完全に露出する。デザイン的にはベリーダンス衣装以外の何ものにも見えないが、生地の透け方はやはり蝉の翅なのでダンス衣装として使用するのは絶対に無理だ。下着はロイヤルブルーの無地のTバッグ。色が濃い分、透け感は抑えられているが布地の分量は限りなくゼロに近い。
「で、冬獅郎はんは使うん?」
 ギンの問いに、
「誕生日にな」
と冬獅郎は微妙な表情を浮かべつつ、口調は投げ遣りに応じた。
 恋次とイヅルの箱には丈の短い、ベビードールと呼ばれる胸下で切替のあるネグリジェが納められていた。無論、イヅルのものは桃が使用するのを想定してあるようで、可愛らしいピンクのパフスリーブタイプである。下着もギンや冬獅郎の箱に入っていたものよりも布地の面積が広い総レースのローライズ・ショーツだった。一方、恋次のものは袖なしのオフホワイト生地である。前身頃部分だけが生地が二重になっており、上側の生地は暖簾のように前中心で左右に分かれている。肩紐、切替部、胸の上部、及び裾周りには黒のフリル状のテープがあしらわれており、イヅルのものとは色違いの黒の総レースのショーツがセットになっていた。形状はあくまでも甘く、可愛らしく、桃やルキアに似合いそうなのだが、いかんせん生地が極限まで薄いのが難である。イヅルはこのような下着や寝間着を桃が身に着けてくれる日は来るのだろうかと黄昏れ、恋次は恋次で千本桜の餌食になる未来を想像したのか、どんよりと昏い目付きになっていた。
 ただ一人元気なのは十四郎だ。彼の場合、恋仲である烈にはセクシー下着を悪ノリで着用しそうな一面がある。それ故、次の逢瀬には春水土産のセクシーナイティを着につけた烈としっぽりする計画が、すでに脳内で成立しているのだ。因みに十四郎が貰ったナイティがエロ度は一番高いというのが全員の共通見解だった。寝間着ではなく完全に下着と判断せざるを得ない超透け透けのブラックレースのミニ丈スリップドレス。同素材のばっちり透けるレースのTバック・ショーツ。さらに、ブラックサテンのバスローブもセットになっていた。バスローブだけは透けない素材だが、太腿が露わになるミニ丈で襟の合わせも深いV字になっている為、スリップドレスの上から着用した場合、却っていやらしさが増すように感じられた。
「…よくまぁ、しかし。恥ずかしげもなくこれだけ買って来たな」
 呆れたように冬獅郎が呟いた。
「んで、どないするん?」
 にんまりと笑って、ギンはイヅルを見た。
「仕方がないので持ち帰って、箪笥の奥深くに隠します」
「せやね。いつか、晴れてそれを使える日まで大事に取っておくとええよ」
 恋次も無言でベビードールを元通りに箱に戻した。がさつで大雑把な彼にしては珍しく、丁寧に畳んでいるのは、ルキアに着用させることを諦めきれないからだろう。一時の快楽を取るか、千本桜回避を取るか、葛藤しているに違いない。
 こうして、男の浪漫をめいめい黒い化粧箱に詰め直して、彼等はひっそりと解散したのだった。

