この話は"revolver"さま掲載の「セラミックガール」の設定をお借りして、その後日譚という形式で書かせていただいております。
作品の掲載を快くご了承して下さいました"revolver"のタカトウさまに感謝いたします。
なお、"revolver"さまは現在サイトを閉鎖されておりますが、一部作品をpixivに掲載していらっしゃいますことをご案内いたします。
「セラミックガール」は2017年1月現在、pixiv未掲載です。
瓶詰めのお星さま
いらっしゃーい。上がって、上がって。
うわ、ようくん、おっきくなったねー。ほんと、子供って成長が早い! この間、会った時はまだよちよちしてたのに、なんかさぁ、機動性が増してない?
ん? 何かな、ようくん?
ああ、これ? 金平糖っていうお菓子よ。お星さまみたいでしょ? 欲しいの?
理都子、あげてもいい? もう、歯は生えてるんでしょ? ああ、大丈夫。一粒ずつあげるから。この大きさなら、間違って飲み込んでも咽喉につかえたりしないって。
え、何? やだ、買ってきたからに決まってるでしょ。そこらの駄菓子屋に売ってるのとはわけが違うんだから。何と、宮内庁御用達のありがたーい老舗のお店で買って来たんだよ。
だって好きなんだもーん。
そうだね、昔は好きじゃなかった。別に嫌いってわけでもなかったけどね。金平糖なんて、レトロちっくなお菓子、単に眼中になかっただけで。
高校三年の冬だよ。金平糖が好きになったの。
おや? ようくんも気に入ったみたいだね。この味が分かるとは、ようくん、通だねぇ。
んん? きっかけぇ?
えーっと。
いや、話してもいいけどさぁ。ダーリンには内緒だよ。アイツ、すぐ、やきもち焼くんだから。
あのさ、覚えてる? アタシたちが高三の夏休み明け、一年に怪しい転校生がどかどか入って来たの。
そう、それっ! 銀髪のどー見たって小学生で日本って飛び級制ってあったっけ? ってな子に何故か付き従ってた派手な集団よ。
あれ、リーダーだった子も高校生には見えなかったけど、付き従ってた連中も、逆の意味で高校生には見えなかったよねぇ。いっつも銀髪坊やに張り付いてた金髪爆乳の女なんて、そのまま銀座ナンバー1ホステスになれそうな色気満々だったしさ。赤毛のパイナップル頭の奴なんて、あの眉、刺青だよねぇ。
そうそう、その木刀持ったツルッパゲと相方のお水系兄ちゃん。
アタシんちに居候してたんだ。
って、そんなに驚かないでよ!
啓吾がねぇ、連れてきたの。うんとね、啓吾が言うには、すっごいやばい奴に襲われて危ないところを助けてもらった、ってか、はっきり言うと脅されたらしいのね、一角に。助けてやる代わりに俺たちを家に泊めろ、って。
そ、一角ってのよ、あのツルッパゲ。
でさ、啓吾はアタシが「ダメ」ってアイツら蹴りだすの期待してたみたいなんだけどねぇ。そうは問屋が卸さないての。
えー、だって、モロに好みだったんだもん。ストライク・ゾーンど真ん中過ぎて、笑っちゃうくらいだった。正しく、一目惚れってやつですよ。スキンヘッドのヤクザな不良と、生徒会長やってる優等生の美少女の恋よ。シチュエーションからして萌えない?
ちょっと、理都子。何で、そこで吹くのよ!? 失礼ね!
ねぇ、ようくんもそう思うよねー?