 湯殿の脱衣場で乱菊はおそるおそる箱を開けてみた。
「これ…ズボンね」
 箱の一番上に納められていたのはパジャマのズボンだった。たっぷりと布を使ってあるので幅広だが、踝のところで絞ってある。ハーレムパンツという名称の知識はあった。
「薄っ!」
 試しに掌をズボンに入れてみたが、外からくっきりと手指の形が認められるくらいの透け感だ。
「で、こっちが上着…。ずいぶん丈が短いわね」
 一番底からTバックのショーツを取り出して、
「あたしのビキニよりも小さいかも」
と乱菊は思った。
(水着は露出しすぎだってがみがみいうくせに…)
 尤も、乱菊だって分かっている。露出が激しい格好が問題なのではなく、その姿で人前に出ることが冬獅郎を怒らせていることを。例えば、二人きりのプライベートビーチでというのなら、彼はどんな過激な水着だろうと許すだろう。むしろ、もっと露出しろと言い出すかもしれない。
 乱菊は息を一つ吐くと、まずは入浴を済ませることにした。春水土産の寝間着の件は後回しだ。
 気に入って使っている薔薇の香りの入浴剤を溶かした湯船で、乱菊の意識は否応なしに先ほどの寝間着に向かっていた。あれは、身に着けても身体を隠すには、まるきり役に立たない。花柄がプリントされているから、全部丸見えというわけではないだろうが、それでも相当に透けるのは先ほどズボンの生地に掌を当ててみてよく分かった。
「ブラ…、付いていなかったわね」
 ショーツはついていたが、洋装の時には必ず身に着けるブラジャーがなかった。ということは上衣は素肌にそのまま着用するということだ。普段使用している湯帷子の夜着も素肌に直接纏っている点は同じではある。しかし、生地が全く異なる。湯帷子は平織りの綿生地でほとんど透けやしないのだ。だが、あのナイティなら乳房の形も丸分かりだし、下手したら乳暈まで透けて見えるかもしれない。洋装の場合、露出が多かったり、身体の線に沿ったデザインであったりとセクシー路線を好んで着ることが多い乱菊であるが、彼女の意識においては隠すべきところはしっかりと隠しているという思いがある。零れそう、見えそうと揶揄されることが多い死覇装の着付けにしたって、傍からはどんなに見えそうに感じたとしても最後の砦である乳首とその周りの乳輪だけは絶対に見えないように死守しているのだ。
(でも、あれは…)
 隠すべきところが隠せていない。無論、外を出歩くわけではなく、それを見るのは冬獅郎だけだ。 
 しかし。
(ううっ! 恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい!!)
 ぶんぶんと湯船の中で頭を振った乱菊は、一人で百面相をしている自覚がなかった。
 湯から出たら、あの夜着を身に着けなければならない。そう考えるといたたまれず、知らず、いつもよりも長風呂になってしまった。さすがにのぼせそうになって、乱菊はようやっと風呂から上がった。長く湯に浸かっていたせいで桜色に上気している身体を手拭いで拭き上げ、水気を拭った髪をざっと纏めてヘアクリップで留める。それから、改めて冬獅郎に渡された伊太利亜土産に向かいあった。意を決し、乱菊はショーツを取り上げた。ショーツは現世で俗に言うところの「紐パン」で、蝶々の翅のように中心部がくびれたX型の布の端に細い紐がそれぞれ縫い付けられていて、その紐を腰の左右で結んで着用する形式だった。とりあえず、左右を緩めに仮結びして、普通のショーツを穿くようにして身に着けた後、腰の位置に合わせて紐を結び直した。
(はみ出してる…)
 布地の面積があまりに狭く、金色の下生えが僅かにはみ出しているのを認め、乱菊は眉を顰めた。丁寧にはみ出している部分を布の内部に押し込めてから、彼女はパジャマのズボンを手に取った。
(足、丸分かりなんですけどっ!)
 薄々の花柄の布地越しに、乱菊の脚線がはっきりと見て取れた。
 何度めか分からない溜息と共に上衣を手に取る。上着はカシュクール仕立ての打ち合わせの下部をスナップ留めするようになっていた。両袖を通して前を留めてから鏡に向き合う。
(うわぁ…。やっぱり丸見えだわ!)
 ドレープのある前布の薔薇の花模様の向こうに乳輪がはっきりと見える。また、布が薄いだけに乳首がつんと突起になって存在を主張していた。
(やだ、どうしよう)
 乱菊は文字通り頭を抱えて蹲った。
 恥ずかしい。セクシーな服は恥ずかしくなくても、これはとてつもなく恥ずかしい。
(隊長の馬鹿! エロ餓鬼! どスケベ!)
と心の中で思いっきり悪態をついてから顔を上げると、耳まで真っ赤に染まった鏡の中の己と目が合った。
(こんな顔で隊長の前に行ったら、思う壺…)
 どうも冬獅郎は乱菊が見た目とは裏腹な初心な反応を示すことに愉悦を覚える傾向がある。乱菊が恥ずかしがると、余計に昂って意地悪な言葉を吐いたりして彼女を追い詰め楽しんでいるのだ。エロ親父モードも乱菊限定だが、ドS攻めも彼女限定で発動するきらいがある。だから、恥ずかしがったり、今みたいな真っ赤な顔で出て行ったりしたら、絶対に彼のS心に火を点けてしまう。それは避けたい。
(平常心、平常心)
 乱菊はぴたぴたと両頬を軽く叩いて、自らの心を落ち着けようとした。
(透けるくらい何よ。隊長にはもう全部見せているじゃない。今更、何が恥ずかしいっていうのよ)
と己に言い聞かせる。
 いっそ開き直って、中近東の音楽でも鳴らして踊りながら登場してやろうか。乱菊はふと考えついた。これなら、冬獅郎の意表を突けるような気がした。
 彼女は足音を潜め、霊圧を押さえて湯殿を出た。冬獅郎の私室にはポータブルのCD再生装置と現世で入手してきた主にクラシックとポップスのCDがある。冬獅郎に気取られないように、文机に据えられている小さな照明だけを頼りに彼女はCDを漁った。
(えっと、中近東、中近東…)
 ケテルビーの「ペルシャの市場にて」、ハチャトゥリアンの「剣の舞」、リムスキー・コルサコフの「シェヘラザード」。本当はもっとベリーダンスに相応しい、中東っぽい官能的なダンス・ミュージックが良かったのだが冬獅郎の手持ちのCDから選択する以上、そのようなものは望むべくもなかったし、あまりゆっくりと曲を吟味もしていられない。
 思案の末に乱菊が手に取ったのはハチャトゥリアンの「剣の舞」だった。一番激しい曲調だったので、冬獅郎の度肝を抜けそうな気がしたのだ。彼女はポータブルCD再生機にCDをセットすると、更に閃いた。
(そうだ、「剣の舞」なんだから、灰猫を持って踊ってやろう)
 灰猫は寝室の刀架けにある。音楽を掛けたら、スパンと襖を開いて飛び込んで、灰猫を取って、と段取りを頭に浮かべ、乱菊はにんまりと笑った。今頃、きっといやらしい想像をしながら乱菊を待っているに違いない冬獅郎に、いい意趣返しが出来そうだ。
 彼女は押さえていた霊圧を戻すと寝室に向かった。襖の前に立った彼女に、室内から、
「遅かったな」
という冬獅郎の声が掛かった。その声音に彼女のたくらみに気が付いている節はない。
(ようし、ミュージック・スタート!)
 乱菊はCD再生機を廊下に置くと、再生ボタンをぽちっと押した。途端に、

    チャチャチャチャチャチャチャ、
     チャラッラ、チャラッララ、チャララチャッチャーン

 木琴と吹奏楽の軽快な音色が廊下に響いた。
 イメージトレーニング通りに、パンッと勢いよく襖を開くと唖然として口を半開きにした冬獅郎がいた。
(やった!)
 彼女は素早く移動すると刀架けから灰猫を取り、鞘を払った。

    チャチャチャチャチャチャチャ、
     チャラッラ、チャラッララ、チャラッラ、チャラッララ、チャララチャッチャーン

 ベリーダンスっぽく見えるように、殊更、大きく腰を振り動かしながら、白刃を煌めかせつつ舞い踊る乱菊を、冬獅郎は目を丸くしてぽかんと眺めている。狭い室内で太刀を振り回しているにもかかわらず、乱菊の動きには全く危なげがない。

    チャンチャンチャンチャンチャン、トゥララ、トゥララ、
     チャンチャンチャンチャンチャン、トゥララ、トゥララ、
      チャンチャンチャン、トゥラー、トゥラー

 手首のスナップを利かせて、灰猫の剣先を蜜蜂のダンスのように8の字を描いて動かし、くるりと廻って、冬獅郎に背面を見せるや尻を突き出す。衣装が透け透けなことも、ショーツが布地の少ないTバッグであることも、最早、乱菊の頭からは抜け落ちていた。ブラジャーも、腰帯もない為、彼女の豊満な胸は支えるものがなく、激しい動きに従って、ゆさゆさと揺れまくっている。

    チャチャチャチャチャチャチャ、
     チャラッラ、チャラッララ、チャララチャッチャーン
    ンチャチャチャチャチャチャチャ、
     チャラッラ、チャラッララ、チャラッラ、チャラッララ、チャララチャッチャーン