わーるかったわね。筋金入りのボウズ・フェチで。
だって、かっこいいじゃない、ボウズって。どこかストイックな雰囲気あってさぁ。
とーもーかーくー、一目惚れだったの! 飛び込んできたのよ、恋が! アタシの目の前に…。
分かってたわよう。だって、一角も、弓親も、絶対、高校生なわけないもん。素姓も分からないしさ。泊まるとこなくて、啓吾を脅したなんて、もう犯罪級の怪しさだし。…でも、ね。
好きになってしまったんだ。
信じられないって? そうかな? だって、一角、いい男だったよー。
あのハゲ頭の形もモロに好みだったし。いや、外見だけじゃなくてね。
木刀持ったヤクザな兄さんでさ。強面で、素っ気なくて、でも、いい男だったぁ。何ていうかね、一本、パキっと筋が通ってるてのか…。アタシが、毎朝毎朝、アイツに触れたくて、体当たりしてっても、絶対に避けたりしないの。すんごいしかめっ面してさぁ。思いっきり舌打ちとかもしてさぁ。だけど、拒んだりしないで、ちゃんと受け止めてくれるの。アタシがわざと、ものすごい悪趣味なTシャツを渡しても、憮然とした顔しながらも文句も垂れずに着てくれたし。まぁ、アイツに言わせると、
「寝床もメシもタダで世話してもらって、この上、着物まで文句つけられっか」
らしいんだけど。
そ、律儀でしょー。
分かってたんだ。
アタシの恋は成就しないって。
アイツらは、多分、長くはうちにいない。いなくなるって分かってた。
うん。だって、転校して来たこと自体、すっごく怪しいじゃない。突然やってきたみたいに、突然いなくなるって、アタシ、分かってたんだ。
それでも、好きだったから。
目の前に一角がいる間だけでいいから、一緒にいたいって。
大好き、大好き、大好きって、呆れられても伝えたかった。
だって。ほんとに、ほんっとにいい男だったんだから。あんなにいい男がすぐ傍にいるのに、好きって伝えなきゃ勿体ないじゃない。
手管とか、駆け引きとか、なーんにも思いつかなかった。馬鹿の一つ覚えみたいに「好き」って。それだけ。
アイツらが…、一角がいつ消えても悔やまないで済むように、毎日、体当たりで伝えた。
好きって。
だからね。
一角たちが本当に突然姿を消してしまっても、ああ、行っちゃったんだなぁって。
何しに来たのか、何者だったのかも、未だに知らない。でも、一角たちは用事を終えて、行ってしまったんだってことだけは分かったんだ。
全然、寂しくなかったかって言われると、そりゃ、寂しかったよ。でも、アタシはちゃんと伝えてたから。
全力で伝えてたから。
そうだよ。
本当に挨拶なしで、突然、いなくなったの。
律儀な奴だったからね。いなくなる時は、
「世話になった」
の一言くらいはあるかなーって思わないでもなかったけど…。
でも、いなくなってみると、何にも言わないで黙って消えるのが、やっぱり、一角らしいって納得しちゃったから。
で、アタシの恋は、The End。
と思ってたんだけどね。
その年の暮れよ。
そー、暮れも暮れ。大晦日よ。しかも、紅白で「蛍の光」合唱してる時。
チャイムが鳴ったんだよね。
啓吾に見に行かせたら、何か、あわあわして戻ってきて、
「姉ちゃんに客」
って。
こんな大晦日の夜中に非常識な、って思いながら出ていったらさぁ。
どう見ても任侠ヤクザな兄さんたちが1ダース。ずらっと整列してるの。
ほとんどふた昔前のヤクザ映画か、極妻の世界ですよ。後ろから岩下志麻が現れて啖呵きっても全然違和感がないくらい、見事な任侠っぷりの連中がうちの玄関前に並んでて。さすがのアタシもあれには、引いたわ。
でさぁ、そいつらがアタシに向かって口上を述べるわけよ。
「みづ穂姐さんには、一角兄さんと弓親兄さんがお世話になりました」
って、いっせいに頭を下げて。
びっくりした。任侠ヤクザに頭下げられたのもだけど、それ以上に「一角」って名前に驚いた。え、アイツ、こんなヤクザな兄さんたちを束ねる大物だったの!? って。
一角から言われて来たんだって。世話になったのに、礼も言わずに消えてしまったこと、一角、気にしてたんだって。だけど、なんかゴタゴタしてたみたいで、ずっと手が離せなかったらしいんだ。ようやくゴタゴタの片が付いたから、手下に指示してお礼参りに行かせたってわけ。
本人は来なかったんだけど、黙って消えたと思ってたアイツがちゃんと元気で、アタシのこと、気にかけてくれてたって分かって、嬉しかったなぁ。
その時に、一角からの気持ちだって、おっきな桐箱を渡されたの。
引越しの時に使うダンボール箱あるでしょ? あれくらいのすんごく大きな箱。箱に店の名前が焼印してあって、袱紗もかかった立派な箱をどんと渡されて、
「お納め下さい」
って。アタシ、どこの組の姐さんよ?