 木琴のスピードが増し、管弦楽の音が高まる。
 胸の上下動が激しくなり、ゆさゆさ、ゆさゆさと、双球が揺れる、揺れる、揺れる。

    ンチャチャチャ、ンチャチャチャ、
     チャ、チャ、チャ、チャ、チャン

 冬獅郎の喉元ぎりぎりに刃を突き出して、乱菊はぴたりと静止し、寝室は静謐に包まれた。
 直後、ぶはっと冬獅郎は噴き出した。
 腹をくの字に折り曲げ、右手で畳をばんばん叩いて爆笑する十番隊隊長など滅多に見られるものではない。仕掛けた乱菊も唖然となって、笑い転げる冬獅郎を見下ろしていた。
 かなり長い間、冬獅郎の笑いの発作は治まらなかった。ようやく、顔を上げた冬獅郎は笑い過ぎた余りに、目尻に涙まで浮かべていた。
「笑い死ぬかと思った」
 まだ少し、肩を震わせながら冬獅郎は言った。
「よりによって『剣の舞』なんて、なんつー選曲だよ」
「吃驚しました?」
 余裕の表情を浮かべながら、乱菊は灰猫を刀架けに戻した。
「これは予想外だった」
 冬獅郎の素直な返しに乱菊が勝ったとばかりに笑顔を浮かべる。だが、冬獅郎もまた、にや、と意地の悪い笑みを唇の端に浮かべた。
「確かに最初は度肝を抜かれたが…、」
「はい?」
「おまえさ、それが透け透け寝間着だっつーこと、完全に忘れてただろう?」
「へ?」
「目の前でマスクメロンが二つ、ゆっさゆっさ揺れて、巨大な白桃がくりんくりん廻って、」
「え?」
「ご馳走さん」
    
 冬獅郎は楽しげに乱菊の手首を掴むと、ぐいっと引き寄せた。彼の胸に飛び込むように倒れ込んだ乱菊を支え、
「たまには京楽もいい仕事するよな」
とにやつきながら、冬獅郎はカシュクールの合わせに手を差し入れ、ぶるんぶるん震えるマスクメロンを鷲掴みにしたのだった。

******************************************

 7周年記念リクエスト小噺 その4

 以前、拍手コメントを頂いた時に名前は出さずにと言われたことがあるので、今回も念の為、リクエスターのHNは出さずに頭文字だけでSさまとさせていただきます。Sさまからは「日番谷君からちょっとアダルティな下着をプレゼントされて困惑ぎみの乱菊姐さん」「十二番隊の薬により少女化した乱菊さん」という二つのリクエストを頂いておりましたが、乱菊さん幼女化の方はどこかで見たようなネタしか思いつかず、オリジナリティに欠ける作品しか出来そうにないのでアダルティ下着ネタの方でリクエストを消化させていただきました。
 とはいえ、拙宅隊長にはランジェリーショップで女性用ランジェリーを調達するとか出来そうにないので、ランジェリーは京楽隊長に入手して頂きました。京楽隊長なら、うっきうきで下着選びしそうです。もちろん、自分の分(七緒ちゃんに着せる用)もセレクトしているに違いありません。
 最後の乱菊さんのダンスは最初はちゃんとベリーダンス用の曲にしようと考えていたのです。しかし、隊長舎にそういうCDがあるのも不自然。いっそ中東テーマのクラシックにするかとYOU−TUBEのお世話になって選曲をしました。曲は運動会のかけっこの定番です。この曲を聞くと走らなきゃいけないという強迫観念に駆られる日本人が結構いるような気がします。それだけに勢いは有り余るような曲なので乱菊姐さんが踊り狂ったら、リオのカーニバルみたいにおっぱいがゆさゆさ揺れる! というわけで「剣の舞」にしてみました。いきなり透け透けナイティで「剣の舞」を踊りまくる乱菊姐さんに呆気のち内心にやにやのエロ親父モードの日番谷隊長でお楽しみください。無論、この後、乱菊姐さんは避けたかったドS攻めで美味しくいただかれるわけですが。
 Sさま大変お待たせをいたしました。リクエスト作品、ここに納品とさせていただきます(ハート)

駄文倉庫に戻る
トップへ戻る
2015.10.12