おかげで、しばらくご近所で噂になったもんよ。
みづ穂ちゃんが極道の跡取り息子に見初められた、とか。優等生の生徒会長は表の顔で、裏では女だてらに番を張ってる、とか。いいけどね…。
話が見えてきたって?
そー、理都子が想像してる通りだよ。
箱の中身は金平糖だったの。いろんな色で、いろんな味の金平糖がねぇ、綺麗なガラス瓶に詰まって桐箱に並んでたの。そりゃあ、もう大量に。
何で金平糖? ってすっごい疑問だったけど、それ以上に嬉しかった。
ちゃんと伝わってたって。
アタシが好きになった男は、本当に義理堅い、いい男だったんだって。
改めて、惚れ直したっていうか…。
そう。
あの日から、アタシは金平糖が大好きになったの。
もちろん。
全部、食べたよ。一瓶ずつ、大事に大事に。
それっきりだよ。
一角には一度も会ってない。
ああ、そーだね。焼印のお店を探せば、そこから、一角が何者だったかも分かったかもね。
…でも、探す気にはならなかった。
一生懸命に「好き」って伝えて、後悔しないくらい全力でぶつかって、そして、終わった恋だったからね。
アタシの中で区切りはついてたんだ。
今でも、一角のこと、好きだよ。
終わってしまっても、大事な恋だったもん。
だから、好き。
もし、今、一角に会えたら?
うーん、そうだな。
「ありがとう」
かな。
元気で生きててくれて。
アタシが一角のことを好きだったって、ちゃんと覚えていてくれて。
「ありがとう」
おやぁ?
長い付き合いだってのに、今頃、気が付いたの?
そーだよ、アタシってば、可愛い女なんだよ。
自分で言うな?
あはは、いーじゃない。誰も言ってくれないもん。
あ、ほんっとにダーリンには内緒だからね。
理都子のこと、信用して話したんだから。
ようくんもね、しぃーだよ。しぃー。っね。
あ、金平糖、もっと欲しい? じゃ、ママが睨んでるからあと三つだけね。口止め料ってことで。
はい。
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「セラミックガール」後日譚
やってしまいました。
"revolver"さま掲載のお話が好きで、つい書いてしまった三次創作です。元ネタに当たる「セラミックガール」のみづ穂ちゃんの可愛らしさが半分も表現できない自分がかなしい。
叛乱から十年後、みづ穂ちゃんはもう結婚している設定です。彼女の家に高校時代の友人(脳内設定では生徒会の会計)が訪ねて来て、一角さんの想い出話となりました。みづ穂ちゃんの友人の名前が「理都子」なのは"revolver"のタカトウリツコさまへのリスペクトのつもりなのですが、伝わってますでしょうか。
原作の話の流れでは一角さんたちはあのまま尸魂界に戻ってしまったようで、みづ穂ちゃんや啓吾くんに挨拶して帰ったとは思えません。でも、一角さんって律儀そうだから、礼の一言も告げずに消えたことを心苦しく感じていそうな気がしたんです。
お礼の菓子折りが金平糖詰め合わせだったのは、十一番隊では菓子といえば金平糖だから。
一角さんたちが現世に来た時、みづ穂ちゃんが二年生だったのか三年生だったのか悩みました。原作読み返してもよく分からなかったし、ネット検索しても彼女の学年についての記述を見つけられなかったものですから。ただ、弟の啓吾くんが四月一日生まれなので、仮に年子だったとしても一月か二月生まれになるだろうから学年は二つ上がるはずだと思ったのと、彼女が夏休み明けの時点で生徒会長だったので三年生だろうと結論。みづ穂ちゃんの学年について、公式設定をご存知の方はご一報下さい。
最後に、ご迷惑とは思いますが、この駄文をタカトウさまへ捧げます。本当にありがとうございました。